日吉の水路

 日吉大社は比叡山の懐に抱かれ琵琶湖を見下ろす古社で、全国の山王の総本宮である。
境内には清冽な大宮川上流部が流れ、ここから分けられた水は大社下に広がる里坊に配水され庭を潤す。
 豪壮な社殿の間を走る水、そこここからの湧き水、清冽な水を湛えて鬱蒼と茂った神木の影を映す井戸、参道の穴太積みの石垣の脇をゆく水、近江坂本の古社は水に満ち溢れたやしろだった。

西本宮  山手から来る水

 西本宮の玉垣の向こうから流れてくる水。大宮川から取られたものか谷水か定かでないが、驚かされるのは水量の豊富さ。
折からの旱天で琵琶湖の水位も下がり続けているというのに、枯れることを知らぬかのように迸る。勢い余って溢れ出し周囲を濡らしていた。

西本宮本殿前 飛竜の滝 東本宮の水路
宇佐宮から白山宮への水路は滝となって落ちる
東本宮の湧き水 東本宮亀井霊水 東本宮の水路

 ふつう寺社の境内に切られた溝は雨水を流すもので、京都御所の塀を巡るみかわ水ですら時には絶え絶えなのに、ここ日吉大社の溝には常にきれいな水が流れている。東本宮には湧き水まで出ている。口あたりの良い軟水だった。水は集まり、傾斜地を駆け下り大宮川へ入ってゆく。

二宮橋前 里坊へ走る水

 大宮橋付近で大宮川から取られた水は大社の東に広がる里坊群のほうへ流れてゆく。里坊とは山坊に対する言葉で、叡山の山坊で修行していた老僧たちの住まいが街並みを形成するに至ったものである。修行の場の山坊に対し里坊は生活の場である。主に老僧の隠居所であった。
 里坊の特徴は水の流れる庭園を持つものが多いことで、ふだんは見られないが最近はGW期間中に幾つかが公開されている。

参道 穴太積の石垣の脇にも清冽な水が流れる

 坂本里坊群の町並みの今ひとつの特徴は穴太積の石垣である。穴太衆積みともいう。大坂城や彦根城もこの手法で作られた。自然石をそのまま積み上げ間に小石を挟み仕上げる野面積が木々とよくマッチし独特の風情ある風景を作り出している。
その足元にも清冽な水路が巡り、坂を流れ下ってゆく。

門前の蕎麦屋・鶴喜そば ざると鳥なんばん

 水の良いところには旨い蕎麦がある。門前にある老舗の鶴喜そばでお昼を頂いた。野趣溢れる蕎麦の味わいと、幾分濃い目の味付けの出し汁がまことに結構であった。

撮影日 2002.9.1 滋賀県大津市坂本五丁目


▲川を訪ねる旅・目次   ▲サイトトップ