葛城の湧水

〜細井の森さん〜

 そこここに歴史が息づく奈良にあって、葛城の地はひときわ上古の香りを残している。
大物主の鎮もる三輪山と対峙する葛城山の麓には、大和朝廷成立以前からいわゆる「国つ神」を祀る氏族が栄え、時の権力に追われたあとも皇妃を輩出する名族であり、一言主神社・橋本院・高鴨神社などの古い社寺が残る。
 その葛城の里の南端、少し行けば紀州への入口となる五條の町へ出る風の森峠のそばに、ひっそりと泉が湧いている。
泉の外観 泉の水面

 この泉は「細井の森さん」と地元で呼ばれる、細井の森湧水。奈良県御所市南部・鴨神地区と西佐味地区の境付近、葛城南小学校の建つ丘の下に湧いている。
葛城古道を歩く観光客もあまりここまではやって来ない、ひっそりした高原の里で、水は地域の人に用いられてきたものという。二年前初めて訪れた時よりいささか湧出量が減じているようだ。以前は泉底の砂をまきあげて湧く姿が見られたが、このところ雨が少ないせいか環境の変化か判然としないが、濁りこそ出ていないものの水は滞りがちである。

泉のすぐ上に生えている木 同じ木を反対側から

 泉の背後の崖の上には小学校のグラウンドがある。上右の写真に見えているのがそれである。「泉の森」とは言うが、ほんのささやかな、高木が二三本集まった林である。泉のまわりには児童用の遊具が置かれ、ここが地元の人に親しまれている場所なのがわかる。

木にかけられたアスレチック風の遊具 他にも木製の遊具が多数

細井の森さんの丘から吉野・大台の山なみを望む  ↑

 細井の森に湧いた水は水路を伝って流れ出し、丘の下の田畑の脇をめぐって上の写真の右手(南方)へ流れていく。この泉の真東に風の森峠が位置し、大和川水系と紀ノ川水系を分ける分水嶺になっている。泉の北300mほどのところを葛城川源流部が流れているが、泉の水はそこへは入らず南下して北川へ入る。葛城川は曽我川に注ぎ大和川となる川、北川は宇智川に注ぎ紀ノ川となる川なので、この泉の北が大分水界ということになる。水分(みくまり)というのは分水嶺であれ谷中分水界であれ平行分水界であれ、やはり感動ものである。

↑ 風の森峠(国道24号)  道の彼方に見えるのは奈良盆地


撮影地 奈良県御所市鴨神          撮影日 2001.4.22


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