剣客商売 助太刀

剣客商売スペシャル、2004.12.14CX

 タイトル通りの仇討ちもの。仇の設定をふくらませ名優を数多く迎えて、情味あふれる作り。
大筋は原作通りの少年の仇討ち話で師弟の設定もそのままだが、師の関わりは仇討ち前に終わり「助太刀」は大治郎が引き継ぐかたちとなる。
扇売りの浪人に無体をはたらく旗本の馬鹿息子どもも原作通りに出てくるが、首魁の若様についている用人に本田博太郎を起用しこれが狂乱暗黒系なので、原作にはない、陰謀の糸を一手に操るフィクサーに仕立ててある。
仇は道場主設定のみそのままで別のキャラクターが創出されており、原作にある男色変態さん部分はカットされ、主家を出奔し仇と狙われる理由となった不義の仲の女に純愛設定。彼が騙して入り込む道場が小兵衛の剣友のところで、このドラマの見どころのひとつである老剣客の父と婚期を逸した娘が登場する運びとなる。
 お話の落としどころは原作と同じく、憎悪のループを断ち切るという田沼さまの意思が示され、仇の道場主の「女」がそれを体現するうまいシナリオ。裏で道場主を操っていた用人は自裁と語られ、劇中にあった手招きのイメージカットが入るのみだが、本田氏の怪演が利いているので詰腹のくだりがなにやら脳裏に来るあたりも憎いつくり。

神護寺金堂下、ラス立ちの舞台

ロケ地抄録

田沼の呼び出しを受けおはるの操る船で大川を渡る小兵衛、西の湖(カルガモつがいのショット入り)
扇売りに出ている林牛之助、上賀茂神社ならの小川(原作設定は柳原土手で堤の描写があるが、ドラマでも見物が対岸にいる画あり)
林浪人を襲った馬鹿息子の家・旗本高田壱岐守邸、随心院長屋門
茶店の女に林浪人の居所を聞いて赴く大治郎、途上は大覚寺大沢池南堤から五大堂を見るショット、林浪人の寓居は天神島祠脇にセット、大木下で林と伊織少年が剣のお稽古、大治郎と林が話すあいだ伊織が佇む水辺は天神島北辺汀(原作では牛込祟伝寺あたりの小川畔、劇中では団子坂の禅寺・祟竜寺の弁天島)
林の回想の伊織少年を拾った中仙道鳥居峠(伊織の兄が発作で頓死)琴滝前。
旧友の酒井善蔵と釣りの小兵衛、沢ノ池東岸汀。
酒井の娘婿・忠兵衛の帰り道、妙心寺大通院裏手路地(南東角)
酒井の娘・お信の回想、父の薬を取りに行った帰り忠兵衛と「何度も」会う門、仁和寺中門(内側から二王門を望むショット)
大治郎に伊織を預けるよう頼んだ帰り、伊織が他所に預けるのは自分を嫌ってかと師に問う、大覚寺大沢池北畔・遣水旧跡付近。彼らに殺到する刺客、大沢池北畔の林間。
父の隠宅へ赴き、酒井道場門弟の行跡を告げ了解をとる大治郎、酵素民家セット。
月に一度の遠出(情婦宅へ金を届けにゆく)の忠兵衛を尾行する弥七たち、妙心寺大通院裏塀(南向き・北向きを巧みに使って動線を表現)
田沼邸、随心院薬医門。小兵衛が通される座敷は書院
道場傍の林で伊織に真剣の稽古をつける大治郎、仁和寺疎林(バックに瓦練込塀)
伊織の果たし状を受け卑怯にも大人数を伏せて待ち構える忠兵衛、神護寺仁王門前石段(設定は護持院で門に看板掲示、伊織を連れた大治郎が登る石段の一部は茶店前のクランク、仇討ちの大立ち回りは本堂石段下・毘沙門堂と五大堂の前、お信が駆けつける際通る林は参道南側の林間)


*ドラマの根幹を成す男女関係は二通り、逃亡した不倫カップルと、偽りの夫婦。前者の女には日陰者の暮らし、後者の女には嫁かず後家がようやく掴んだ安楽。男と逃げた時点での激情を幸福の絶頂として自己完結する女と、眼前の幸福に執着し惑いのうちに足掻く女と、運命に翻弄される女たちの悲哀を、仇討ちという理不尽な侍のしきたりにオーバーラップさせて描く。
*若様の尻拭いを長年務めて上げて妖怪じみた存在となった用人の本田博太郎、わるさをしてきた若様にすりすりと寄る仕草も、忠兵衛を手招く仕草も、ねっとりと不気味。押し殺した声がたまらない魅力の、キレた系本田氏はやっぱり凄い。
*小兵衛の剣友で娘の幸福のため醜態を晒す酒井道場の主に蟹江敬三、伊織の師の浪人に益岡徹、名優の所作はどれ一つとして目を離せない。酒井の娘役をつとめる女優さんも、執着する男が最後の息で呼んだのが自分でないと認識した折の表情が秀逸。忠兵衛の情婦もなかなか、ラスト晴れ晴れとした表情で洗い張りの空が美しい。
*レギュラー陣では、道場襲撃に際し颯爽と戦う三冬の殺陣や、小太猫かわいがりの爺様ぶりがハマってきた藤田御大も楽しい。

→剣客商売 表紙


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