大和川源流行

■ 大和高原へ

 西名阪自動車道を東へ。新設された天理SAで朝食。ここには従来型のドライブイン風のスナックは無く、牛丼の「松屋」が入っている。半額セール中の牛丼\290・味噌汁つき。吉牛より少しあっさりめ。供される茶が意外と旨い。SAをあとに再び東へ。天理を過ぎ五ケ谷にさしかかると雨の気配。対向車線ではトラックを含め三台ばかり玉突き事故を起こしている。怪我人はいなかった模様だが、つくづく事故の多い場所ではある。ついこの間も五ケ谷では谷底に車が転落したというニュースを聞いたし、暗くなってからここを通るのはよそうと思う。雨脚が強くなってくる。前途多難か。
 針ICで高速を下りる(もうここは有料道路ではないのだが)。奈良県山辺郡都祁村。大和高原は冷たい柔らかな雨に煙っていた。ICからそのまま国道369号を南下、白石の交差点で右折、県道781号柘植名張線を西へ。村中の細い道で、大きいセダンなどではきついように感じたが、よく見るとバス停があるから、バスも通るわけで、バスの運転手も大変だなと思う。並松交差点で道を北側に入り都祁水分神社(都祁村友田)へ。

 延喜式内社で、風雨祈願の神である。葛城・宇陀・吉野と共に大和4大水分と称される。このすぐ南にある山口神社が元の宮で、ここには山霊を祀った岩磐があったという。そこに白龍二頭が顕現し、ひとつはここ都祁に、ひとつは宇陀へ勧請され宇陀水分神社となったと伝える。社叢は明るい疎林で、1998年の台風被害を受け倒れた木も多かったらしい。

■ 二つの川の源流

 上の小川は都祁水分神社のすぐ西を流れる、布目川の源流のひとつ。都祁村南端の小山戸地区の真平山に発するもので、このあと社を巻くように曲流し北上、木津川に注ぐ。この川とごく小さな起伏を隔てて大和川の源流が発するのである。したがって都祁村藺生(いお)地区北部の県道781号都祁名張線と38号桜井都祁線に囲まれた三角形の部分が、大和川と淀川の平行分水界を成すと言える。柔らかな雨音と鳥の声しか聞こえない静かな山里から大阪湾に注ぐ二大河川がひそやかに始まっている。

■ 大和川のはじまり

大和高原からの水

 まず、一つ目の源流は都祁村藺生の38号桜井都祁線を南下し、山辺高校前を過ぎて県道781号と交差する付近、ここはほんの少し小高い丘になっていて、交差点南東角の蕎麦屋の裏手と南西角の工場・三栄の資材置き場付近から細い細い溝が始まっていて、共に桜井都祁線沿いに南下してゆく。この道は南に下ると山の中に分け入って行くが、下るにつれ溝はだんだんと太く水も多くなってゆく。

上右の写真が桜井都祁線沿いの小溝で、都祁村藺生作木の工場・ミマスの建物の南から撮ったもの。左手から細い流れが合わさって来ている。このあたりからは川幅もようやく1mを越すくらいになってくる。上左の写真は同じく作木の、大和川最源流左岸に流れ込む谷水のひとつ。ほんとうにささやかな流れである。この先は桜井市となる。

天理市福住町からの水

 もう一方の源流は天理市にある。天理市福住町の名阪国道福住ICから国道25号(旧道のほう)を南下すると老人ホームやすらぎ園が左手に見える。この敷地の奥から始まる小さな流れが桜井市小夫でさきほどの都祁村から桜井都祁線沿いに流下する細流に合流してゆく。園には関係者以外入れないので、裏から林道をかき分けて行くが、新たな造成がこの付近で始まっていて、またおきまりのゴルフ場や山中にいきなり現れる工業団地、半ば放棄された田畑などで山は荒れ、なかなかこれと源流を特定しにくい状況にある。いずれにせよ、天理市福住町南部のそこここの谷地田からの水や小さな崖地などから湧く細流がだんだんと集まり桜井市のほうへ流れていくというのがこの源流の様相である。

上の写真がその流れがついに一本に集まり桜井都祁線沿いの流れに注がんとする地点のもので、場所は桜井市小夫北縁の谷地田の中。軽自動車がギリギリの細い農道から撮影。流れは清冽で水量も多い。天理市で見た細い流れの幾つかや谷地田の湧水はあまりきれいなものとは言えなかったが、川の流れの作用で浄化されたのであろう。しかし源流部の開発にはいま少し気を遣うべきであり、まして山中で散見される不法投棄は許されるものではない。だいいち、こんな山の中を開発して採算がとれるものなのか大いに疑問である。また、悪質な例として、産業廃棄物が野積みされている所もあり、染み出している赤い水などいったい何を含んでいるのか空恐ろしいものがある。
 なお、この流れが発生するあたりの福住町は小盆地となっており、同一水系ではあるものの高瀬川(佐保川支流)や布留川と分水界を接する。

貝ケ平山からの水

 よくものの本には大和川源流地点として桜井市の貝ケ平山が挙げられているが、これは初瀬ダムとなる手前で南下する流れに左岸から流入する芹井川を指すものと思われる。これについては芹井川の項を参照されたい。

■ 大和川上流

 更に38号桜井都祁線を下り大和川源流を探索する。桜井市小夫では道が大きく崩れたままになっていて迂回路が作られている。これは1998年9月の台風7号と8月末の大雨によって被害を受けたもので、未だ完全復旧には至っていない。この台風は例の室生寺の五重塔を破損したもので、奈良県では第二室戸台風以来史上三番目となる大規模なものであった。通過時の規模は960ha、風速40m/sで、多くの山の植林杉をなぎ倒した。
また、小夫地区には「化粧壷の水」と称する水が湧いていて、柔らかなおいしい水であるが、上手に天理ゴルフ倶楽部があるのが気になる。
 小夫地区南部からは道も少し太くなり、左側には幾つか「笠荒神参道こちら」と記された看板が見える。地元の信仰篤い神社で、社前には地区のご婦人たちが運営なさっていると思しい蕎麦屋があって、昼前後の時間帯にはたくさんの車が荒神さん目指して走って行く。蕎麦はしゃっきりと打たれた更科ふうのものでなかなか旨いものであった。
 その荒神さん付近から滝川がまず流れ込んでくる。

上の写真は滝川が流れ込むあたりの初瀬川・大和川上流の姿。下流方向を見たもの。護岸も未だ自然のままで、水も見た目はきれいである。写真を撮ろうと車を降り川原を覗き込むとカワラヒワの大群が一斉に飛び立った。

■ 初瀬ダム

 大和川源流とされることもある芹井川が流れ込んだあと、少し下った和田橋の下あたりから水は滞り始める。初瀬ダムの影響である。落神橋付近ではもう水を満々と湛え、ダム湖の様相を呈する。ダム湖には「まほろば湖」という名が付けられている。

ダムの上部に萱森川と口の倉川が、ダムの直下に倉鳥川が流れ込んでくる。ダムは重力式コンクリートダムで、多目的。堤高55m、有効貯水量374万立方m。桜井市の上水道水源ともなっている。穴開き式の自然調節で表面水を流し洪水調節を行う。この日、冷たい雨のそぼ降る初瀬川上流にはもやがかかり、「隠口の初瀬の山の山の際ににいさよふ雲」を実感する。また、ダム湖にはカイツブリ・カンムリカイツブリ・コガモなどの水鳥の姿が見られた。ここではヤマセミなども見られるそうである。また、ダム下にはアオサギ・コガモ・セグロセキレイの姿を見た。近年、ここにブラックバスを放り込む輩がいると聞くが、困ったものである。
 このあと道は古刹・長谷寺の門前を過ぎ、土産物を売る店が軒を並べる商店街に入ってゆく。

■ 初瀬峡谷

 長谷寺を過ぎ、川は山峡を抜け国道165号線沿いの比較的広い谷底平野を流れることになる。桜井市吉隠から近鉄大阪線大和朝倉駅付近まで続く初瀬峡谷である。川相はほぼ中流域の様相を呈すが、流れの中には大石も混じり渓流の相も見える。また、峡谷には棚田が作られ、特に吉隠地区のものは壮観である。

上の写真は桜井市初瀬の桜井東中学グラウンド脇の橋上から下流方向を見たもの。川はこのあと三輪山の裾をめぐり平野に出て大和盆地を北西に流れてゆく。

初瀬川(大和川)源流部水系図

撮影日  2000.12.3


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