旗本退屈男

古海卓二監督作品 1930.10.17市川右太衛門プロダクション/松竹


 窮鳥懐に入らばと、屋敷に逃げ込んできた男を匿い、向こう傷にモノを言わせ町方役人を追い払ってやる主水之介だが、その男実は大悪党。この曲者を取り逃がしたかどでクビになって主水之介を恨み、命を狙った同心を許すばかりかバリバリ協力、婦女子をさらい叩き売る極悪非道の賊の巣へ乗り込んでゆく、退屈のお殿様。
悪党の首魁・十吉のアジトに乗り込み、大立ち回りのすえ手下を仕留め、十吉の首根っこつかんで女たちを隠してあるところへ案内させるのだが、からくり屋敷の触れ込み通り、床の間の紐引くとゴゴゴでBFへの階段登場。地下室で脅えて泣いていた女たちに、ワシが来たからにはもう大丈夫とやっていると、十吉が釣天井のロープを切りにかかりあわや、という段でエンドマーク。

金珠院北端

ロケ地

  • 毒入りの鯛を送りつけられた主水之介が北町奉行所へ向かう道、東大寺開山堂前〜金珠院前。乞食に化けて主水之介を襲った男を、小姓の京弥が取り押えるのは二月堂下芝地、うしろに登廊が見えている。主水之介が駕籠から出てきて男を見る段では、背後に二月堂参道石段脇に林立する奉納の玉垣がのぞき、三月堂の甍が映り込む。
  • 悪党を油断させるため、毒入り鯛で死んだことにする段、町衆がこのことで騒ぐ市中は東大寺鐘楼下石段か。
  • 京弥を女装させ百化けの十吉を釣るくだり、武家行列を仕立てて婦女子物色中の一味が京弥に目をつける道、不明(土塀の向こうに見える大屋根は萱葺き、手前に煙取りつきの瓦屋根が出ている。立ち回りはセットと併用か。坂道の路地も出てくる)

 早乙女主水之介は市川右太衛門、この映画は人気シリーズの第一作でモノクロ、サイレント。凛々しい小太刀の使い手のお小姓・霧島京弥は、宝塚出身の大江美智子。菊路は小夜久子。婦女子をさらい異国に売るお尋ね者・百化け十吉は伊田雅美。十吉を取り逃がしたためお役ご免になってしまう北町同心・杉浦は武井龍三。

 この作品撮影当時、マキノから独立した「右太プロ」は奈良に撮影所を構えていた。ところは現在で言えば奈良市あやめ池北一丁目、近鉄あやめ池遊園地があった付近(開業は1926年/当時は近鉄ではなく、前身の大軌)。


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