木枯し紋次郎

中島貞夫監督作品 1972.6.21東映

キャスト
木枯し紋次郎/菅原文太 佐文治/小池朝雄 お夕(流人のお夕と二役)/江波杏子


 信じていた兄弟分に裏切られる渡世人の話。罪を肩代わりして暮らす島で疑念を抱いた紋次郎は島抜けを敢行、しかし刺客を蹴散らし乗り込んだ先で佐文治よりひどい裏切者を見ることになる。

ロケ地
三宅島、現地ロケ(海浜のほか海崖や黒い丘など。赦免花を咲かすという二本の蘇鉄は段丘に、紋次郎の暮らす小屋も海の見える丘)
・島抜けを企んだとして吊るされる流人たち、井尻に似た起伏のある荒地(年代的に井尻は疑問あり、三宅島撮りと思われる)
・身籠った流人の女・お夕の小屋、広沢池畔か。
・新たな流人が「披露」される役所、現地の民家か(前庭に蘇鉄のある萱葺、「島役所跡」にも似る)
・島抜けの船が難破し、紋次郎たちが打ち上げられる伊豆・網代の浜、間人海岸
・網代の宗助のもとで旅装を調えた紋次郎がゆく山道、不明。
・紋次郎を見かけた丈八が馬を盗って走り出す橋、本梅川若森廃橋
・紋次郎を追う網代一家の男たち、不明(谷地田、川辺)
・日野へ向う紋次郎が水を飲む早瀬は落合河口、渡る橋は犬飼川下河原橋
・網代と佐文治双方の刺客に挟み撃ちされた紋次郎が大立ち回りの河原、大堰川

大堰川

・紋次郎が佐文治と知り合うのはとある貸元、二人並んで渡世人の作法通り食事をする場面がある。このへんはいかにも東映テイスト。
・日野宿の佐文治のもとに一時身を寄せる紋次郎、ここで「運命の女」お夕と出会う。彼女は両替商の娘、堅気の娘さんに対し一歩身を引く紋次郎に積極的にアプローチ。
・日野宿の二足草鞋を殺った佐文治、老母を看取りたいという彼の罪を引き受けて紋次郎は三宅島遠島に。流人船を小船仕立てて追ってきたお夕は紋次郎の目の前で「世を儚み入水」。これがため紋次郎は島で同じ名の流人の女・お夕の難儀を放置できず世話を焼くが、彼女もまた絶望の果てに墜死。この流人のお夕が心待ちにしていたのが蘇鉄の開花、すなわち赦免花であった。
・島での紋次郎は篤実に働き、村役の信頼も得る。島抜けなどは全く考えておらず、老母を送ったら名乗って出るとの佐文治の言葉を信じて御赦免を待つ。それが虚偽であると知るのは新たに来た流人から。佐文治の消息を伝える流人は西田良。
・腕の立つ紋次郎を引き込んで島抜けを企む流人の一味あり、元船頭の荒くれ(山本麟一)、けっこう正義漢で意外な役目も帯びるヤクザ(伊吹吾郎)、無慈悲な色悪(渡瀬恒彦)、春をひさぐ蓮っ葉な流人女(賀川雪絵)。彼らの誘いを退けていた紋次郎だが、佐文治への疑念に加え流人のお夕の死を見て「参加」、決行は雄山大噴火を期して行われる。無事沖へ出たあとも難破したあとも、粘着質な人間模様が繰り広げられる。
・伊豆からは一気に日野宿を目指す紋次郎、佐文治の兄弟分の網代の貸元から放たれた刺客と、当の佐文治が放ったそれと二方に狙われる紋次郎だが、しぶとく斬り抜けまっすぐに日野へ。川中での大立ち回りは福ちゃんや川谷拓三入り。そして日野宿、佐文治の家には赤子を抱いた、死んだはずのお夕がいた。

*2007年10月3日放送・KBS京都「中島貞夫の邦画指定席」より解説担当の中島監督談
・時代劇にほとんど出たことがなかった菅原文太を使っての制作に際し、俊藤プロデューサーの押しもあり「関わりござんせん」の台詞をなぜ吐くようになったかという点に着目・木枯し紋次郎誕生編をやろうというコンセプト。
・三宅島ロケ情報は監督のお話から、当時としては大規模で長期に亘った模様。

*出ている人も同じだし、情にほだされて兄弟分の罪を被ると大嘘というあたりが、鉄砲玉がムショから出てみると何か冷たい扱いなんていうのと被り「ほとんど仁義なき戦い」で、見ているうち文太兄いの人称が頭の中で「広能」になっていたり。任侠ものも時代劇もリアル路線に変遷しつつあった昭和40年代後半を、解説の中島監督は「日本人が個人的な世界に入ってゆく世相」と表現なさっていた。


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