第6シリーズ


蛇苺の女/お峰・辰の市/泥亀/浮世の顔/墨斗の孫八/はさみ撃ち/のっそり医者/男の毒/迷路/おかね新五郎/五月闇


蛇苺の女」1995.7.19 通算99話SP 原作「蛇苺」 18巻

 辻斬りに遭っているのを平蔵が割って入り助けた男は、手傷を負いつつその場から逃げ去る。もちろん後ろめたさからのその行為は、きっちり鬼平に怪しまれ、大金をはたいて絵図面を購めた目前の富商への押し込みも、情婦の亭主を殺して小金を奪う企みも潰えてしまう。
男が情婦を表現した「蛇苺」はまさにその通り、彼を破滅に追い込むきっかけとなるのであった。
 ロケ地、亀戸へ向かう平蔵が渡る橋、中ノ島橋。亀戸天神、梅宮大社楼門。亀戸天神門前の料亭・玉屋、中山邸通用門。玉屋の女中からの情報で、嘗役らしき張替え屋を探し本所界隈を聞きまわるおまさ、梅宮大社神苑西塀と咲耶池の間を対岸からロングで。玉屋へ赴く前、嘗役の女房・おきさが参拝する亀戸天神、梅宮大社楼門本殿。嘗役の針ヶ谷の宗助が借りている下谷坂本三丁目の正洞院裏手の塒、勝持寺仁王門から入る(塒の民家はセット)。沢田同心が深川三軒町の掘割近くで見る辻斬り、大覚寺五社明神(夜)。玉屋に入り込んだおきさが他出するのを尾行するおまさ、大覚寺放生池堤を行き、上野池之端の出合茶屋へ、望雲亭。その後おきさと一緒に出てきた沼目の太四郎を尾行するおまさ、上野山下あたりを行く太四郎、心経宝塔の見えるアングルで五社明神裏手の盛り土付近。


お峰・辰の市」1995.7.26 通算100話 原作「泣き男」 21巻

 急ぎ働きの横行に嫌気がさし、足を洗った盗賊同士が穏やかに暮らすところを、昔の仲間が現れ強引に協力を迫る。しかしこの間、奇縁に導かれ木村忠吾やおまさからの情報が平蔵の耳に入っており、彼らは気に染まぬ盗めに加わることなく、また温情により所払いで済まされることとなる。
しっとりと描かれる元嘗役の座頭・辰の市と、元引き込み女で今は商家の篤実な女中・お峰夫婦の流転、うさ忠の情けないやられっぷりも面白い。
 ロケ地、木村忠吾の馴染女郎を落籍した市ヶ谷の富商隠宅、大覚寺望雲亭木戸。中から出てきた隠居とお初を見て怒髪天のうさ忠、内藤新宿・天龍寺へ赴き、門前の茶店・つぼやでしたたかにやけ酒をあおる、天龍寺に嵯峨清凉寺(山門越し本堂、本堂、鐘楼)、つぼやは境内の湯豆腐竹仙。忠吾はこのあと頬傷の侍にぶち当たり喧嘩を売るが、ボコボコにやり返される。おまさがお峰を見かける雑司ヶ谷鬼子母神、暗くて不明。声をかけ話しながらゆく道、広沢池東岸。事後、うさ忠が通わされる坪井道場、不明。


泥亀(すっぽん)」1995.8.2 通算101話 原作同名 9巻

 本格のお盗めのおかしら・牛尾の太兵衛から引退金を貰い、小さな茶店の主として暮らす老爺・七蔵は、或る日知り合いの錠前師からおかしら一家のその後を聞く。
その錠前師は火盗改の網にかかり、鬼平は七蔵の情報も掴むが、牛尾の太兵衛に泥を掛けて去った凶盗探索のため彼を泳がせる。結果、これは苦境にある太兵衛の妻子を救うこととなり、七蔵から凶盗の情報がもたらされるのだった。
太兵衛に受けた恩を返そうと病をおして動く七蔵、七蔵にかけられる平蔵の温情、いかにも鬼平らしい物語。
 ロケ地、おまさと彦十が盗賊発見を祈願する芝・三田寺町の魚籃観音堂、真如堂本堂。その門前の七蔵の茶店、真如堂茶所。尻を押さえつつ魚籃坂を歩む七蔵、参道。太兵衛のおかしらの死を聞いた七蔵が物思う橋、渡月橋(シルエット、川面にユリカモメ群れ飛ぶ)。関沢の乙吉のことを報告に船をやる粂八、大覚寺大沢池天神島付近水路。太兵衛の妻子に会うべく三河・御油をさして東海道をゆく七蔵、山室畦道堤道。凶盗・梶ヶ谷の三之助一味が押し込み前に集まる下谷氷川明神、吉田神社竹中稲荷(本殿、鳥居)


浮世の顔」1995.8.9 通算102話 原作同名 14巻

 奇妙な事件から凶賊の消息が知れるが、糸は手繰れぬまま探索は中止に。季節がふたつ巡ったころ、彦十のとっつぁんの粘りが実を結ぶ。
 ロケ地、村娘に不埒を働いた侍と賊の死体が見つかる滝野川村の道端、いずこかの谷地田か(轍の刻まれたダート、片側は小山?)。村へ派遣された彦十と木村忠吾を出迎える御用聞き、松本酒造酒蔵前東高瀬川堤(菜の花が咲き乱れる)。忌中の鷹田の平十宅(千駄木・播随院法住寺門前花屋)を訪ねる彦十、神光院蓮月庵。彦十が半年も帰ってこないと五郎蔵を呼び出すおとき、木島神社本殿前。しゃがんで話し込むのは元糺の池端。彦十の代わりに街道に張り込む五郎蔵、山室堤道。事後、友人の見舞いの帰りに娘を襲う不埒者を見かけて懲らしめる平蔵、大覚寺放生池堤五社明神(滝野川村で死んだ侍の仇をやっつけるのは本殿裏手)
*鷹田の平十の設定や、彦十が板橋で半年粘る話などが原作と異なる。
*最後の、見舞いの帰りに馬鹿者を懲らしめるエピソード、ドラマでは何処とも語られていないが原作では「麻布鼠坂」。不埒者を見下ろして見つける設定などあり、平坦な大沢池まわりではちょっと苦しいが、五社明神裏手を使って起伏のある感じを出してあるのが面白い。


墨斗の孫八」1995.8.16 通算103話 原作同名 13巻

 鬼平の網に掛かってきたのは本格の老盗、食い詰め浪人として接触した平蔵は気に入られてしまいお盗めの片棒を担ぐことになる。枯れ菊に己が人生を見る老盗には、本道を曲げても幼子に金を残してやりたい事情があった。
 ロケ地、金のいざこざで仲間の浪人に追われた孫八がたまたま行き合わせたおまさとともに転げ落ちる土手、摩気橋下手左岸法面(孫八や浪人が走る際には橋上も使用、シチュエーションが異なるが原作設定では本所竪川二ツ目橋。摩気橋の橋脚には木で「偽装」カバーが付けてある)。浅草今戸から船に乗る孫八、広沢池東岸(このあと百本杭の船宿から彼を付け狙う一味が孫八の船を目撃)。五鉄でおまさや伊佐次とツナギをとった帰りの孫八が浪人に襲われる、大覚寺護摩堂裏手。鶴屋へ押し込む孫八一味、上陸する浜町堀は大沢池船着(小)
*浪人の襲撃から孫八を助けた「食い詰め浪人」の平蔵は、そのまま孫八の盗っ人宿へなだれこみ意気投合して痛飲する、鬼平お得意のパターンで播磨屋の豪快な酔態が見もの。平蔵が孫八を好きになる設定を強調するため、原作にない鋸に脂塗りなどを入れて鬼平自身に孫八を追憶させる。


はさみ撃ち」1995.8.23 通算104話 原作同名 7巻

 西国筋で鳴らした大盗・猿皮の小兵衛は、薬種問屋の隠居におさまり江戸で余生を過ごす。ここへ今働きの盗っ人が目をつけ小兵衛の若い女房を蕩して入り込むが、「ぼけた老いぼれ」は眼光鋭く挙動を観察しているのだった。
 ロケ地、番頭の弥治郎に間男は盗っ人と話す小兵衛、釣り船は大覚寺大沢池(北岸に屋台あしらい)。役宅で事情聴取のあと店へ帰る小兵衛たち、大覚寺大沢池北西畔・閼伽井屋形裏手。
*小兵衛に中村嘉葎雄、鬼平に子供にかえった仏さまと言わしめる飄々とした老人を演じるが巧者としか言いようがない。怪鳥のような高笑い、足取りなどが目を惹く。元盗っ人宿主宰の老番頭を演じる垂水悟郎がまたいい味、予想される押し込みの凶行に死もまた良しと語り合う二人の会話がたまらなく渋い。


のっそり医者」1995.9.6 通算105話 原作同名 6巻

 三十年前の刃傷沙汰が分けた人の運命の機微を描く。若気の至りの殺人を悔い、ところの人々に無くてはならぬ徳高い医師となった男を宍戸錠が、仇討ちの意思破れ賊の仲間となり人殺しに快を求めるまでに堕ちた男を遠藤憲一が、それぞれに好演。盗賊改と医師を結びつける役回りを、「盗賊人相書」事件の健気な下女・およしがつとめ、彼女の身の上を案じる「火盗の人々」が情話を展開。
 ロケ地、荻原宗順とすれ違い土田伊平を斬った早川と見てつけてゆく本多家家中の今井宗兵衛、金戒光明寺石段〜永運院下坂。小網町の宗順宅近くの稲荷堀端で「辻斬り強盗」に遭い頓死の勤番侍、随心院土塀。下総古河五万石・本多家中屋敷、大覚寺大門。土田万蔵に襲われる診察帰りの宗順、大覚寺有栖川(河床から見上げ)中ノ島橋(欄干に足をかけ川に身を躍らせて逃れる。設定、仙台堀沿いの道〜上ノ橋)
*およしを震えあがらせ平蔵に訴えて出るまでさせる、怖さ十分のエンケン。原作設定の四十がらみにはちょっと若い。*宗順が医術を学んだ地として出てくる大和の芝村、剣客商売では嶋岡礼蔵の故郷だし、この付近は鬼平「凶剣」で柳本も出てくる。ゆかりか思い入れでもあったのだろうか。


男の毒」1995.9.13 通算106話 原作他作品 「江戸の暗黒街/男の毒」

 けだもののような男に仕込まれた体が、女の人生を狂わせる。何人かの男をしくじったあとやっと見えかけた幸せも無残に消え、女が選んだ道は現世を捨てることだった。
 ロケ地、小間物屋の女房となったおきよが外回り中、切れた鼻緒を通りかかった男にすげてもらう橋、中ノ島橋。「経師屋の宗七」の女房となったおきよが亭主の身を案じ「三七二十一」の願を掛けにゆく神社、梅宮大社(お参りは本殿、祖父の伊助が待っているのは舞殿脇、伊助に願掛けのことを話すのは神苑汀。平蔵らがおきよを見張る茶店は舞殿脇にセット)。総上の三五郎らの盗っ人宿を見張る火盗改の同心たち、釣り船が浮かんでいるのは広沢池っぽいが確証なし。お盗めに出向いた宗七が卵を呑む堀端、上賀茂神社ならの小川(のちに川に顔を突っ込んで頓死しているのが発見される)。出家したおきよが庭掃除、西明寺山門。
*おきよに毒を仕込んだ弥市、最後の男となった宗七は本田博太郎が二役。ケダモノ弥市の濡れ濡れとした気味悪さ凶暴さ、賊なんだけど気のいい優しい宗七と見事に演じわけ。
*鬼平の話にするため、設定はかなり変えられている。原作では黒股の弥市は賊ではなく香具師の元締の片腕、ドラマでは火盗改打ち込みの際喀血して死ぬが原作ではおきよに絞め殺されている。伊助は煮売り屋の親爺なのは同じだが、おきよの祖父ではなく亡父の知人で女衒まがいの斡旋もしている。ドラマでは本所の銕の古なじみ設定で、幼いおきよも登場する。原作では宗七は黒股の弥市の弟でただの経師屋、おきよと妾宅から逃げはするがそれ以上の話は書かれていない。ドラマでは弥市とは全く関係ない設定で、簀の子の宗七なんて泥棒ネームがつけられている嘗役。


迷路」1995.9.20 通算107話SP 原作同名 22巻

 鉄砲州の商家への押し込みを見事に防ぐ鬼平、賊の頭は自刃を遂げるが、これがこの後平蔵を崖っぷちに追い詰める凶事のはじまり。平蔵の身近な人物を次々と殺し闇に笑う凶盗、三十年前の「本所の銕」のしがらみは火盗改長官を罷免にまで追いやる。
 ロケ地、船松町の薬種問屋・笹田屋へ押し込むため鉄砲州へ船をつける池尻の辰五郎一味、広沢池東岸(引き込み女が提灯で合図)。夜更けに市中見回りに出た平蔵を襲う刺客、随心院土塀(原作設定・本所御竹蔵裏通り)。火盗改与力・秋本が夜勤明けの帰り道半弓で殺される四谷了覚寺土塀際、相国寺大光明寺南路地(土産の巻狩飴ぶちまけ・秋本役は山内としお)。辰蔵が稽古を終え出てくる市ヶ谷の坪井道場、随心院長屋門。辰蔵と別れた西山喜之助が殺されるのは随心院拝観口(北望)。辰蔵が襲われる高田馬場付近、大覚寺五社明神(斬り結び刺客に手傷を負わせる)。むっつりと町をゆき笹やの前も素通りの平蔵、金戒光明寺鐘楼−長安院下坂と通じる石段〜茶所(お熊婆さんの茶店)〜永運院下坂。密偵・玉村の弥吉がお参りの三囲神社、木島神社本殿(盗賊・法妙寺の九十郎が肩を叩く)。役宅の小者・六助が油を買いに出て殺され見つかる清水御門外の役宅近くの俎板橋付近堀端、大覚寺天神島北の大沢池端。打ち続く凶事に若年寄・京極備前守邸に呼び出される平蔵、相国寺林光院門。笹やに弥吉を訪ねてきた男のことを咳払いでツナぐお熊婆さん、張り込みの酒井同心は金戒光明寺本堂階に待機。岸井左馬之助宅で虚無僧に変装する平蔵、くぐり戸から庫裏?の破風が塀越しに覗く寺、不明(室内セットには花頭窓が見えるからお寺設定と思われる/原作では虚無僧ではなく頭を丸めて托鉢僧に)。笹やを張り込みの酒井と忠吾、金戒光明寺本堂(笹や設定の茶所の北に木塀をセット)。麻布くらやみ坂の道場から出てくる平蔵を襲った刺客の浪人、勝持寺東門。尾行する道、南門左手の塀際〜参道下坂・東西の路地。巣鴨の三沢仙右衛門宅を下調べの一味、民家アプローチ遠望・裏手通用門・裏手山際。矢野口の甚七を尾行して中山道をゆく彦十と沢田同心、川堤・不明(法面を使用、高さは相当にある)
*義兄弟を殺されたことで昔の恨みも重ねて鬼平に魔手を伸ばす猫間の重兵衛に石橋蓮司、今に見ておれと笑う酷薄な表情が凄絶、捕縛時の悪態もピカ一、「本所の銕」に盗み働きを頼み込む際の卑小な薄ら笑いがまた秀逸。レンジやっぱりイイ。ぼーっと口開けてる密偵の弥吉を演じる阿藤海もいい味。


おかね新五郎」1995.10.18 通算108話 原作同名 19巻

 旧知・原口新五郎を訪ねる平蔵、紅葉の美しい段差の多い寺、勝持寺
料亭・萬七は錦水亭、真正面向いた兎の暖簾が可愛い。名物は兎汁、映像伴い腹が減ること頻り。ここですあい女のおかねを見掛ける。おかねが長谷川平蔵=本所の銕であることを認識せずあのワルかい、と言うのが可笑しい。
おかねの子の仇・弥助の消息を告げに来る伊三次、平蔵が報告を受ける大沢池畔・護摩堂前。
原口がおかねの子の父と知り訪ねる平蔵、茗荷の梅酢漬けを振舞われる、映像付。事情を聞き慌て上ずる原口を横目に見遣る平蔵、この視線の描写が吉右衛門版鬼平の勘どころ。
美人局をしている弥助、大覚寺五社明神脇の門、雨。雨、鬼平特有の雨、タルコフスキーの水を思わせる情感。
弥助捕えるのに大人数仕立て踏み込む鬼平、仇を討たせるはからい。おかねと原口氏、二人で弥助をぶっすり。


五月闇」1995.11.1 通算109話 原作同名 14巻

 全編通じて降る雨。柔らかなパウダーのような、包み込むような雨、悲劇に相応しい情感。
馴染のおよねの部屋、赤襦袢に長煙管の似合いすぎる密偵の伊三次。ここで聞いた強矢の伊佐蔵の情報が端緒となり悲劇が幕を開ける。
むかし伊佐蔵の女房を寝取った挙句彼を刺し、結局その女を殺す羽目になった経緯が今も伊三次を苦しめ、およねとも所帯を持てずにいたのだった。
おまさとつなぎをとる伊三次、大覚寺護摩堂、未だ強矢の伊佐蔵の恨み深きを知る伊三次。
探索方から浮き独り苦悩する伊三次、伊佐蔵の手下と行き会う随心院の土塀、刺され泥濘に塗れる。瀕死の身をみよしやに運ぶ伊三次、もはや命数尽き横たわる。枕頭に詰める盗賊改の面々、死の際は描かず終わるのは原作と同様。
★追記 伊三次が刺される随心院築地塀は南東角。伊三次は南側の塀と竹薮の間の狭いとこを歩いてきて、角を曲がったところで伊佐蔵の手下に呼び止められる。伊佐蔵は新塀と崩れ塀の境あたりに立っている。原作設定では御成街道(おなりみち)の石川日向守と鳥居丹波守の屋敷の間。


→鬼平犯科帳視聴メモ表紙

・日記目次 ・ロケ地探訪 ・ロケ地探訪テキスト版目次 ・ロケ地一覧 ・時代劇の風景トップ  ・サイトトップ