大奥 華の乱

 平成版「大奥」第三弾は元禄の世、「犬公方」綱吉の代が舞台、忠臣蔵など外の事件には触れず、綱吉まわりのドメスティックな愛憎劇が主体。佞臣・柳沢吉保のめぐらす策謀が、多くの人々を悲劇的状況に追い込んでゆくさまを柱にドラマが展開される。
母・桂昌院にスポイルされる息子・綱吉は歪んだ感情を横溢させ専横を極めるが、脆弱な心を持つ彼は運命を受け入れるも流されるまま倦み虚無に陥り、己にまつわる誰とも真情を通わせられぬまま自滅への途を歩む。

第1話 「修羅場」 2005.10.13

 隆光の不吉な託宣からはじまる悲劇、桂昌院の意を受けた柳沢吉保の画策で側用人・牧野の一家は不幸のどん底に突き落とされる。遂に自分に話が来た日、母の自害を見て安子は仇討ちを決意、独裁者の住む魔窟へ乗り込んでゆく。

 ロケ地、江戸城イメージ、姫路城天守。冒頭の宴、西の丸。牧野邸お成りの前、将軍休息時の女を用意するよう牧野に示唆する柳沢、東福寺通天橋。京、歌会の席で常磐井に江戸行きの話を持ちかける大典侍、大覚寺観月台(大沢池堤の向こうに塔を合成)。神田橋・柳沢吉保邸、大門


第2話 「伏魔殿」 2005.10.20

 綱吉の「はからい」で再会する安子と成住、互いの変わらぬ気持ちを確かめあい示し合わせて心中をはかるが、刃を構えたそのとき安子の懐妊が発覚する。

 ロケ地、江戸城天守、姫路城天守。宴の庭、西の丸。御台が安子を呼び止める廊下、東福寺方丈回廊。寛永寺参詣の安子と供がゆく縁先、粟生光明寺本堂南廊下。逃げた二人が入るお堂、大覚寺護摩堂。二人が「保護」される神田橋の柳沢邸、大門
*綱吉の幼児性を描くのに雷怖いトラウマを持ってきて、これが阿久里大好きな理由。良くしてやったのになんで死んだと呟く無神経さがこの先を暗示。*女たちのドロドロはそれぞれに出るが、わけてもお伝の方の目玉をむく表情が目を惹く。「葛原」ちゃんは女相撲の選手をやらされ、あとの二人は行司と呼び出しというお遊び、「美味」はナシ。安子に姑息に擦り寄る柳沢がそろそろ本性を垣間見せる。


第3話 「仇の子」 2005.10.27

 隆光の託宣どおり身重の安子に降りかかる危難、曲折を経て自身と子を守る決心をした安子はお伝との対決姿勢を顕すに至る→御台の意向に取り込まれ、同時に大奥総取締・右衛門佐の誕生。

 ロケ地、大奥の宴、姫路城西の丸。安子を伴い常磐井と会う御台、随心院本堂前廊〜書院(座敷を使用)。会見のあと安子に常磐井の件を綱吉にねだるよう要請の御台、回廊。お伝に接触する柳沢、池泉不明(背景に回廊とストゥーパ)。懐妊祝いの席を中座した安子が入る座敷、粟生光明寺方丈。安子に目通りを願うも却下される成貞、東福寺通天橋。腹も大きくなった安子がお伝に対決姿勢を見せる廊下、東福寺方丈前廊。


第4話 「疫病神」 2005.11.3

 右衛門佐が大奥総取締になる経緯を描く。御台や安子の思惑、桂昌院や柳沢のそれが交錯し好き者の綱吉は乗せられてゆく。事態を見ているしかないお伝の方、自身も充分わかっている出自の悪さに関して散々いたぶられ、激情は遂に暴発し安子に向かう「嫌いじゃ嫌いじゃこの疫病神」。

 ロケ地、桂昌院には礼を尽くすがお伝を無視の右衛門佐がにんまりと笑みを湛えつつゆく廊下、清凉寺本堂裏手回廊。右衛門佐が安子に大奥入りの動機を語る庭、彦根城玄宮園蘇鉄山橋。庭で徳松を構う安子と睨み合うお伝、東福寺通天橋下。庭で鯉に餌やり中、安子に右衛門佐へのスケベ心を漏らしてしまう綱吉、彦根城玄宮園龍臥橋。右衛門佐が論語を引いた会話で綱吉を煙に巻く亭、玄宮園鳳翔台
*お伝可愛すぎ。右衛門佐に対抗して源氏をさらう段、「上達部」がもうわからないレベルなのに傍で子が騒いで集中できずキレまくり。そうやって健気におさらいしてアンチョコも持ってヤな奴の「講義」の席に出たのに結局馬鹿にされて机の下で本を音立てて悔し紛れに力いっぱい捻り上げる…ろくでなしの兄が金を無心に来た際の眉根なども、情けなさがひしひしと伝わってくる。


第5話 「逆襲」 2005.11.10

 お伝に閉じ込められた湯殿をからくも脱出した安子はそのまま男児を出産、その子と母をべたべたに構う綱吉。お伝の憎悪はぼうぼうと募り浅はかな行動に出るも果たせず、心を解きかけたそのとき離れた場所にあった悪意が噴き出す。また同じときもっと離れた場所で、新たな紛争の種も息づきはじめていた。

 ロケ地、江戸城イメージに姫路城天守や櫓。長丸誕生後、廊下で行き会ったお伝に湯殿の一件を糺す右衛門佐、東福寺方丈回廊。庭の池辺でお伝に三度目は許さないと釘を刺す安子、彦根城玄宮園魚躍沼(後段、徳松が弟のために花を摘むのも同所)
*賢しらに学問を持ち出すも欲をかき綱吉の不興を買う・あからさまな柳沢の示唆に操り人形のように乗る・安子の思いを一旦は受け止めかけながら目の前の誘惑に負ける…中身は単純で可愛いお伝が、真っ逆さまに落ちてゆく深みに慄然。*御台は、マグマが噴き出すように心の底から迸る「いい気味」高笑いが凄絶、意向に沿わぬ者に発した「なんやて」がここまで凝縮されて怖い怖い・ほとんど祟り神。


第6話 「殺意」 2005.11.17

 子を喪って自失する女、新たな火種となる女、裏で進む陰謀。次期をめぐっての争いに桂昌院が率先してプレッシャーをかける日々に、「王」の心は疲弊し壊れてゆく。

 ロケ地、長丸が逝った朝のイメージに姫路城櫓。徳松の端午の節句の宴の導入に天守。長丸の葬儀の寺、粟生光明寺(本堂のほか、席を立った安子が折れ崩れるシーンに回廊、柳沢と御台が「薬」について話すのに本堂廊下)。長丸の「記録」を抹消する措置に怒った安子が桂昌院に故障を申し立てる座敷、二条城清流園春雲亭。大典侍が父大納言付きで桂昌院と会う御殿、智積院書院。大典侍が桂昌院と綱吉に閨の歌を披露する座敷、二条城清流園春雲亭


第7話 「真の敵」 2005.12.1

 度重なる不幸に萎え腐ってゆく「王」の心身、ありもせぬ霊験を求められた売僧の苦し紛れの思いつきは、希代の悪法となって発布される。懊悩の果て病を得る綱吉、王殺しの策謀がひそやかに「奥」で、汚い簒奪の企みが「表」で進んでゆく。

 ロケ地、江戸城イメージ、姫路城天守。話しながら殿中をゆく柳沢と隆光を見る安子、東福寺方丈廊下(柳沢らは通天橋)。釣りの綱吉が竹丸様(ダミアン犬)と出会う池端、大覚寺放生池堤(池の鴨はヒドリガモのエクリプス)。水戸の老公を訪ねる右衛門佐、随心院薬医門
*次期将軍を協議する席、柳沢の横に福ちゃん。後姿の首筋でもう判る。峰蘭太郎氏は成貞の隣。


第8話 「お犬様」 2005.12.8

 綱吉はなんとか回復、吉里ぎみが御子として迎えられ時が過ぎるが、めでたい宴の席で隠しようもない血の証が発覚する。タイトルにしては犬不足ぎみの画面だが、老公ギフトの犬皮で早とちり女たちのうろたえギャグが炸裂。

 ロケ地、江戸城イメージに姫路城天守。染子と吉里ぎみの入城、二条城本丸櫓門。老公を訪ねる右衛門佐、水戸藩邸に随心院薬医門。お伝と大典侍が角突き合わす御廊下、清凉寺本堂裏の回廊(竹丸さがしで大騒ぎの段では大典侍が回廊の下で蜘蛛の巣引っ掛けシーンも)。右衛門佐が吉里の出生について忖度していることを柳沢に密告する御台、白沙村荘庭園(倚翠亭から池越しに問魚亭を望む)。隠居した牧野成貞と擦れ違う「側用人筆頭」になり了せた柳沢、東福寺通天橋。将軍一家を招く柳沢邸、大覚寺大門
*お伝が脇息にかかっていた犬皮をそれと知らずわきわき触る手つきが絶妙。大典侍のは皮を犬の形にびろーんと広げてみせるのがたまらない。トリオが皮見て「竹丸?」も大笑い。諫言の犬の皮をこんなふうに扱った例を他に見ないが面白い。


第9話 「遺言」 2005.12.15

 疑惑の衝撃で倒れた桂昌院は回復することなく逝去、黒い影を内包したまま過ぎる日々。愛情と悪意と悔恨とが錯綜し、外の風も入らぬ閉じた空間は腐ってゆく。

 ロケ地、江戸城に姫路城天守、西の丸。御台と大典侍が嫌味の応酬の廊下、不明。
*瀕死の年寄りの枕頭でイケズをかます御台、桂昌院の出自を言い立てての「おーたーまー」は怖し。奈辺に感情があるのか判らない柳沢の染子殺しは鬼気迫るが、後から泣くなら刺すなよのメソメソぶりは最終話につながる布石。末期の虚空に春日局見て会話してる桂昌院もコワい。


第10話 「乱心」 2005.12.22

 愛しい女を犠牲にしてまで得た野望は、思い詰めた女と自棄ぎみの男により間抜けなタイミングで潰え去る。ひとつの時代の区切りにそれぞれの秘めた思いが噴出、我が身を害し世を去る者、諍いの果て平安を見る者と運命は別れてゆく。

 ロケ地、江戸城イメージ、姫路城天守閣。染子の葬儀が行われる一橋の寺、右衛門佐が隆光に皮肉を言うお堂は大覚寺霊明殿。徳松の墓前で安子と話すお伝、二尊院墓地。安子が綱吉に柳沢の罷免を求める廊下、相国寺方丈か。綱吉の快癒を祝う宴が催される吹上の庭、姫路城西の丸。綱吉が安子を誘う茶室、彦根城玄宮園鳳翔台。落飾した安子が尼寺へ向かう野道、不明(盤嶽OPで出た道に似る…井尻?)
*孤閨を深く恨んでいた御台、終わり方凄すぎの大典侍に小細工をしに行きドジ踏んで火だるま→将軍を枕頭に呼び寄せての毒殺心中未遂。悪法発布は厭世観からだったトンデモ将軍、来世は誰にも迷惑にならぬお花に発言は彼のキャラクターを端的に示すターム。間違って刺しちゃった展開は第一章の笛吹きみたい。


スペシャル「悲恋の果てに」2005.12.30

 出家後の安子が柳沢吉保の最期を看取る場で音羽によって語られる秘話、お話の軸は綱吉の館林時代。兄弟のように睦まじかった主従に入る亀裂、柳沢の女と知らずに里久を所望してしまう綱吉。それでも必死に運命を受け入れようとした恋人たちに迷信深い桂昌院の放った刃が突き刺さり、涙は凝って憎悪に変じる。

 ロケ地、安子の尼寺、養源寺(前畑から門、本堂座敷)。神田橋柳沢邸、大覚寺大門。江戸城イメージ、姫路城天守。館林藩邸、西本願寺大玄関(お伝が迎えられる式台玄関は聖護院書院玄関)。館林藩主時代の綱吉と柳沢保明(後の吉保)が過ごす日常、遠乗りの浜は琵琶湖西岸松原、釣りの情景は岩浜か水制か。里久とデートの柳沢、真如堂三重塔前〜八幡掘堀端明治橋(お参りの宮?等不明。出勤の柳沢にお弁当を渡す里久は真如堂境内、山門を入ってすぐの塔頭前)。お伝のもとへ綱吉を誘う役目を里久に依頼する柳沢、西の湖中島の葦原(このあと綱吉の意を受けるよう告げるシーンや、蜂須賀家から失踪した里久が自刃しようとするシーンもここ、駆けつける吉保が太鼓橋を渡る場面も)。綱吉の示唆で蜂須賀家に向かう吉保のシーンに八幡掘新町浜。五代将軍として江戸城入りの綱吉ファミリーがくぐる門、姫路城菱の門。里久の死後、憎悪を滾らせた柳沢が綱吉を手に掛ける夢、姫路城西の丸(このシークエンスに先立って第七話の大覚寺放生池堤の釣りの場面が挿入される)。柳沢を看取って帰途につく安子と音羽がゆく石段、粟生光明寺参道石段。
*里久は「安子」内山理奈の二役、「似ている」ことが柳沢にも綱吉にも衝撃を与えたという設定、綱吉が里久のことを吉保の前で語らぬようにはからったことが誤解を呼び憎悪が増幅されてしまう筋立てで、第七話の釣りのシーンの会話の「謎解き」が本編には無かったアングルを用いてなされる(問いに一瞬ためらい、間をおいて覚えていないと答える綱吉)。このほか、本編で出てこない信子とお伝の「感情」の成立過程も描かれる。*蜂須賀家へ里久を迎えに行った吉保に失踪を告げる家士に福ちゃん。*「美味でごじゃります」トリオは今回も登場、館林藩邸のお端下でお伝の朋輩。


キャスト

徳川綱吉(五代将軍)/谷原章介 桂昌院(綱吉生母)/江波杏子 安子(牧野成住妻女→綱吉側室)/内山理名 牧野成貞(側用人・安子の父)/平泉成 牧野成住(安子の第一夫)/田辺誠一 阿久里(安子の母)/萬田久子 お伝(綱吉側室)/小池栄子 右衛門佐(大奥総取締)/高岡早紀 大典侍(綱吉側室)/中山忍 隆光(僧)/火野正平 染子(柳沢側室→綱吉側室)/貫地谷しほり 信子(綱吉正室)/藤原紀香 柳沢吉保(側用人)/北村一輝


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