尻啖え孫市

三隅研次監督作品 1969.9.13大映


 希代の快男児・雑賀孫市を中村錦之助が演じた戦国もの。彼と心を通わせる木下藤吉郎に中村賀津雄(当時はこの表記)、信長にカツシン。孫市の親父には志村喬、飄々としてここでもフクロウみたい。

 お話は、「信長の妹」に一目惚れの孫市が織田家に接触することからはじまり、朝倉攻めに参加し雑賀衆の実力を見せつけ、偽者の姫をあてがわれ激怒するまでを前段とする。後段は、信長に敵対する孫市を描く。信長憎さと女がらみで、孫市は本願寺に肩入れすることになる。

 孫市は全編通じて藤吉郎には好意的、敵味方を越えた友情が描かれ、弟・賀津雄とのやりとりが見もの。おんなじ顔がふたぁつ並んで微妙に方向性の異なる演技を見せる、後の作品でもしばしば見られるが、二人とも若いこの頃のツーショットは見応えアリ。カツシンの信長は少々恰幅が良すぎるものの、人となりはよく出ていて、武家貴族の品格も充分。運命の女・小みちは、原作にある種子島家の血筋という設定はなく、本願寺僧・法専坊の妹で門徒。
 ビジュアルはなかなかに戦国の風をよく描く。孫市の真っ赤な袖無し陣羽織に八咫烏マークが目を引くほか、手筒山砦のセットが秀逸でモブシーンも大映らしく派手で見せる。尻啖えペンペンは生尻でなくて股引。連載中現地から苦情が出たという孫市の大らかすぎる助平ぶりは、もちろん控えめ。尺ゆえか、紀州に帰還した若太夫は一向宗に人気をとられて寂しいお国入り設定なので、原作にある紀州の闊達な豊かさが表現されず、なんだかうらぶれた漁村みたいなのがちょっと残念。


勧修寺ロケ地
・岐阜城、彦根城天守
・孫市に接触した藤吉郎が「信長の妹」を所望と聞く、上賀茂神社北神饌所
・信長に会いに岐阜城へ入る孫市、彦根城天秤櫓
・名古屋・物部天神への道を女を求めて走る孫市、大覚寺大沢池堤
・雑賀衆の試技上覧に際し、護衛の手勢を率い入城の柴田勝家、藤吉郎と押し問答は彦根城太鼓門櫓
・試技を前に、不愉快な事態となった際は自分を殺せと孫市に告げる藤吉郎、山科勧修寺山門と塀。ひらひらと舞いつつ雑賀衆の手並みを見せつける試技は、庭園・氷池園(信長の座所は大悲閣前、舞いは芝地、朝倉の忍びが撃たれて落ちるのは氷室池)
・朝倉攻めの織田の軍勢がゆく北国街道、木津堤流れ橋(橋上で孫市らが待っている)
以降、野道続くが一部天神川と思われる一件あり。
・馬上の孫市の回想、一目惚れした美女が市女笠でゆく清水寺、本物(娘は舞台下の道を来て音羽の滝方面へ段をおりる。孫市の位置は滝の前あたり、八咫烏を背負った後姿。このシーンに先立って舞台を見上げた絵も挿入されている)
・騙り姫がバレて孫市をしくじったことを信長に報告の藤吉郎、相国寺方丈前庭(設定は信長の宿館・妙覚寺)
・堺へ鉄砲買い付けに赴く孫市、後で小みちを伴っての帰路も落合崖の登り道。小休止して露草を渡す水辺は河口付近、設定は風吹峠。


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