必殺からくり人 血風編キャスト
土左ヱ門/山崎努
直次郎/浜畑賢吉
新之介/ピーター
おいね/吉田日出子
白濱屋おりく/草笛光子

1976-1977ABC

 時は幕末も最も極まった鳥羽伏見戦役以降、ところは品川宿。明日にも官軍が攻め寄せてくるという緊迫した情勢下、お台場からの砲声響くなかまだ殷賑を極める盛り場が舞台となる。
品川の旅籠・白濱屋では連日「ええじゃないか」の放埓な大騒ぎが繰り広げられ、幕府の品川警備隊が常連客。
白濱屋は酒肆と女郎屋を兼ねた宿、穀潰しの遊び人の亭主を持つ女将は親から継いだ裏の顔を持つ。
風雲急を告げるなか、その裏稼業になし崩しに参入する男あり、本名も明かさないまま居着く謎めいたその男は官軍の密偵であったが、次第に仲間としてどっぷり浸かってゆき中心メンバーとなる。短い時のなか結ばれる心あり離れる気持あり、集合と離散の果て明治の御世をよそに見て彼らは別れゆく。


第1話「魔窟に潜む紅い風」1976.10.29

 時は慶応四年、官軍東征に緊迫の品川宿。臨時の検問所が設けられ、大砲の試し撃ちの音が響き騒然。そんななか、白濱屋に通行手形を頼みに来る旅の母子あり、身を売ってでもヤミの手形を入手しようとするが汚い役人たちの魔手に落ちてしまう。お話はこれが主軸で、チーム各人の個性が手際よく語られ、拾われて仕置に参加する土左ヱ門の経緯は事件にうまく絡めてある。

ロケ地
・三田の薩摩藩邸、相国寺林光院(内側からの撮り)
・お寺で茶を運ぶ新之介について歩き「からくり人か」と口にする土左、黄檗山萬福寺天王殿から開山堂にかけての回廊。
*土左ヱ門参加の経緯がやはり見もの。官軍の密偵であることはおりくに看破されており、土左はスーパーロジックで強引に押し通す。からくり人たちが身構えるシーンも秀逸、おいねの鎌が見られるのは確かこの回だけ。


第2話「非道にたてつく紅い刃」1976.11.5

 土左ヱ門に榎本武揚暗殺の指令が短筒とともに来る。また、直次郎を育ててくれた女郎・お梅(現役・51歳)が転がり込む。着々と暗殺の準備をする土左の話と、お梅が貯めこんだ金を盗られて殺される悲話が描かれ、最後はお梅殺害犯に仕置が下される。奇しくもターゲットは土左の同志を殺した男で、憎悪は倍加され血の雨が降る。

ロケ地
・お梅が気弱そうな兵士と心中しに来る桟橋、広沢池東岸
・直次郎の名で騙され呼び出されるお梅、広沢池東堤並木。消されるのは桟橋上。
*捨て子で、女郎に拾われ遊里で育った直次郎の過去が語られる。お梅には浅香光代、べったべたの女の性を熱演。同時にこれもベタの母性が描かれる。*土左の得物は支給された短筒、もう倒れてるのに四発も発射。


第3話「怒りが火を噴く紅い銃口」1976.11.12

 時代を読み官軍に投資しようとする商人。しかしその金はとてつもない汚いやり口で得たものだった。これに絡んで直の幼馴染が相次いで殺され、怒りに燃える彼におりくも単独行動を許可、官軍がらみと踏んだ直が土左をシメるシーンも描かれる。そして結局皆で薩摩藩士に決死の覚悟でかかってゆくが、ここに土左の援護射撃が来て味方をも撃ち貫くのだった。

ロケ地
・伊勢屋が金を隠匿する水車小屋、堀川河床(改修前の涸れ川)にセット。
・伊勢屋とツナギをとった帰り、行為の卑劣さをボヤく土左、降りた堀に直が待っていてびっくりは嵐山公園中州岸。その後船に乗った二人が着く木杭、桂川大堰(ここに直の幼馴染の死体が引っ掛かっている)
・土左に一服盛られた直をおぶって歩く幼馴染の男が撃たれる汀、中州岸→撃たれて川にドボン。その後死体は流され水路の堰堤(桂川用水取水口の横)をずり落ちる。
・おりくへの思いのことで追っかけっこの直と土左、中ノ島橋上金戒光明寺石段中程(この部分は止め絵をコマ送り、石段では徐々に距離を縮めるさまが表現される)
・水車小屋、不要となった者たちを射殺するスナイパー、土左が追い詰め刺殺し川へ投げ落とす、中州舳先付近。
・水車小屋から金が搬出されるところを襲う直たち、土左は中ノ島橋の橋脚にまたがり遠方から援護。
・小屋からの帰り、土左の背を見つめるおりくと直、中ノ島橋(土左はライフル担いで橋下)。事後、闘鶏に興じる土左、鳥居本八幡宮舞殿脇〜鳥居下。
*水車小屋内部の描写、普通の水ぐるまでなく、珍しいバッタン(唐臼)が使われているのも面白い。


第4話「大奥の天下に挑む紅い声」1976.11.19

 直が拾った捨て子は幻の16代将軍、この期に及んで後継がらみの陰謀を画策する大奥のお局さまが描かれる。仕事は直の個人的感情からのものでまたタダ働き、しかし実行には新之介の協力なくして不可能ゆえ直さん自腹切って十両を置く(でも借金)

ロケ地
・新之介の寺へ参詣のお局さま・染井、相国寺回廊。和尚に相手を頼まれ「誰があんな糞婆と」と毒づく新之介、方丈(内側から入口付近を見たショット)。ふりきって出てきて「可愛そうな新之介」と呟くのは法堂基壇南東角。
・長持に入れられ江戸城御局御門をくぐる新之介、大覚寺勅使門橋
・イメージの天守、彦根城
*お局と結託の商人のもとへは直と土左、この際おいねが金を盗ってきて直さんに渡す、これをおりくも肯定。


第5話「死へ走る兄弟の紅い情念」1976.11.26

 おりくの元許婚者が現れる。別れた理由はからくり人稼業の継承、今その理不尽な別れの償いをと膝を折るおりくの姿が泣かせる。
洋妾がらみの事件で捕まった若侍が一人仕置場に晒され、兄は黙ってその前に座り続ける。その姿は民衆を動かし暴動が発生、やっかい払いに処刑が早められるところへ、からくり人たちが奇計を用いて奪取する。土左の「屋根からライフルで援護射撃」はあるものの、チームの殺しは無し。

ロケ地
・洋妾の駕籠と騎馬の異人がゆく道、下鴨神社馬場。このあと神社へずかずか入り土足で舞殿を闊歩、楼門を騎馬で出てくるところへ「天誅」、この騒ぎのなか洋妾にされた恋人をさらう紺次郎、林間へ逃れる。
・追い詰められ海にドボンは保津峡落合崖上の道〜巖頭。
・洋三と会い紺次郎奪還の依頼を出してくれと迫った帰り、土左にまつわりつかれるおりく、琵琶湖岸
・彰義隊が籠る上野のお山、粟生光明寺山門〜石段上部(本堂大屋根バック)、この部分は止め絵で。


第6話「悲恋を葬る紅い涙」1976.12.3

 公にはできぬ仲の幇間と深川芸者の夫婦、女の晴れ舞台を飾ってやりたくて借りた高価な簪、この一本が二人を死地に追いやる。
舞台が深川から品川に移るとお話はいきなり殺伐、三十両の支度金欲しさに幇間は海軍に身を投じ、金を返すため芸者を身売りを決意する。別々に起こした行動、二人が再会するのは欲まみれの艦長のキャビンだった。
 ロケ地、賭場ですった帰りの土左が海軍兵士(新之介の寺が宿舎)と行き会う寺の回廊、相国寺方丈前。宇佐美の閲兵、方丈前庭。幇間と芸者の死体上がる浜、広沢池東岸汀。
*兵士姿の彦六(幇間)と白濱屋で交歓の土左さん、開洋丸に乗り込みライフルをぶっ放す際にはこのとき共に唄った戯れ歌を口にするのも面白い。


第7話「恨みに棹さす紅い精霊船」1976.12.10

 白濱屋で景気よく金をばらまく講の一団、おいねの客になった世間知らずっぽい若者は彼女に妙なユートピアを説き、遂には連れ去る。その後、一団がとんでもない悪辣にして凶暴な集団と知れる。
おいねが去って寂しくてヤケ酒を呷るおりく、男達がささっと寄ってくるのが笑える。また、謎の精霊村を探すくだりも凝っていて面白い。

ロケ地
・精霊村は常より派手な爆破シーンがあるので、いずこかの砕石場と思われる。うらごろしのガレ場にもよく似ている。ここから逃げた男が撃たれて海ドボンは保津峡落合巌頭。
・軍艦見張りがてら釣りの土左ヱ門、琵琶湖西岸・桟橋上(ここで三崎屋のどら息子の死体発見)。遠出を密偵仲間に告げる土左さんのシーンはこの桟橋の下。
・おりくが沖に船を出して精霊村へ届くよう精霊船を流す、琵琶湖(遠景に高島の岬)
・精霊村を探し疲れた三人がへたりこむ崖、保津峡落合巌頭。流れついたおりくの精霊船を見つけ伝う岩場は落下岩(見上げ)


第8話「帰らぬ愛に泣く紅い旅」1976.12.17

 情勢更に緊迫、品川宿には箱根の戦の敗残兵が帰着。重傷を負い明日をも知れぬその一人が白濱屋に保護されるが、将来を誓い合った女は品川でジゴロの食い物にされる女郎と成り果てていた。同情したおりくが最後のひととき思う男と添わせたいと願う心も空しく、性悪なジゴロの手管で惰性に流れた女は、知られたくない身の上を瀕死の男に聞かれたうえ死に目に会えずに終わる。

ロケ地
・日々に倦む女が佇む浜辺、および狂女となって彷徨う多摩川べり、罧原堤下汀
*ジゴロに綿引洪、乱暴で冷血な色悪を熱演、もうドロドロ。


第9話「小判が目をむく紅い闇」1976.12.24

 いよいよ不安定な世相、官軍の密偵が商家に金を要求してもなんら不思議でない状況のもと、大騙りが出る。その事件の巨額の隠し金から女郎のヘソクリまで、隠匿方法がさまざまに描かれそれぞれに趣向が凝らされる。メインのお話は、ニセ官軍をでっち上げ兄の店を乗っ取る菅貫の陰謀。これに、兄と組んで美人局稼業を張る娘を慕う按摩の哀話がからむ。

ロケ地
・金を騙し取った男に追われるおさよが逃げ込む鎮守、鳥居本八幡宮
・湊屋の墓所、相国寺墓地(前の主人の妾を伴うおりくは大光明寺南路地)
・ラスト、ヘソクリ隠したお手玉を求め子らを追う女郎、中ノ島橋上。
*菅貫がおさよをねぶねぶのくだり、女優さんキレイなのに菅貫だからかなんかヘン。彼女に恋する按摩はすごくイイ人設定だけど、金隠した壺にはにょろにょろ毒蛇飼ってて、盗るほうが悪いとはいえちょっと怖い。


第10話「とらぬ狸の紅い舌」1977.1.7

 品川に官軍迫り、民衆は逃げ回り火災避けに家がはつられたり騒然。そんな情勢のもと、暴落した土地を買って一山当てようとする田舎のボン、きっちり詐欺に遭い有り金を無くしてしまう。挙句の果て官軍の先乗りの甘言にうまうまと乗せられ、大金詐取の芝居の道具に使われたうえ斬り殺されるという悲惨。これに裏で進行していたもうひとつのドラマ、ボン夫婦と同郷でボンを慕っていた女郎が、残された妻に夫の遺恨晴らしを示唆するお話が乗せられる。ドライな演技ながら、ねっとりと重いエピソード。

ロケ地
・土地ころがし屋に騙される栄吉が連れ込まれる龍泉寺、粟生光明寺阿弥陀堂
・有り金なくし茫然と佇む夫婦、広沢池東岸
・賭場にころがし屋を見つけ追う栄吉、相国寺回廊粟生光明寺石段上部(ここでころがし屋とグルの官軍につかまり、うまい話を持ちかけられる)
・先乗りの男が勝手に金策と密書を受けた土左ヱ門が赴く総督府、相国寺大光明寺南路地法堂
*官軍の先乗りが居座る寺として「龍泉寺」の名が宿場の旦那衆の口から出て、ピーターの寺で開かれている賭場と先乗りのいる寺とは同所のように描かれるが、今ひとつ細かい部分は不明。


第11話「夜明けに散った紅い命」1977.1.14

 品川には官軍が拠点を置き、「幕府の手先」を摘発しまくる。江戸城が既に無血開城され世の趨勢は定まったなかの摘発は、新政府におけるポスト狙いの汚い行為。しかし人はこれに媚び諂い、陰で泣くのは女たち。表稼業が立ち行かなくなった直次郎は、おりくを挟んだ土左ヱ門への反発もあってか官軍の首狩り犬となってしまい、女たちに嘆きを見せる羽目に陥った挙句裏稼業が露見し、血塗れの膾となって死んでゆく。その不本意とおりくへの思いを汲んだ土左ヱ門は、おりくの衣で彼を包んで送り、官軍へは戻らぬ覚悟で仇を討ちにゆくのだった。

ロケ地
・鈴ヶ森刑場、下鴨神社糺の森池跡・林間。
・直次郎をイヌに誘う仙吉、相国寺庫裏前。官軍の品川警備隊長に会いにゆく土左ヱ門、法堂回廊
・直次郎の遺骸を海に放す土左ヱ門、保津峡
・彰義隊の戦が勃発する上野の御山、金戒光明寺三門下に砲台セット。
・残された三人が別れゆく砲声届く荒野、砕石場か崩壊地形か、風化が激しい。


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