古都のサギコロニー

梅宮大社本殿裏の林 黒谷丘南東部の森

 サギという鳥は寄り集まって巣をかける習性があります。その場所は集団営巣地(コロニー)と呼ばれます。種によって少し様態は異なりますが、異種のサギが集まっての営巣もよく見られます。カワウなども同様の習性を持ち、カワウとサギが混じったコロニーを見ることもあります。こうした場所は昔からよく観察されており、鷺山、鷺の森といった地名が全国に残っています。
 近年、山の際にまで及ぶ宅地開発の波に呑まれた各地のサギのコロニーが消滅してゆく傾向にあります。住処を追われたサギたちはあちこちに散ってゆき、最近では寺社や古墳の樹林帯などでの営巣が聞かれます。過日、鳥を見るのと別の目的で訪れた古都・京都で二件、サギのコロニーに出くわしました。

■ 梅宮大社

 梅宮大社は京都市右京区梅津にある古社で、近くに太秦の撮影所があることから時代劇撮影に使われることもある、神苑の花々で有名な宮です。拝観料を払いながら綺麗な産着を着た赤ちゃんを連れたお宮参りの一家を眺めていると、どこからかぐぇっ、ごぁっ、ぎゃぁ、かたかたと妙な声が聞こえます。入口近くにたくさんヒヨドリがいたのでてっきりそれだと思い、ひどい声のヒヨドリもいるものだと社殿の前に立ってびっくり。殿舎裏側のさして大きくない社叢にびっしりとサギの群れが張りついているのでした。

 優勢なのはアオサギで、八割以上を占めているようでした。コサギやダイサギ、ゴイサギの姿も見えましたがアオサギに押され気味と見受けられました。
もともとアオサギとササゴイは同種のみでコロニーを形成する鳥ですから、他の種が近くで営巣するのを嫌って追い立てているのかも知れません。
アオサギでは巣を懸け終わったものが多く、既に雛が孵っている巣もありました。カップリング中で求愛行動をとっているもの、交尾中のものを観察しました。
アオサギは優勢なので林の上層部に巣を懸けていますが、コサギやゴイサギは中ほどから下あたりに営巣しているようで巣を確認できませんでした。
 巣にじっと残って待っている片割れのもとへ三々五々帰ってくるサギが神社上空を頻繁に飛びます。巣へ帰る前に宮の建物に乗っかっているものも見かけました。建物や木にまだそれほどの汚れはついていないものの、文化財等への糞害が心配されます。また、神社周辺は住宅地なので鳴き声が迷惑にならないかも懸念されます。サギ好きな人間が聞いてもうるさいと感じるほど騒がしく鳴いていました。
音と言えば、神社にお祓いを受けにやって来る方がけっこういて、その度に社殿の太鼓がどぉーんと鳴らされるのですが、サギたちは慣れたのかもともと平気なのか知らん顔でした。因みに、社殿前にいた猫は音で逃げました。

 社殿の真後ろあたりに巣を懸けているカップルのもとでは雛が孵っていました。黒いもそもそした産毛に覆われた雛が時折立ち上がって顔を覗かせます。親鳥は一際大きく美しい羽色をしたアオサギで、巣に帰ると親同士の鳴き交わしとクラッタリングののち雛に餌を与えていました。給餌は例のゲロ吐き方式(食事中の方ごめんなさい)で行っていました。

 32倍のフルズームなのでぼやけた画ですが、親鳥の左足もとにいる雛が判るでしょうか。これはいちばん大きく育っている雛で、望遠鏡で見ると巣の中には計三羽の雛がいるのが確認できました。この巣の親鳥は大きいだけでなく気も強く、カラスが巣に近づくと羽を大きく広げて威嚇していました。

■ 黒谷

 山科から洛中へ移動中、白川通から丸太町通へ曲がる天王町の交差点を通過した時、黒谷の丘の木に点々と何かが見え、慌てて車を停め観察しました。つい先日金戒光明寺を訪れた際に見上げた丘には多数の声が聞こえるばかりで姿を見られなかったのですが、離れた場所からは一目瞭然、巨大なコロニーでした。

 先を急いでいたので遠くからの観察のみでしたが、ざっと見たところではここもアオサギが優勢のようでした。黒谷は丘の上に古刹が二つ建っていて丘のほとんどが寺域となっています。また丘の南東部は切り立っており人があまり近づかないのでここを営巣地に選んだものと思われます。サギたちはここと鴨川を行ったり来たりしているようです。ただ、この丘は市中にぽっかりあるもので、周囲には住宅が建て込んでいて、鳴き声と糞害の苦情は既に上がっているものと思われます。今後が懸念されるコロニーです。下写真の屋根は東天王町のエッソのガソリンスタンドの屋根です。都会の人の暮らしとこれだけ近いところにコロニーがあるのはやはり不自然と言わざるを得ません。

撮影日 2002/5/19 京都市右京区梅津フケノ川町/京都市左京区岡崎東天王町


 近年、不景気にも関わらず宅地造成や道路建設など郊外の開発はやみません。また河川改修の際の中洲浚えや高水敷整備による河畔林の破壊など、サギたちが巣を懸ける場所は年々少なくなっています。その結果としての都市進出で人の暮らしに被害が出る、追い払う、また他所で被害が出る。これでは問題は解決せずいたちごっこが続くだけです。どう折り合いをつけて暮らしてゆくか、生態系に真に配慮した行政手腕が問われるところです。各地で繁殖時期を考慮して工事を延ばしたり、デコイを使っての誘導など様々な試みがなされていると聞きます。朗報を期待します。


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