鬼平犯科帳 第5シリーズ


土蜘蛛の金五郎/怨恨/蛙の長助/市松小僧始末/消えた男/白根の万左衛門/お菊と幸助/犬神の権三郎/盗賊人相書/浅草・鳥越橋/隠し子/艶婦の毒/駿州・宇津谷峠


土蜘蛛の金五郎 1994.3.9 通算86話  原作同名11巻

 破格の値段で飯を食わせるどんぶり屋、金の無い者には雑炊を喜捨。これを怪しんだ平蔵の勘ばたらきは的中、正体は盗っ人。むさ苦しい浪人に身をやつし「舎弟」と忠吾を伴いどんぶり屋「土蜘蛛の金五郎」の内懐に入り込むおかしら、盗っ人から火盗改長官の暗殺を依頼されたりする。この件は岸井左馬之助を身代わりに立て緊迫の大芝居、事後毒を盛ろうとする金五郎の企みを看破しそのまま捕り物に移行するのであった。
 ロケ地、金五郎の根岸のアジト、広沢池北畔の民家(イメージのみ、役者からまず)。刺客に雇われた平蔵が暗殺現場へ伴われる夜道、大覚寺有栖川(河床から見上げ)。たばかって呼び出した火盗改長官の駕籠を襲う汐留付近の小橋、中ノ島橋(下流側から側面のショットと橋上、闇濃いなかに橋と堰堤が浮かび上がる)
*飯屋のある三ノ輪にでも因んだか、金五郎に「万七」遠藤太津朗。捕われる際ぶるぶる震える仕種が秀逸。この手下で平蔵の見張りをつとめる子之次に赤塚真人がいい味。


怨恨 1994.3.16 通算87話  原作同名20巻

 鬼平の密偵と、密偵に情報を上げる「洩らし屋」。それぞれに事情あり気遣いありの心情を、まるで理解せぬ脳天気な木村忠吾を狂言回しにして描く一作。
事件は、三年前取り逃がした賊の一人が江戸に舞い戻ったという情報がもたらされた事にはじまり、その盗っ人・磯部の万吉を軸に話が進む。万吉はかつて仲間を殺して金を持ち逃げしたことの報復を恐れ、金を盗られ身内を殺された盗賊は病んだ体を「洩らし屋」の家に預け、洩らし屋とつながる五郎蔵は秘密の気配を嗅ぎ取るも黙す。そして病をおして老盗が発ったあと、凶盗・万吉の情報は火盗改に急報されるのだった。
 ロケ地、おかしらに全てを任されたと上機嫌で傲慢な態度の忠吾にアテられ悪酔いした五郎蔵がおまさにボヤキの橋、中ノ島橋。磯部の万吉の女房が経営する千住・小塚原飛鳥明神門前の茶店・浜乃屋、清凉寺境内湯豆腐竹仙。洩らし屋・喜十の態度の変化をおまさと話す五郎蔵、木島神社元糺の池畔。南八丁堀の喜十の煮売り屋を出た今里の源蔵が、喜十の娘に飴を買ってやる湊稲荷、木島神社本殿前。今里の源蔵の回想、駿府・大井川を遡った笠間山中の盗っ人宿で万吉に殺された仲間、鳥居本八幡宮鳥居下(闇に舞殿が浮かび上がる)
*事後、まだ五郎蔵に密告者の詳細を迫る忠吾、おかしらにやんわり注意されるが「まるで判っていない」とナレーションが入る。むくれたり、やに下がったりの表情はやはり秀逸。「ご褒美」の塩羊羹の淡い色がちょっと旨そう。


蛙の長助 1994.4.13 通算88話  原作同名10巻

 賊の手がかりを求め、むさい浪人に変装し市中を探索の平蔵は奇妙な借金取りの老爺と出会い、仕事の片棒を担ぐことになる。奇縁は回りまわって、金貸しを狙った賊を捕縛に出役の鬼平との出会いとなり、このことは老爺の寿命を限らせてしまうこととなる。
事後、老爺の遺志を継ぎ三両残った「娘の借金」をなしてやる平蔵、使いに立ったおまさの口からその情味が語られるが、妻には「内職の三両」の経緯について責め立てられるというオチがつく。
 ロケ地、浪人姿でお熊婆さんの茶店へ赴く平蔵、金戒光明寺茶所(上がってくる坂は鐘楼脇の坂)。弥勒寺境内で借金旗本に打擲される長助を助ける平蔵、同寺墓地。


市松小僧始末 1994.4.20 通算89話  原作「にっぽん怪盗伝」

 並外れた巨体ゆえ嫁き遅れる富商の娘がはじめて心触れ合った男は、前科持ちの掏摸だった。親を説き伏せ共に暮らす日々、陰日向無く働く元掏摸の亭主、しかし或る日兄貴分の手を潰した「仇」の侍と会ってしまい懐中を狙うことで復讐を果たし、掏摸の技を使ってしまう。累犯で首が飛ぶのを防ぐのに女房がとった手段は、亭主の指を切り落とすという過激なものであった。
 ロケ地、吹き矢の金次の件を鬼平に報告の彦十、木島神社元糺ノ池畔。おまゆの出した小間物屋を訪ねたあと、お尋ね者の亭主のことを酒井同心と話す平蔵のくだりも同所。おまゆと又吉がお参りにゆく神社、大覚寺五社明神本殿。掏摸を働いてしまった又吉が平蔵に咎められる祠も五社明神
*おまゆには女子プロレスラーを起用、説得力のある映像。原作に記された通りの、なかなかの美人に仕上がっている。市松小僧には「ニュー・三匹が斬る!」放映中だった春風亭小朝、ぽっちゃりとした二人の睦み合いもなかなか可愛らしい。前段ではほぼ「燕陣内」にしか見えない又吉、月代を剃ってからはしっとりと役柄にハマっている。


消えた男  1994.4.27 通算90話 原作同名10巻

 先の長官の不甲斐なさゆえ出奔した元火盗改同心あり、八年を経て江戸へ帰り着く。彼が偶然以前の直属上司・佐嶋と会ってしまったことが、その後の男の運命を変えてゆく。事後それを思い煩う佐嶋に、運命だったと労わる平蔵、江戸へ戻る途中亡くなった「共に逃げた女」とともに供養してやるのだった。
 ロケ地、佐嶋と元同心・高松繁太郎が会う愛宕山権現男坂、粟生光明寺石段下部。高松が連れて逃げた女の情夫・草間の勘蔵が粂八を釣りに誘う、広沢池東岸。女の初七日が過ぎ覚悟して佐嶋を待つ高松、佐嶋と会ったのと同所。これについて報告を受ける平蔵と佐嶋がいる女坂の茶店、粟生光明寺紅葉道・薬医門内側。
*原作とは、高松のその後が異なる。ゆえに江戸帰還の高松は「ふっくら」しておらず役者のチョイスにも反映。*高松が勘蔵の叔父の差し向けた刺客に殺られたと聞いた平蔵の口から「仕掛人」の言葉が出る。


白根の万佐右衛門 1994.5.4 通算91話 原作同名16巻

 江戸入りし盗めの目前、患いついて死の床に臥す本格の老盗。しかし後を継ぐべき小頭も娘夫婦も外道に堕ち彼の遺産を狙うばかり。欲深い彼らは互いの腹を探り合いながら動くが、火盗改に捕縛されたあと聞かされるのは、狙っていた隠し金の壺に入っていた老盗の遺書一片、それには三箇条の掟が記されていた。
 ロケ地、彦十が掏摸からカツ上げした財布から白根の万佐右衛門の札出る平河天神、吉田神社竹中稲荷本殿前〜裏手。その掏摸が万佐右衛門の娘夫婦に消される、上賀茂神社ならの小川神事橋上〜橋たもと水場。掏摸の死体上がる、中ノ島橋下手汀。万佐右衛門の隠し金について話し合う小頭と娘夫婦、大覚寺五社明神
*ラスト、今回の仕儀を久栄と話す平蔵が履いている庭下駄、こんな小物まで凝っているのはさすが。


お菊と幸助 1994.5.18 通算92話 オリジナル脚本?

 鬼平の留守に、迂闊にも凶盗の引き込みに就職斡旋してしまう久栄。しかし久栄をたばかった女には悲しい事情があった。その賊の死をめぐって庇いあう夫婦、久栄の嘆願の際は聞かぬふりをしながら、平蔵の下した裁きは温情に溢れるものであった。
 ロケ地、目くばせして合流の佐嶋与力とおまさ、大覚寺大沢池(佐嶋のいる茶店は船着きにセット)。伝吉のアジトの百姓家、民家。殺されて浮く小川、不明。事後、所払いとなったお菊と幸助がゆく甲州路、山室堤外地か。


犬神の権三郎 1994.5.18 通算93話 原作同名10巻

 佐嶋与力が三度目にしてやっと捕えた凶盗が何者かの手により破牢、これが信頼を寄せていた密偵・雨引の文五郎の仕業と判明し鬼平は嘆息。彼の行動原理は盗っ人だった頃と変わらぬ強固な信念に貫かれており、権三郎に受けた恩を返し、貸していた不義理を清算せしめるのであった。我慢ならぬ男をケジメた後、出張った平蔵と対峙した文五郎は自身をもケジメる仕儀となる。
 ロケ地、権三郎の情婦・おしげの叔父の筆師宅を張りこむ火盗改、下谷御切手町・浄蓮寺、梅宮大社楼門前に茶店セット。仁和寺がクレジットされているが不明。
*おしげに土田早苗、往年のヒロインと変わらぬ可愛らしさが盗っ人の婀娜っぽい情婦を演じても出ていて秀逸。


盗賊人相書 1994.6.15 通算94話 原作同名6巻

 奉公先が凶盗に襲われ、ただ一人生き残った小女は仇を討ちたい一心で気強く鬼平に申し立て。証言をもとに賊の人相書きが仕立てられる運びとなるが、絵師の態度は画が書きあがるにつれおかしくなってゆく。
うさ忠と小女・およしのやり取りがおかしく、泣かす忠吾に落とされるおかしらの大喝も笑える。知る辺の和尚を使って絵師を追い詰める平蔵の狸芝居も見せるが、柄本明の竹仙うますぎ。事後、仕上がった衣冠束帯の肖像画を眺めてご機嫌のおかしらのくだりもなかなか。
 ロケ地、凶盗に殺された奉公先の主人夫婦の墓に参るおよし、くろ谷墓地(バックに文殊塔、諸堂の甍)。およしが偽の文で呼び出される真崎稲荷、吉田神社竹中稲荷(参道の重ね鳥居、本殿裏手の祠)。ここで危機一髪のおよしを救い立ち回りの忠吾、上賀茂神社渉渓園


浅草鳥越橋 1994.6.22 通算95話 原作同名9巻

 江戸は初めての大盗・傘山の瀬兵衛、周到な筈の手配りは配下の造反によりとんでもない結末を迎える。分配金への不満から頭目を裏切り別の盗賊へ話を売る定七、引き込みの仁助を抱き込むため殺される女哀れ、女に裏切られたと思い込み懊悩の果ておかしらを刺す仁助哀れ、望むはずもなく手下と相討ちになる瀬兵衛も空しく生を終える。事を知らず押し込んだ定七らは火盗改の出役に遭い、企みは潰えるのであった。
 ロケ地、おひろと仁助が密会の浅草の船宿、錦水亭東屋外観。おひろと仁助の家(南葛飾新田・亀高村)琵琶湖東岸(東岸は沖ノ島の位置から間違いなし、日野川河口と思われる)。定七が仁助におひろと瀬兵衛がデキてる情報(嘘)を吹き込む御米蔵近くの浅草の八幡さま、上御霊神社。舞殿が映り、福寿稲荷で二人の会話、見張るおまさは高倉下(茶店仕立て)。後段再度出てくる際には高倉と稲荷の間に茶店セット。瀬兵衛おかしらにツナギをとるべく道をゆく定七、目黒・大鳥大明神は今宮神社境内〜東門〜かざりや(社前の茶店・いろは屋、瀬兵衛の盗っ人宿)
*タイトルの鳥越橋は松竹のオープンセット、常設の太鼓橋の傍にわざわざ橋を設けてある贅沢さ。恋人たちの逢瀬の橋であり、おかしらと仁助が死闘のすえ二人ながら斃れる別れの橋でもある。また、人物のバストショットでは本物の川を使って流れのある水面を背景にしてある細やかさ、さすが映像京都。ちょっと増水気味の「水面」は桂か。*定七が仁助に抱く感情が男色であると映像で再三示され、事後平蔵の口からも語られ、池波作品の妙な「艶」が微妙に演出される。こういう部分、鬼平はけっこうエロチック。


隠し子 1994.6.29 通算96話 原作同名23巻

 平蔵の父が残した「隠し子」は、とんだ親分に惚れられ、苦労して手に入れた酒肆を手放さざるを得ない状況に。その十手持ちでもある口入屋は、火盗改が内偵中の盗っ人とつるんで私腹を肥やしていた。
煙草の好きな義妹に辟易の久栄、陰で見て冷や汗の平蔵、面白がる辰蔵など、長谷川ファミリーの内情が見ものの一話。役宅の縁先、横座りでぷかぁーのお園を演じる美保純が傑作。
 ロケ地、不忍池畔で利吉を捕えた経緯について話す平蔵とおまさ、大覚寺放生池堤


艶婦の毒 1994.7.6 通算97話 原作同名3巻

 父の墓参のため休養を兼ねて上洛の平蔵、木村忠吾が引っ掛かる「艶婦」を見るが、それは二十年前彼自身が溺れた盗っ人の引き込み女だった。
 ロケ地、先乗りの忠吾がうきうきとゆく東海道、谷山林道(バックに富士山合成)嵐山自転車道。後からゆるゆると行く平蔵、自転車道(馬)琵琶湖西岸松原(徒歩)。京都イメージ、渡月橋シルエット。三条の旅籠から見る塔は仁和寺か。平蔵の父の墓がある千本出水七番町・華光寺(法華)二尊院墓地。忠吾がお豊とデートの北野さん、本物(三光門、本殿裏)。忠吾が連れ込まれる料亭・紙尾(原作設定の鴨川べりではない模様)、嵐山公園内料亭・
*劇場版で秘されていた台詞「親も要らねば主も要らぬ、お前のほかには何も要らぬ」がうさ忠の口からバンバン出るのも面白い見どころ。


駿州・宇津谷峠 1994.7.13 通算98話 原作同名3巻

 おまさと旧知の盗っ人の女、頭の隠し金をそっくり頂く陰謀は潰え内紛のうちに死ぬ哀話。江戸へ帰還途中の平蔵がこれにからむ。
 ロケ地、東海道藤枝宿手前、平蔵の馬の口をとる木村忠吾、嵐山自転車道。宇津谷峠のシーンに谷山林道酵素
*女はおまさの命の恩人。邪魔になった男を殺す、残った手下を手玉にとるなど行いは毒婦そのもの、しかし調子の良い早口が憎めぬ人柄を表現の二宮さよ子熱演。


→鬼平犯科帳視聴メモ表紙

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