必殺剣劇人

姫路城小天守1987ABC/松竹

キャスト
カルタの綾太郎/近藤正臣
早縄の清次/田中健
すたすたの松坊主/あおい輝彦
お七/工藤夕貴 お歌/二宮さよ子

 賭場のディーラー・綾太郎、火消しの清次、願人坊主の松坊主の三人は元義賊、千代田のお城の御金蔵を破り得た一万両の半分を民に撒き、残りを三人で共有し「もう齷齪働かなくてもいいもんね」と自適の日々。共有するのは金だけでなく住まいも一緒、但し長屋の入口は三つあり中が三部屋ぶち抜きで、仲良く川の字に布団を敷いて寝る。エマニュエル夫人ふうの籐椅子も置かれているおじさんたちの居間の床下には、五万両が隠されている。
 この空間に闖入者として現れるのが「三人のうち誰かの娘」の、八丈島とれとれの元気娘・お七。彼女が数々のやるせない事件に遭遇し、ストレートに憤激するその的を、三人の父親は「世直し三人組」に化けて懲らしめに出る。
この際の三人の衣装が抱腹もの、綾太郎は白地に歌留多散らしの着流しで鞍馬天狗よろしく頭巾を着用、二刀流の派手な立ち回りを繰り広げての決め台詞は「寄らば斬るぞ」。清次の得物は鳶口とロープ、火消しゆえ大屋根での立ち回りが得意で吊り技も華麗、コスチュームは火消しのなりの下に刺青シャツを着込み、片袖脱いで「ぁ、おととい来やがれ」。そして松坊主、こいつが最も派手で、真っ赤っかの上衣に大数珠を掛け鉢金には手裏剣を挿して現れ、仕込棒で敵を薙ぎ倒し「むふふ、ぁ馬ぁ鹿ぁめぇ」と見得を切る。彼はこけおどし用のどんどろガマ担当でもある。すたすた坊主をやるときも派手ななりで、体力の要りそうなステップも見もの。
そしてこの三人が悪を成敗するのを毎回「偶然」目撃するお七は、夢の実現に屋根の上で小踊りして感激のダンス「出たー!夢みたい!カモノハシみたい!」。
 「剣劇人」というタームは、最終回において綾太郎の口から出る。この名の通り、チャンバラに重点が置かれた夢芝居で、処々に過去の時代劇へのオマージュが見られるほか、必殺の記号も多数散りばめられ15年間の長いシリーズを豪快に遊ぶ。導入部は毎回セピアの無声映画仕立ての「義賊・江戸城御金蔵破り」。


第1話「寄らば斬るぞ!」1987.8.7

 御金蔵破りの金を施したものの何も変わらなかった世相にアンニュイな日々を送る元義賊三人組、彼らのもとにかつての仲間・お百が八丈島で産んだ娘がやってくる。無鉄砲娘が許せないと激する「友の死」に、おじさんたちは元の稼業に立ち帰り悪を討つのだった。

ロケ地
・御金蔵破り、姫路城
・お七を岡場所から助け出し船でゆく綾太郎、広沢池かセットか不明。


第2話「おととい来やがれ!」1987.8.14

 回米の偽装で米価を吊り上げる悪徳商人と船手役人、命を賭して告発しようとした男と、協力しようとした女が、無惨に殺されるのを見てしまうお七。晴らせぬ恨みを男に託され、自分がやるしかないと櫓をやる彼女の前に、「夢」が展開する。

ロケ地
・人質をとって逃げた吉松を捜す宝屋の手下、中ノ島橋上。吉松がお里と潜むのは堰下・右岸側。
・お七が吉松を匿う船、広沢池東岸・葦原の汀。
・評定所へ近付く吉松とお七、大覚寺御殿川、評定所は明智門。吉松とお里が斬られるのは参道。お七は参道石橋からそれを覗き見る。
・出陣の「父」三人、嵐山自転車道
・川開きの夜、屋形船を仕立てて儲けた金を前にウハウハのワルども、広沢池。立ち回りはその東岸中ノ島橋
*三人がそれぞれ別口から八百善に導かれる展開や、ラス立ちの八艘飛びなど「時代劇」自体を遊んだ趣向がたまらない。


第3話「むふふ、バカめ!」1987.8.21

 お七の身の軽さを見込んで誘ったチンピラは、ど素人の癖に金座へ侵入、そこで青年は職人から、不正を訴える訴状と証拠の水増し小判を託されてしまう。お七に諭され小判を「返し」に行った青年が殺され、お歌が職人から受けた願いも揃い、正義の味方は発動する。

ロケ地
・金座役人に顔を見られ、手配書の回った仙太郎を助けた松坊主が衣を干す海浜、琵琶湖西岸松原
*お七の性教育に悩んだり、隠し金が見つかりそうになったり、どたばたルーティンも楽し。ラス立ちでは梯子・大八・投網と、捕り方の繰り出す手を掻いくぐり見得を切るのが泣かせる。


第4話「日照り続きで、ほこりが立たあ!」1987.8.28

 なりゆきで蕎麦屋の親子に関わるお七、その店は地上げ屋に狙われており遂に二人は密殺されてしまい、いつもの如く許せないと走る娘は夢の正義の味方を見る。

ロケ地
・父と大喧嘩した蕎麦屋の息子が地上げ一味の鳶に声を掛けられる橋、中ノ島橋
・二人の名を書いた灯籠を流し精霊を送るお七、嵐山公園中州脇河床
*蕎麦屋の頑固親父に小鹿番、いい味。*よそんちのフツーの飯を羨ましがる三人、帰ると味のついてない海草尽しが待っていて笑える。松坊主の「ワァカメー」が傑作。


第5話「月夜ばかりじゃねえ!」1987.9.4

 大はやりの施薬院は悪の巣窟、看護婦にと連れて来た田舎娘は岡場所に、評判の男女産み分けは買ってきた赤子とすり替えという悪辣さ。お七の八丈での幼馴染が巻き込まれ、逃げ出した先の故郷の名主もグルで虫けらのように始末されてしまう。嘘つきの汚い大人に怒ったお七は包丁持って屋根の上、そして施薬院に降り立つ正義の味方を見る。

ロケ地
・松坊主が烏山へ向かう野道と民家、不明。
・烏山村名主宅、民家門
*立ち回り中、清次の屋根落しが見られるほか、あおい輝彦の「佐清」落しも。


第6話「しゃらくせえ!」1987.9.11

 役者の直次郎に恋する乙女・お七「胸がキュンとなるの」。綾太郎にきつく叱られても燃え上がる恋だが、自分を逃がそうとしてくれた女房を直次郎が刺し殺すに及び激しい憎悪に変わるのだった。ターゲットが実は凶賊の役者たちで、ラス立ちも芝居仕立て。というか、あろうことか観衆の前に現れ堂々と成敗の三人組。お七のカモノハシも、ポニーテールを鏡獅子みたいに毛振り。

ロケ地
・白浪五人男を興行の寺、不明(反った渡廊)
*松坊主の殺陣ハデハデ。捕り方に縄で迫られ一旦雁字搦めにされるもジャンプで脱出、その蜘蛛の巣ロープをトランポリンにして向こうの屋根へ…雄呂血のパロか。


第7話「じたばたするねえ!」1987.9.18

 「実の父」をネタにお七を引っ掛ける博打打ちの男、裏には火盗改がいて目当ては三人組の金。用済みと消された男を見たお七は、地面を叩いて憤る。

ロケ地
・お七に三人は父でないとほのめかす秀二郎、中ノ島橋下河川敷。綾太郎と清次がやってきて秀二郎に「コラ」は橋上から。
・秀二郎を尾行する松坊主、ヤクザが秀二郎を襲うのに介入、北野天満宮本殿裏手(縁日あしらい)
・秀二郎の命を救うために要る五百両を持ってきてお七に渡してやる三人、大覚寺五社明神


第8話「あばよ!」1987.9.25

 のっけから南町へ乱入しワル与力を成敗の三人組、怒った主水はお歌の店へ。仁義は金で済す話になるが、地震で五千両は地の底へ消え主水は仕事に参加の運び。火つけの濡れ衣を着せられ処刑されたおしちの恨みを晴らすのが今回の仕事、依頼はお七から来る。

ロケ地
・先方の親に反対されうまくいかない新吉のことを話すおしちとお七、広沢池東岸に船着をセット。
・火事の被災者が集まる境内、大覚寺五社明神
・うろの来ている「大老」邸、大覚寺大門
・刑場へ走るお七、流れ橋。火刑は河原(水辺を海と考えると鈴ヶ森か。鈴ヶ森とするなら「流れ橋」の設定は立会川に架かる浜川橋(涙橋)になる)
・炎にまかれるおしちを見て倒れたお七を寝かせるお堂、大覚寺護摩堂。お七が「知っていた」と明かし「世直し三人組」に依頼するのは裏手。
・松坊主の出陣、中ノ島橋
・お百の墓参りに八丈へ向かう四人、琵琶湖西岸松原
*「古い」とか「面白いのが一番」などさんざんに言われる主水、仕事に参加するも金は例の渡し賃のみ、しかし「これは仕事料」と言い張るのが笑える。南町では鬼塚サマと田中サマが出ているのも嬉しい。大ワルの老中が菅貫なのも泣かせる。*火事で例の衣装はパァ、代わりに「たのしい工夫」でやって来る三人。清次は秀の扮装で簪を使い、松坊主は鉄のなりで心臓捻り(レントゲンあり)、綾太郎は三味線屋に扮して糸を使う。音楽もちゃんと遊んである。


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