神谷玄次郎捕物控
1990CX

第1話 「誘拐

 捕物控の名に相応しい推理物。事象を細かく積み上げ止揚する凝ったつくり。
話は金に詰まった商家の主人が実家から金を引き出す算段で引き起こす誘拐事件に岡っ引も一枚噛んでいるという生臭もの。初回だけにストーリイ進行とともに重厚に語られる主人公とその周辺、説明に走らない脚本が出色の出来で脇役陣も渋い。一見ぐうたらで卯達のあがらない実は切れ者の北町同心の日常を細やかに描く。
 ロケ地、OPの町をゆく玄次郎、妙心寺大沢池(立小便)。
 船番所へ着ける神谷たちのシーンに八幡堀。容疑者の浪人引き立ててゆく船上、八幡堀・明治橋上手。船のシーンは伏見の松本酒造前の東高瀬川へスイッチ。回向院で誘拐される菊屋の娘の事件の検証現場、下鴨神社の参道入ってすぐの石橋付近・背後に河合社。岡っ引・弥之助が下っ引に声かけるのも同所の石橋。


第2話 「密告

 ディテールを積み上げてゆく推理物は数多あるが画的にも精度の高い傑作。だが人によってはうるさいと感じる向きもあるかもの個性つよい一作。
 父の使っていたタレコミ屋が家に来るから寄って行ってくれと鳥飼同心に頼まれる神谷、粟生光明寺山門。密告屋の磯吉が殺されている橋、中ノ島橋。磯吉の話しながら銀蔵と連れ立って歩く神谷、大覚寺放生池堤。居酒屋・卯の花の主人を呼び出し鳥飼の先代の話聞き込む神谷、桂川渡月小橋付近の中洲。鳥飼の父の上司・高柳が殺されたあと銀蔵・鳥飼と話しながら石段を下りる神谷にインスピレーション来る、粟生光明寺。それに基づいた探索の報告聞く、上御霊神社楼門〜合祀摂社
鳥飼囮にした捜査で網にかかった島流しになった罪人の息子を殴りつけよし野へ赴く神谷。


第3話 「秘密

 料亭・よし野、器用な手つきで出し巻仕上げる勝蔵、子供に玉子焼き「内緒」と言ってまるごとやる物腰が可笑しい。二階ではその子を連れ花見にゆこうと神谷、しみじみ嬉しそうな女将・お津世、そこへ銀蔵親分がコロシの話持ってくる。
 回向院は振袖火事の犠牲者を祀ったことに始まると語るナレーションに風化した石仏の映像、化野念仏寺。その裏の相生町で19歳の女が惨殺。覗いていた老爺に不審持ち尾行させるがまかれる。勤め先の聞き込みで浮上した若い男も捕えてみれば無関係、しかしその男からもたらされる頬に傷の侍の情報。
 神谷の手先をまいた老爺は小間物商・井筒屋主人。実直な使用人に後事を託し旅に出ると告げる。これが往年の大盗・ムササビの吉兵衛で、生涯で初めて惚れた女・おやえの復讐目論み密かに探索の手伸ばす。調書受け取る吉兵衛、大覚寺五社明神、背後に心経宝塔
 顔に刀傷の侍・陣内がゆく、下鴨神社河合社前。尾ける吉兵衛、気付き斬りかかる陣内、割って入る神谷。吉兵衛を番屋に連れてゆき話すが陣内の件の報告聞く僅かな隙に鉤爪使い逃げられる。陣内の消えた古着屋・大坂屋に侵入し凶盗・蝮の一蔵にムササビの名乗り上げ斬り結ぶ吉兵衛、人数繰り出され窮地に陥るところへ神谷。一味は捕えるも吉兵衛は捕えず「今ならまだ大木戸開いてるぜ」。
吉兵衛のことで上司に雷落とされる神谷、抜け出し桜見に。待っていたお津世と息子、大覚寺放生池堤は半ば葉桜。


第4話 「疑惑

 自分が寄場送りにした音吉が帰還するのを迎えに出る神谷、罧原堤(堤下汀)に船手番所セット。そこで見かける一色堂の勘当息子と後妻の曰くありげな態度。
寝間で殺害された一色堂主人、誰も真実を語らぬなか事実を積み上げてゆく神谷。結局三年前勘当息子が寄場送りになった事件から事情割り出し解決。
二転三転する証言や複雑な背後関係人間模様、理屈っぽい作りに挟まれる関係者の日常が色を添える。
 ロケ地、芸者時代の知人に脅され金渡すおるい、大覚寺五社明神。旅立つ鉄之助見送る神谷と銀蔵、大沢池堤(南側)。


第5話 「消えた女

 よし野の店仕舞い、神谷の肴作っている勝蔵、アイナメの煮付け(旨そう)。帰途の勝蔵、盗賊・「流れ星」を追う捕方を見掛ける。神谷との会話から元十手持ちなのが知れる。
家に戻る勝蔵、戸口の隅に女下駄、回想のおようとの暮らし、擦れ違いの生活責められる岡っ引の勝蔵。程なく家を出たおよう、勝蔵も十手返上し一年が過ぎている。
紀州屋へ出張る神谷、もう四回も「流れ星」に侵入られるが然程金品は盗られていない。
よし野へ勝蔵訪ねてくる弥八・おようの父。おようを許してくれないかと問う弥八に目線泳がす勝蔵、所在は知れたのかと問う。三行半を渡してやりたいのだこれが無ければ新しい男と一緒になれまいと言う勝蔵に弥八はおようの簪と「たすけて」と書いた文見せる。岡場所へ身を沈めているらしいことが知れる。岡場所へ出向き飯盛女におようの事を聞き込む勝蔵、足抜け図りどこかへ連れてゆかれたとおじゃれのひとりが告げる、見世出た途端襲ってくるならず者たち。
おようを連れて逃げた男・吉蔵を訪ねる勝蔵、締め上げおようの手鏡持ち去る。その後吉蔵を尾行する勝蔵、料亭の円窓から差し出される小判受け取る吉蔵を見る、座敷では紀州屋の女将の痴態、相手は侍。金せびった吉蔵は直後に斬られ自身も上膊部に深手追う勝蔵。吉蔵はおようの所在は紀州屋の女将に聞けと言い残し死す。神谷に話上げる勝蔵、後は任せろと神谷。
紀州屋に奉公していたおよう、女将と作事奉行・臼井の密会見てしまったおようは売り飛ばされたのだった。紀州屋を追っていた流れ星・その実は潰された材木問屋・秩父屋の息、五度目の盗みの果て入手した臼井の書き付けを神谷に託す。断罪される臼井。紀州屋にも司直の手回る。未だ癒えぬ傷をおして岡場所でおようのこと聞き込む勝蔵、探し当て家に連れ帰るも時既に遅くおようは勝蔵の手の中で息を引き取る。遺体を受け取ると言う父・弥八の前で三行半破り捨てる勝蔵、おようは俺の女房だと。枕頭の手鏡が哀しい。
ラスト、菜の花の中をゆく神谷とお津世、伏見松本酒造酒蔵前。
おようの父に土佐源氏の坂本長利、渋し。それ以上に渋い勝蔵役の火野正平、ほぼ笑わずコミカルな要素も極力抑えしかし滲み出る哀感、新仕置「夢想無用」の二十年後円熟した火野正平が演じる「おんな」への愛しみ、尽きせぬ思い伝わる演技、得難い役者と痛感。


第6話 「神隠し

 町なかで無体働きまくる札付きの旗本の若いの三人、ここ半年ばかり「神隠し」とされる女からみの一連の事件は彼らの仕業。その毒牙にかかった伊沢屋の女将、事を伏せたままにしようとするが強請られた金を都合してくれた兄は失踪、呼び出された辻堂で当の旗本は何者かに殺害されるという大事に。神谷の真情に真実を告白するがオチは旦那の「死神」新兵衛のしてのけたこと。神谷の手柄で旗本二人の殺害は不問、首魁へ斬りつけた一件のみで寄場送りで落着。
相変わらず兄が実行犯などの安易なものではなく展開が面白い。


第7話 「針の光

 若い女の土左ヱ門が引っ掛かる小名木川、桂川大堰。死体検分する神谷、嵐山公園中州下川岸。畳針で首刺され絞められている、一年前多発の通り魔と酷似。
南部藩上屋敷で町方との紛争に備えた賄賂受け取る神谷、大覚寺大門
上野広小路の茶店で旗本にからまれている若侍助ける神谷、茶店の娘・お咲は若侍・御目見以下の御家人の次男坊・秋月兵馬と恋仲・身籠っている。
第五の犯行。また水茶屋の女が深川仙台堀に浮く、八幡堀白雲橋上手の堀端で死体を詮議の神谷。ここで先の通り魔と傷の向きが違うことに気付く。また、人相書きから情報入り犯人は武家髷から町人髷に結いかえたことも判明。神谷は勝蔵に秋月の調査を依頼。
武家屋敷街の角で魚屋と座り込んで話す勝蔵、妙心寺塔頭道。背後を通りかかる秋月を尾行。走り方・寝たフリ・見張り・聞き込み等それぞれに火野正平が今まで演じた諸作品の名残うかがえ興味深し。調査の結果秋月は富商への婿入りが決まっていることが判明。
神谷に秋月とのことをやんわり注意されたお咲、夜に密会の水辺、柊野堰堤。お咲が針で殺されかかるところに神谷たち、秋月をお縄に。先の二人の殺人はお咲を殺すカムフラージュであったという後味悪い結末。


第8話 「岡っ引殺し

 足の悪い岡っ引・幸太が商家に金せびるのを諌める神谷。幸太の足は15年前盗人に刺されたもの。その幸太は銀蔵の女将の髪結いの回り先で殺される。
15年前の因縁が回り巡る事件の真相は足洗った老盗賊二人の人を思いやる気持ちから発したもの。祝言間近の娘の幸福願う長門屋、隣家の親切な母子の身の上思いやる作十、ともに余命幾許も無い身の上。
調べを進める神谷らが襲われる、上賀茂神社ならの小川畔。作十の仕事場訪ねる神谷、流れ橋下。真相を上げず未解決のままにする神谷。ご褒美はよし野で勝蔵が供する美肴。これを作らされる残業の勝蔵、雇用主のお津世に「皿」とか言ってなんか偉そうなのが笑える。


第9話 「追い詰められて

 雨の中、破損した片っぽ草履で歩く神谷、通りすがりの女に草履を貰う大川、中ノ島橋
 男を手玉に取る料亭の女将が殺害される。この犯人の気弱そうな男・新七がたまたま神谷に草履をやった女・おすみの店に逃げ込んでくる。薄幸そうなイメージのおすみは新七の境遇に同情し庇う。二人の間には微妙な感情も育ってゆく。
新七には病篤い老母がいて大川を越え品川へ行かねばならないが、殺した女将のヒモ連中が大川の橋を固めていて出るに出られない。
深川をベニスに譬えたイメージ映像がナレーションに被る、八幡堀。品川の新七の老母がいる家、萱葺き民家ロケ地不明、銀蔵が張り込んでいる。おすみの家にはボランティア買って出た勝蔵が張り付く。
遂におすみの家を出て老母のもとに赴く新七、未練たっぷり。品川へひた走るが家の手前で神谷が待ち構えている、大沢池堤。情をかけ飄然と銀蔵に預けて去る神谷。


第10話 「闇の穴

 富岡八幡宮の縁日で松葉屋が刀を穢したと浪人にからまれる、石清水八幡宮。うーんそう言や深川の八幡様とはよく似てるなー。難儀する松葉屋を助けたのは黄門ルックの老人、しかしこれは人食い狼と異名をとった音止の松五郎という大泥棒であることを銀蔵親分の下にいる直吉が目撃。
 同じ頃、よし野のお津世の三年前失踪したきりの旦那・峰吉が舞い戻ってくる。揺れるお津世だが神谷も直吉も「大人」の会話で波風は立てず、直吉は神谷に頭下げ手切れを乞う。よし野の下女は興味津々、板前の勝蔵は静かに気を配り峰吉の行動に目を光らせる。
 お津世と別れた神谷はくさくさ、対照的に息子と遊んだりして陽気な峰吉、罧原堤(堤下草原)。しかし峰吉は音止の松五郎の一味で、勝蔵の読み通り、改心して帰ってきたのではなかった。
松五郎は助けてやった松葉屋に頻繁に出入り、実はからんだ浪人も一味の「活け込み」の芝居で、松葉屋がターゲット。手回り押し込み前に踏み込まれる松五郎一味、逃走した先の掘割で大乱闘、大覚寺有栖川大沢池溢水口付近。追い詰められ大童の峰吉、神谷に女の取り合いは俺の勝ちと喚き斬り捨てられる。
 事後ずぶ濡れでよし野に来る神谷、戸外でこれもずぶ濡れで酔い潰れているお津世に峰吉の死を告げる。峰吉は三年前に死んだと言い泥の中に倒れるのを両刀放り出し抱き寄せる神谷。
神谷が来たのに気付くが黙っている勝蔵の目だけの演技が○。


第11話 「霧の果て

 堀井伯耆守家中の印南が凄腕の辻斬りに殺害される。今わの際に残した井筒屋の言葉、斬り口から18年前神谷の母と妹が殺された事件との類似浮かぶ。また、殺害時一緒にいた同僚が神谷に託した書類から札差の井筒屋が裏米で暴利を貪っていたことや先の老中・水野が関わっていることが明るみに出る。井筒屋には司直の手が入るが水野には手を出せずクサる神谷、辻斬り働いた用心棒の鶴木右膳が盗られた女房ごと水野を斬殺。鶴木と神谷は一騎打ちとなる。勝負は一合にて決すが太刀行きの迅さ、見もの。
 ロケ地、鶴木が訪ねる女房が囲われている水野邸、中山邸(参道、庭、通用門)。堀井伯耆守別邸、大覚寺大門。鶴木の調査結果を神谷に報告する銀蔵、大覚寺天神島〜放生池堤。鶴木と神谷一騎打ちの大木が中ほどに生えている石段、高山寺参道石段(タイトル通りの演出でスモーク焚きまくり)


OP  市中を見回りの神谷(セット)〜中間連れた武家娘をじろじろ眺める神谷、妙心寺塔頭道〜屋台で昼間から一杯やってる神谷(セット)〜立ちション神谷、大覚寺放生池堤から大沢池に放尿〜橋の下の船でお昼寝神谷(セット)〜道場で型使う神谷(セット)
ED  風車アップ〜
粟生光明寺石段、物売りが賑やか〜干物の竿持って長屋の路地をゆく男(セット)〜飴売り(セット)〜心太売り(セット)〜妙心寺塀前をゆく物売り〜吊るし亀アップ〜大覚寺放生池畔で亀を売る行商人〜心経宝塔バックに団子屋〜粟生光明寺石段上部を降りてくる絵馬売り〜大覚寺参道石橋を渡る絵馬売り〜町屋の格子越しに街路、提灯売りが通る  EDは物売り尽くし、バックミュージックは憂歌団「わかれうた」。


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