泥棒と殿様

津島勝監督作品 2000松竹京都/CAL


 山本周五郎の小説を映像化した一作、ともすればカタい山周ものは、「泥棒」伝九郎に火野正平を迎え明朗でわかりやすい独特のムードを得る。氏の、シナリオを逸脱したかとも思える独特の演技は、廃人寸前の「若殿」を甦らせるに充分な説得力を持っていて、うつくしい風景と相俟って時を忘れさせる。

 お話は、食い詰めた男の、思いあまっての「はじめてのどろぼう」の口開けがとんだ化物屋敷という椿事に始まる。建具はがたがた、どうかすると天井も落ちてくるその荒れ屋敷には、座して死を待つ「若殿」が幽閉されていたのだった。
事情もわからぬまま、若様に飯を食わせかまう「泥棒」、共に暮らすうち芽生える情、しかし生れ落ちた星の性はやがて二人を別離へと導く。
ラスト、領民のことを親身に慮る立派な殿様にとのおきまりの展開になるが、説教臭さは火野氏の横溢する個性に掻き消され、それでいてしんみりと身に沁みる話となっている。

ロケ地
・幽閉の屋敷、民家正面・西側通用門・裏手。
・一旦屋敷を辞する伝九郎がゆく川辺、清滝河原。戻る道で刺客を見るのは保津峡落合崖の登り道。
・「若様」を食わせるため野良のバイトに出る伝九郎、山室・堤外地の畑。「若様」と魚獲りのクリーク、七谷川か。
・蟄居を命じられた松平成信の駕籠が出る門、大覚寺大門
・山でキノコ採りのあと休む谷あい、落合河口
・伝九郎の回想、女房に去られたあと子と旅する道程、雨宿りは大覚寺五社明神舞殿。里の子に追われる畑、美山か。伝九郎の子の塚、若狭か。
・ノブさんが射られて逃げる山道、落合崖道。伝九郎が家老・梶田に招じ入れられ若様を返してくれるよう懇願される家、民家


*原作の「化物屋敷」は松平藩領、黒谷の山荘・鬼塚山の御殿。若様の祖父が一時使ったのち二十年も放置された廃屋、という設定。城からは五里離れている。黒谷の渓流を上がると鬼塚山、表は里に面し、裏は二千坪の庭があり黒塚山に続き、柵はとうに朽ち狐狸の棲みかで猪や熊も入ってくると書かれている。

参考文献
山本周五郎著「人情裏長屋」所収『泥棒と若殿』 新潮文庫 ISBN4-10-113432-4


・日記目次 ・ロケ地探訪 ・ロケ地探訪テキスト版目次 ・ロケ地一覧 ・時代劇の風景トップ  ・サイトトップ