座頭市物語

 20余本に及ぶ映画で確立されたキャラクター・座頭市をテレビに持ってきたシリーズ物の第一弾。
「市」はもうくだくだしく語るまでもない個性を持っているので、テレビシリーズの主体はむしろゲスト。毎回豪華な顔ぶれの魅力を市が引き出してゆく。カツシン自身がメガホンをとる回も見ものの、本編と比べ何ら遜色のない、一話ずつが宝石のような見応え満点のドラマ。

1974〜1975年、勝プロダクション/フジテレビ  主演/勝新太郎


第1話 のるかそるかの正念場 1974.10.3

 足尾銅山で人を出し抜き強権を振るう残忍な口入屋、彼に乗っ取られかけている一家と関わる市。看板を降ろせと期限を切られた日の前夜、市の機転で大逆転の大立ち回り。しかし市は感謝の言葉を掛けられる前に、黙って場を立ち去っていた。

 ロケ地、足尾の山元一家へ行くという老渡世人と道連れになる市、山中の街道、不明(崩壊地形で侵食が激しい)。宿場はずれで市を狙撃する弥三郎のスナイパー、不明(川堤か)
*弥三郎に津川雅彦、色悪で、市にやられる際はじたばたと悪あがきで、必殺でゲストしたやられキャラとほぼ同じ。彼が懸想している山元の女主に土田早苗。

監督/森一生 脚本/高岩肇


第2話 子守唄に咲いた女郎花 1974.10/10

 柿泥棒の片棒を担いで子供と道連れになる市、その子の祖父の臨終に居合わせ実父のもとに送り届けるハメになる。父は高崎の富商、欲をかいたところの親分やちんぴらが群がるが、市のドスに蹴散らされる。ちんぴらの渡世人といい仲のお女郎が、市としんみり身の上を語り合い、坊の行く末に思いを致すくだりが泣かせる。

 ロケ地、太郎吉と出会う柿の木のある家、不明(萱葺、側面に竹の置き台)。高崎さしてゆく市らが遊ぶ川、落合か。先に高崎へ行きナシをつけてきた渡世人がお女郎と待ち合わせの清水神社、不明(幅の狭い石段、両部鳥居など映る)。高崎の絹問屋へ坊を送り届ける市、大覚寺蔵を門越しに。その後渡世人とお女郎と行き会い、貰った涙金を渡してやる市、流れ橋
*親分に小松方正、胴元に今井健二、女郎に中村玉緒、渡世人に江原真二郎。

監督/黒田義之 脚本/直居欽哉


第3話 祥月命日いのちの鐘 1974.10.17

 母の命日にはドスを抜かぬ市の誓い、しかし渡世の義理人情は構ってくれない。人を斬りもし助けもする機微を、コミカルな場面を交え情感たっぷりに描く。

 ロケ地、門屋の倅の窮地を救うため証文を燃やした市が簀巻きにされ流れる川、木津川。追ってきた紋次がそれを見下ろす橋、流れ橋(衣を乾かす二人は橋下)。そのあと市について歩く紋次、追っかけっこの堤は桂か。市が門屋で斬った浪人の娘と出会う川べりの茶店、桂川宇津根付近か。父の仇と迫る娘に抵抗せず斬られる市、神護寺石段。一人で中森一家に斬りこむと去った門屋の倅を追って橋を渡る市、流れ橋。「暮れ六ツ」の鐘を撞く紋次、不明。中森一家を斬り伏せてきた市を「橋の手前」で待ち構え名乗らず斬り合う紋次、木津河原(このあと市が彼と気付くのは「約束」していた流れ橋の下)
*紋次に北大路欣也、軽くもあり熱くもある渡世人を熱演、市の手並みに感心して事切れるくだりが見もの。中森の親分に江幡高志、斬られ際の声が傑作。茶店に現れる見掛け倒しの風来坊にチャンバラトリオ、南方英二のどたばたが大笑い。

監督/勝新太郎 脚本/高橋二三


第4話 縛られ観音ゆきずり旅 1974.10.24

 旅ゆく市の様々な出会い、子を思う母には情けを、腐れ外道には制裁を。和田浩二演じる、口から出まかせのチンピラを「信頼」する挿話がなかなかにぐっと来る。

 ロケ地、伝馬町牢屋敷イメージ、御所長屋門。子を探すお駒が男たちに好奇の目で見られる神社前、不明(石鳥居)。座頭市を味方にとカラ約束の渡世人・半次が市を呼び止めるお堂、大覚寺護摩堂。子育て地蔵のある渡し場、亀岡盆地の桂川畔か(川相は瀞)。市を臭いという八州に啖呵を切る街道、北嵯峨農地・陵前付近の竹林際。お駒の佐渡おけさに送られ発つ市も同所(この路傍に縛られ観音)
*八州に呼ばれた座敷で、足もとに置かれた刀をかわして歩く市のステップ、太地喜和子の腕の入墨を「斬る」シーン、見もの。

監督/三隅研次 脚本/浅井昭三郎


第5話 情知らずが情に泣いた 1974.10.31

 博打狂いの父のせいで売られる娘を助けることは、妹思いの浪人との対決につながる。互いを認める仲の男たちの戦いは空しく、盲いた妹に声もかけられず市は去る。

 ロケ地、馬子と会いその父をヤクザから助ける街道、不明。浪人が妹を連れて釣りにやってくる川辺、不明(河畔林は竹、粗い礫の河原、桂川宇津根付近か)。子らが拉致されたと市を引っ張ってゆく博打男、不明(堤〜河原)。村上浪人と斬りあう市、酵素河川敷。その妹と行き会うも黙し去る道、酵素ダート
*浪人に黒沢年男、妹の目を蘭方医に診せるための金を貯めている用心棒。博打狂いのオヤジに常田富士男。

監督/安田公義 脚本/池田一朗


第6話 どしゃぶり 1974.11.7

 弟を殺したと市を恨む女、自棄酒をやめさせるため市は仕込杖を女に預けるが、意趣返しに来た一家に散々打たれる市を見た女は二階から投げ返して寄越す。

 ロケ地、市とおせいが行き会う橋、本梅川若森廃橋。おせいがお札を売りにゆく中里村の百姓家、民家内部からの撮影か。野博打に介入しヤクザを散らし素人衆に負け分を取り戻させてやる市、藪田神社舞殿。それでいいとこを見せたつもりかと毒づくおせい、狛犬脇。殺し屋・空っ風がやって来る街道、亀岡・河原林付近の畔道か。
*おせいに朝丘雪路、幼馴染の女衒に長谷川明男、梵天の親分に藤岡重慶、空っ風に成田三樹夫(殺陣は一瞬だが、それまでの存在感が凄い)。

監督/田中徳三 脚本/星川清司


第7話 市に鳥がとまった 1974.11.14

 市が雇われた出入りに介入した鳥見役は、凄腕の剣士であるとともに鳥獣と心を交わす自然体の男。彼に倣い鳥を寄せようとする市にその殺気がいけないと男、しばらく二人の交流は続き、男に刺客が向けられたとき、市は御狩場で大儲けを企む一味に乗り込んでゆく。

 ロケ地、御狩場、不明(大堰川河川敷か。堤外地に別の小さな水脈も見える)。角政が家老に会いに駕籠をやる道、民家塀際。家老屋敷、民家門
*鳥見役に石原裕次郎、人を斬らない男で、寄ってくる蝿を追っ払う得物はトリモチ付きの竹棹、これで鳥を獲ることはない。殿様の幼馴染設定で、なりは浪人ふうの総髪。肩にとまる鳥は文鳥。

監督/田中徳三 脚本/池田一朗


第8話 忘れじの花 1974.11.21

 行きがかりで助けた女郎と、宿場はずれの一軒家で暮らし始める市。幸薄く生きてきた女は、初めて生きることがいいものと知った・嫁にしてくれと漏らすが、悪い運命が追いついてくる。

 ロケ地、お菊の首吊りを止める市、不明(大堰川河川敷か。礫河原にススキ原)。ヤクザからお菊を奪い取り二人ゆく道、野道は北嵯峨か(崖落ちシーンは山中?/家主の老婆の里芋畑も北嵯峨か)。お菊を失った市が再び旅ゆく街道、嵐山自転車道(手前に白菊と遍路女二人を置き、遠景で市の立ち回り)
*お菊に十朱幸代、蓮っぱなお女郎も良し、市の背中で満天の星を見てこときれるシーンは圧巻。彼女を売り飛ばした若旦那に山城新伍、小ずるい色悪が開き直るとこ、絶品。

監督/勝新太郎 脚本/東條正年、奥村利夫


第9話 二人座頭市 1974.11.28

 ニセ座頭市を演じ親分衆にタカる男だが、操る毒婦に見限られ始末されかかるところへ、本物の市が現れ仕込み杖を振るう。

 ロケ地、コブ市が始末されかかる水辺、琵琶湖畔。コブ市救出後二人ゆく街道筋、不明(ちょっとした峠に見える)
*偽物の按摩は市の幼馴染のコブ市、勘が悪く鼻も利かない鈍さで、悪女に手玉にとられる気のいい男を植木等が演じ絶妙…盲目の表現が市と被るとこなんかホントに芸達者。女は浜木綿子、コブ市と市の両方に「あんたの友達だから悪く言いたくないんだけど」とやったり、体を求められてお女郎を替玉に使ったり。天神の親分に遠藤太津朗、強欲で好色ななヒヒ爺が絶品で、流し目が気持ち悪くもカワイイ。

監督/勝新太郎 脚本/高橋二三


第10話 やぐら太鼓が風に哭いた 1974.12.5

 行きがかりで拾った力士の青年、侠客だったという彼の父を捜す市は、ヤクザの利権争いに巻き込まれる。

 ロケ地、部屋をしくじり途方に呉れる大八に飯をやるとついてきてしまう橋、不明(丘の下の石橋、七谷川の旧橋に似る)。赤松一家が市を追う道の渡し場、罧原堤下河原か。赤松の親分が奉納相撲の一行を先回りして取り込む神社、藪田神社(参道、鳥居)。来ない一行を待つ元侠客の仁兵衛と娘、本梅川左岸堤。そこへ市を探してやって来た大八が渡りかける橋は若森廃橋
*市に面目を潰され殺しにやって来た先で相撲利権も貪る赤松の親分に中谷一郎。元侠客で蕎麦屋の親爺に神山繁、足を洗っても一本筋の通った男設定。*タイトルは当地を去る市の耳に届く、相撲興行の楽の音。

監督/田中徳三 脚本/直居欽哉


第11話 木曽路のつむじ風 1974.12.12

 さすがの市も飛び道具には敵わず、撃たれて大ピンチ。たまたま村に来ていた徳高い医師が助けてくれるが、その先生は山で麻薬を採らせているヤクザに談判に行き斬られてしまう。
医師を害した者どもを市が成敗している間、元弟子が現れ手術するが、彼は市を撃ったスナイパーの渡世人という因縁がついている。

 ロケ地、甚五郎一家に追われ草原を逃げる市、不明。三年ぶりにやって来た玄庵を歓待する村、不明(蔵と石垣塀)。市が狙撃される神社、不明(ランダムな石段上がったところに小祠)
*草原から逃れて街道に出てくる市、カモフラの草付けたままよたよた歩き通行人に笑われる。馬子が休んでいるところへ出てくると、馬が草を食みについてきてしまい馬泥棒の疑いがかかったりして笑える。*市を追ってきた同業者に頼られる御嶽の佐平次に石橋蓮司、金に汚い酷薄な二足の草鞋の親分がモロはまり。市が彼を殺りに来る段は傑作、上機嫌で宴を開いている畳からすとんちょ→血煙は見てのお楽しみ、首だけ出たレンジの表情が必見。医師は木村功、元弟子に本郷功次郎。

監督/黒田義之 脚本/浅井昭三郎


第12話 やわ肌仁義 1974.12.26

 親の仇を討ちにきた女渡世人と知り合う市、助平親爺の毒牙にかかる寸前の女を助けるが、女のなりに着替えて市に見て貰おうとした彼女の前から、市の姿は消えていた。

 ロケ地、女渡世人が里を見やる巌頭や市が顔を洗う谷川、不明。悪魔祓いの花火が打ち上げられる川辺(ラス立ち)酵素河川敷
*女渡世人の父は市がむかし世話になった富岡の親分。*女渡世人に上月晃、無理して突っ張っている娘らしさを好演。仇には井上昭文、どスケベ親爺炸裂。これの情婦に春川ますみ、嫉妬深い姐御設定で騒がしく、市にスケベ親父懲らしめを請う。殺すまでやらなくてイイと条件を出すが、殺されたと聞いたあと平然と流すあたり妙味。

監督/倉田準二 脚本/高岩肇


第13話 潮風に舞った千両くじ 1975.1.9

 組のため島送りになった鉄砲玉、御赦免で帰ってみると労うどころか邪魔者というよくある話。女房は親分の情婦になっており、そのうえ妹を代官の慰み者にと画策され男は暴発、ここへ市が現れる。

 ロケ地、街道に寝転ぶ新助を構い保護する市、不明。新助が女房と話す勝浦の海辺の茶店、琵琶湖畔か(波のイメージが挿入される。水面はベタ凪ぎで遠景に島影)。ほかに田畔や堤道っぽい地道も出てくるが不明。
*馬鹿を見た鉄砲玉に原田芳雄、タイトルは彼を介抱した市に礼と呉れてやった富籤で、これが大当たり千両。返そうとする市と要らんと突っぱねる新助のやりとりが傑作。片袖抜いての、原田芳雄の汗臭い殺陣も見もの。欲深女房に赤座美代子、山守組組長みたいな親分に小池朝雄。

監督/井上昭 脚本/直居欽哉、原田順夫


第14話 赤ン坊喧嘩旅 1975.1.16

 市を付け狙う渡世人、行き悩む女に駕籠を譲ったばっかりにその女が殺され、市は赤子を引き受ける羽目に。子を父のもとに届ける旅を続けるうち情が移るが、思いを振り切り届けた先で市は外道を見ることになる。

 ロケ地、六人連れの渡世人に追われる街道、不明(起伏のある田んぼ)。赤子に詫びつつ歩く川端、不明(小川の堰堤越し)。赤子のおむつかぶれに湯治を勧められる茶店、不明(川端)。外道父に拒否され赤子を預けに行く寺、西寿寺(女掏摸が危機を知らせに来る段で本堂縁先、やってきた外道父と行き会うのは石段上部)
*市を付け狙う渡世人の首魁に岸田森、白面がコワい。子の父で岸田森に唆され市を狙う親分に中山仁、とんだ女たらし設定。途中から道中を共にする女掏摸に大谷直子、市の説教や婆や呼ばわりにむくれる顔が可愛い。*またまた市の傑作カモフラあり、今回は案山子。ヘンなカッコはもう一つ、湯治場でコソ泥に根こそぎやられてムシロ巻きで賭場に現れたり。泣く赤子に自分の乳を含ませたり、お稲荷さんや渡し場の幟をおむつにしたりとコミカルな場面がほのぼのと続き、子と別れ難くなる市の思いを盛り上げてゆく。

監督/勝新太郎 脚本/星田正郎


第15話 めんない鴉の祭り唄 1975.1.23

 金欲しさに出入りに加わり市を襲う男、しかし反省しきりなのを見た市は金を与え、堅気になった姿を見にゆくと約束。お話は市が訪ねた高萩の甘酒屋での後日談が主体、男は帰っておらず貰った金を盗られ殺されていた。

 ロケ地、甘酒屋の女房の野辺送り、広沢池西岸の道(農地からの撮り)。高萩の親分が市に宇之吉を斬ったか迫る水辺、広沢池北西岸田畔。宇之吉の女房の墓、広沢池北岸。坊の呼ぶ声を背に当地を去る市、大堰川堤か。
*高萩の親分に佐藤慶、筋の通った好人物で荒事はナシ。甘酒屋のお糸に惚れている子分に浜畑賢吉、市を弟分扱いするお調子者に下條アトム。ヒロイン・お糸は松坂慶子。

監督/森一生 脚本/直居欽哉、原田順夫


第16話 赤城おろし 1975.1.30

 落ちぶれ民の迷惑になりかけている国定忠次、逃がしてくれた男の心も通じずその甥の子分に当る。市は黙って甥に斬られた男の首を携え、忠治に引導を渡しにゆく。

 ロケ地、岩鼻代官所の役人が出て検問の山道、谷山林道か。忠治が籠る赤城山、不明(暗すぎ)。刑場、大堰川河川敷か(石礫)
*忠治に辰巳柳太郎、叔父を斬りに行かされる子分に梅宮辰夫。

監督/勝新太郎 脚本/直居欽哉、原田順夫


第17話 花嫁峠に夕陽は燃えた 1975.2.6

 三年ぶりに訪ねた庄屋宅では祝いの支度、市の揉み療治で丈夫になった娘が今日嫁に行くという。しかしその幸せに影、普段から横暴な代官が横槍を入れてくる。

 ロケ地、直訴を企てた百姓が代官一派に追われ、その場で雇われた用心棒に「斬られる」野原、不明。市が三年ぶりと触る道標のある山道、不明。庄屋屋敷、民家長屋門。庄屋の娘・おちかの花嫁道中に行き合わせ仲人を申し出る代官、谷山林道か。急遽祝言の場になった岩鼻代官所、民家長屋門。絶望したおちかが入水未遂の川、落合か。事後、晴れて嫁入りのおちかを眺めやる市と「行商人」、不明。
*今回は市のほかにも助け手がいる趣向、代官の悪行を探っていた隠密回りは要所で出て、代官の意向で殺された筈の人はみんな保護され無事だったりする。ほとんど接触なしに市と気脈を通じる妙が見もの。ヒロインのおちかに紀比呂子。

監督/森一生 脚本/山田隆之


第18話 すっとび道中 1975.2.13

 島帰りの鉄砲玉とあばずれ女、存外真摯な彼らの恋。ハナから二人を利用するつもりの汚い親分は、一家ほぼ丸ごと市にやられてしまう。鉄砲玉に中村賀津雄(表記ママ)、市とのやりとりが軽妙でおかしい。

 ロケ地、子供の掘った穴に落ちる市、堤道か。鉄砲玉が逃げる薄原や山道、不明。預けてあった女が身投げと聞かされる千畳岩、保津峡落合落下岩。親分から逃げた女が捕まるお宮さん、不明。
*カツオちゃん逃げて早々に負傷、あとずっと足引きずったまま。なんか情けない感じ+小汚いふうが「巳代松」によく似る。表題は的を殺って女のもとに急ぐ男、市が落ちた穴の上をまさに「すっとんで」跨いでゆくのが印象的。

監督/黒田義之 脚本/池田一朗


第19話 故郷に虹を見た 1975.2.20

 腹違いの弟の罪をかぶり故郷を出た兄が三年ぶりに帰って見たものは、人手に渡り変わり果てた店の姿。感情のもつれは命のやりとりまでいくが、絆は断ち切れない。

*ロケ地、山道や川べり等ほぼ不明。*板前の兄に藤田まこと、弟に河原崎建三、妹に真野響子で父は浜村純と濃い家族。裏で糸を引き店を乗っ取った悪辣親分に織本順吉、市をべたべた触り嫌がられるのが傑作。手下に長谷川弘。親分の毒牙にかかる寸前の「妹」を助けに入る市の立ち回りが圧巻、女を庇いつつ振るうドスは見もの。

監督/井上昭 脚本/池田一朗、東條正年


第20話 女親分と狼たち 1975.2.27

 先代が兄弟盃の狩場一家と松葉一家、互いの息子を交換し育てる仲だったが、狩場一家の女親分が育てた「息子」は増上慢の荒くれとなり狩場のシマも狙う始末。そこへ堅気の職人として育ったはずの狩場の後継が渡世人になって帰ってくる。市は女親分の組を潰したい意向を確かめ動くが、二人の息子の対決は避けられぬ運命だった。

 ロケ地、幸助に堅気になってと迫る松五郎の妹、大堰川河畔か。養母には手を出さぬという松五郎に焦れ、狩場の女親分を殺そうとした子分どもが市に殲滅される林、鳥居本八幡宮広場。サシで勝負の松五郎と幸助、大堰川河原か。
*松五郎に佐藤慶、幸助に山本圭、役者の個性がよくハマる配役。女親分はミヤコ蝶々。

監督/森一生 脚本/高橋二三


第21話 湖に咲いたこぼれ花 1975.3.6

 市が心中者を見るところからはじまるお話、その後入った酒肆で会った気のいい女が「待っているの」とうっとり話す男の名は、心中者の片割れと同じなのだった。

 ロケ地、湖畔、広沢池か(水面と葦原しか映らず判断材料に乏しい。根拠は亡骸となった男の髪を梳かす女のシーン、櫛を水で濡らす汀に浮いたオイル状の汚れ)
*色悪に林与一、済まないねぇとよよと泣く顔が酷薄な表情に切り替わる妙が見もの。彼を待ち続ける健気な女郎に小川知子。*大きな桶を被され、てとてとコミカルにステップを踏んだあと、ばらっと桶がきれいに割れて市登場の立ち回り傑作。

監督/井上昭 脚本/高橋二三、中村努


第22話 父と子の詩 1975.3.13

 たちの悪い貸元にたばかられ身を持ち崩した八州回り、用心棒として無為の日を送るが子の危機におっとり刀で奔り大立ち回り、「生まれ変わって」歩みだす。

 ロケ地、市が用心棒の子と出会う橋、不明(欄干の違うのが二つ見える。低いほうは若森廃橋に似て、材は朽ちている。高いほうは用心棒が子と旅立つラストシーンにも出てくる←犬飼川や曽我谷川の旧橋に似る)
*用心棒に田村高廣、仏頂面で役目をつとめ酒ばかり呑んでいてほとんど口も聞かないが坊がさらわれたと知るや一転、貸元宅へ走り出す。これからが大活劇、走る姿からもうキマっていて殺陣は絶妙、小躍りして斬り下げる豪快さはさすが阪妻の血。また、この間市は表で様子を窺っていて入ってこないのがたまらなくイイ。貸元に田中邦衛、つるむ役人に菅貫、お二人とも持ち味を発揮し見どころ多し。

監督/黒田義之 脚本/高橋二三、宮嶋八蔵


第23話 心中あいや節 1975.3.20

 庄屋の息子が懸想した瞽女は、庄屋の差し金ではなれ瞽女に。息子は強制的に嫁をとらされ子もなすが、愛した女を忘れ得ず死をもって逃避する。

 ロケ地、雪嶺、雪に埋もれた里、朽ちかけた木橋、荒波寄せる浜、全て不明。クレジットには芦原温泉と記されている。
*瞽女に浅丘ルリ子、その妹に吉沢京子、庄屋に加藤嘉、息子に松平健、庄屋が放った刺客に石橋蓮司。じょんがらや謡はもちろん見事、あと音ではレンジの噛む豆の音が印象的。

監督/勝新太郎 脚本/星川清司


第24話 信濃路に春は近い 1975.3.27

 善光寺参詣帰りの富商の娘が身代金目的で狙われる、早春の信濃路。誘い出された彼女と道連れになった市が娘に伸びる魔手を防ぐのはパターン通り、メインテーマは世間知らずの高慢な令嬢が人の怖さを知りかつ情を覚る成長物語、謝ることを知らなかった娘は黙って姿を消した市に向かって叫ぶ「市さんごめんなさい」。

 ロケ地、山道野道ほぼ不明。乳母が病とのニセ情報で誘い出された絹問屋の令嬢が市と出会う岩村田の渓流、保津峡落合河口。
*令嬢を狙う渡世人やところの親分に芦屋雁之助、近藤洋介、和崎俊哉。*市の殺陣見どころは左右の草鞋結ばれてぴょんぴょん飛びでの立ち回り。

監督/安田公義 脚本/犬塚稔


第25話 渡世人 1975.4.3

 市を親分の仇と狙う二人の若い渡世人、死んだ時の世評からも親分がろくでなしなのは判っているが、だからこそ尚更筋目は通さねばと決死の覚悟。二人の心底を見た市は殺すに忍びず去ろうとするが、縄張目当ての汚い親戚筋が彼らを消そうとしていた。

*街道筋等ロケ地ほぼ不明。若い渡世人に近藤正臣と新克利、新の妹に真木洋子。縄張目当ての親戚筋に渡辺文雄と今井健二。

監督/黒田義之 脚本/内海一晃


第26話 ひとり旅 1975.4.17

 故郷へ帰る市、迎えた和尚は市の業の深さを覚り、仕込杖を封印し穏やかな生を送らせようとするが、市を狙う者どもは容赦なくやってくる。

 ロケ地、笠間・箱田村の西念寺、丹波国分寺。ここが主舞台なので寺の内外をたっぷり使う。まず市が寺へ入るシーンは門を内側から。寺での開帳を強要する渡世人たちがやって来るシーンはお堂を裏手から。境内をお掃除の市に声を掛ける由美は礎石群。鐘楼での鐘撞きもある。門前の道には「はさ木」が並ぶ。
*ヤクザの被害を受け市を追い出せと騒ぐ村人が、和尚の死後一転市の存在を肯定し受け入れ暖かい言葉をかけるくだりや、和尚が身をもって市を庇うくだり、和尚の埋葬で掛ける土に仕込みを発見する仕掛けなど、これでもかというべったべたの筋立てを受けての市のしぐさがもうたまらなくイイ。このとき一切台詞なし、市の微かな動きから見る者の身を震わせる激情が伝わってくる。*和尚に中村鴈治郎、登場時河豚に中って埋められたりしている。市に好意的な村娘に由美かおる、役名は「お由美」。*市を狙う賞金稼ぎの一匹狼に竹脇無我、市情報をネタに稼ごうとするチンピラに中尾彬。この二人の交錯も見どころの一つ。

監督/三隅研次 脚本/直居欽哉


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