旅先で見掛けた、川に打ち捨てられた古い木造船。
材は朽ち船底には泥溜まり辛うじて浮いている、もう動かない船。
詠まれた場所も状況も違うのに脳裏に浮かんだ黒人(くろひと)の万葉歌。
高市黒人は旅の歌人。
身に凍みとおるような漂泊の思い。
湖西で詠まれたうたにも秀逸なものがあった。
吾が船は比良の湊に漕ぎ泊てむ。沖へな放り。さ夜更けにけり
何処にか吾は宿らむ。高島の勝野の原にこの日暮れなば
率ひて漕ぎ行く船は高島の安曇の湊に泊てにけむかも
西行より芭蕉より私にはしっくり来る黒人の歌。
撮影 2002.3.31 滋賀県草津市南山田町、山寺川