日本犯科帳 隠密奉行

萬屋錦之助主演作品 フジ/中村プロ


闇に笑うこんぴら人形(でこ)」 1981.5.8

 「日本」と大きく出るが「長崎犯科帳」とほぼ同じノリ、老中の密命を受けて動く隠密奉行・朝比奈河内守が豪快に紛争を解決する「明るい」ヨロキン全開の痛快時代劇。彼を見張る役目を仰せつかった小人目付には、長崎犯科帳でもコンビを組んだ「ウタさん」新克利。
 事件は寺社奉行暗殺からはじまる。殺害方法はぼんの窪に金毘羅人形がぐっさり。以降暗殺は計六件、その都度「暗殺その一」などとテロップが入るのが笑わせる脚本は池田一朗。血腥い事の裏には、二十年前公儀に冥加金の件を訴えた金毘羅関係者がむごたらしく殺された「金毘羅騒動」が隠されていた。一族郎党赤子まで刑死したことを聞いた隠密奉行は感情にスイッチ入ってタイヘン。事件当時母の胎内にあり生き延びた男児が、領内にヤクザを跋扈させ民から金を毟り取っていた執事と高松藩重役連を狙うのを半ばサポートのヨロキン、ワルの重役の娘の苦悩も掬い上げてやる優しさを見せる。そして仇討ち完遂を見届けたあと、みんな病死と笑い済ませてしまう豪快な隠密奉行なのであった。

ロケ地
・江戸城イメージ、姫路城
・朝比奈邸、相国寺林光院(玄関から前庭を望むアングル、水石が印象的)
・タイトルロールに琴平宮鞘橋
・金毘羅宮下でヤクザと事を構える朝比奈、毘沙門堂仁王門石段下に露店セット。
・二十年前の事件を坊主に聞きに行く朝比奈、毘沙門堂山王社
・二十年前の権太夫と内記一族の処刑(祓川と聞こえたが、琴平付近の川は金倉川に土器川…みそぎ川の意か)酵素河川敷。横目付が殺される高松街道も同所。松之丞を落とした老爺が住む島は琵琶湖北湖畔か。
・朝比奈のお供で金毘羅へ向かう途中寺社奉行が弓で射殺される道、大内辻堂

*朝比奈の妻女に岸田今日子、帰宅した夫に「お土産は?」は麻佐女さまみたい。勘定家老の娘・お紋に使われるゴロツキの一人に福本先生、冒頭街道筋で尻叩いて役人を揶揄「へーっへっここまでおいで甘酒進上」。


金沢編手箱に秘めた子の涙」 1981.10.9

 将軍綱吉に献上された加賀からの塗りの手箱、取り落とした際出てきた、底板に隠されていた紙片に救済を望む謎めいた文言。これについての取り扱いを任されちゃう隠密奉行・朝日奈河内守、加賀さして出発、前回同様見張り役の真鍋くんももれなくついてくる。道中では親分の仇なんつって斬りかかってくる渡世人を拾い、彼の衣装ととっかえて潜入のヨロキン。以降、渡世人姿で当地をうろつき忍びを斬ったり民衆と接したりして悪事の根幹に迫ってゆく。

ロケ地
・ヨロキンが渡世人として裏街道を行くもんだから、ほぼ山中。谷山林道かな酵素かな琵琶湖かなと疑わしき個所数多あれど、断定に至る記号見出せず。
・子供狩りに逆らって斬られた百姓女の死体が晒される鹿島の岩山(けんじょう山と言うが当該個所不明)のみ保津峡落合落下岩と判明。

*前後に朝日奈邸での妻とのやりとりを入れるのは前作と同様、お土産を要求されるが帰ってきたヨロキンは手ぶらというのも同じ。これだけのために岸田今日子を使う贅沢さ。*真鍋くんは全く上役に信用されておらず追者をつけられるが、これがヨロキンに斬りかかったあと「雇われる」ベコの三平で、ラストに正体を現す火野正平、ぎこちない袴姿が愛くるしい。くの一が化けてる腰元の接待攻勢のくだりや、視察の際などコミカルな演技で真鍋くんとからむあたりは長崎犯科帳を髣髴とさせ楽しい。そしてこの二人、殺陣には一切参加せずラス立ちもヨロキン一人でばっさばさ。山中で忍群とやりあうのももちろん一人で。慌しいまでに斬り抜けるさまは拝一刀なみ、でもダークなものでなく「明朗快活」ヨロキン、苦し紛れの真鍋くんの勧進帳の最中現れ「ちょっと替わって貰ったんだ、ゴメンよー」。*今回のワルの首魁、加賀藩からも独立性を保つ偉そうな陶氏の総帥に菅貫。領内の子供を五歳になったら全部徴発して漆器職人か忍者にしちゃうトンデモ専制君主を演じる。アイパッチが酷薄さを演出、最後には正体を現した隠密奉行に「やかぁしぃやい叩っ斬ってやる」とやられてしまう。*山中でヨロキンに襲い掛かる加賀忍びの一人に福ちゃん、台詞あり「貴様ー、渡世人ではないなー」、斬られてくるっと海老反り。


久留米篇河童が怒る筑後川」 1982

 久留米・有馬藩のお家騒動に介入する朝日奈河内守。今回は町で助けた腰元に同情した妻女から頼み込まれた形で九州まで出動のヨロキン、でも見張りの真鍋くんはきちんとついてくるのだった。

 有馬家には正室と側室の双方に男児あり、正室の子の長兄が後継と決まっているが、お国御前と国家老が結託し次男を次期藩主に据えようとして長子毒殺を謀る。暗躍する怪しの山師たちはお国御前とつながっているが、これには里に降りることを許されぬ一族の悲哀と希望が託されていた。彼らとつるむ国家老は欲望ギンギラの大ワル、事成った暁には側室と山師を始末して後継者になり了せようとしていた。
ここへ乗り込む隠密奉行、食道楽の殿様が江戸から連れてきた包丁人一行に潜り込み、しまいには河童のお面被って長子暗殺を防いだりする。
そして、兄を慕い母の陰謀を快く思わない次男の若様は、兄に向けられた殺意を自身に受け毒を呷り落命、ここに隠密奉行の怒り爆発「てめぇらぁ叩っ斬ってやる」。

ロケ地
・乗馬のお稽古の次郎ぎみ・頼長に意見するお国御前・たかの方、下鴨神社馬場
・朝日奈河内守邸、相国寺林光院(門、前庭)
・ならず者に襲われる有馬家の腰元、相国寺渡廊鐘楼脇。
・登城の河内守、江戸城イメージに姫路城天守
・参勤交代のイメージに蓬莱橋(使い回し、東映の他作品でも完全に同じ画あり)
・先発する有馬家お抱えの包丁人たちに刺客の箱根峠道、谷山林道切り通し。
・久留米、大目付潜入の報を持って筑後川を渡る早馬、木津川流れ橋
・山の衆の拠点の山小屋、酵素(河川敷、ダート)
・有馬藩篠山城イメージに姫路城天守
・筑後川畔で真鍋とツナギの朝日奈、流れ橋上手左岸汀(コンクリ橋脚バック)
・若君二人の遠乗り、進発は下鴨神社河合社前〜馬場(クレーン撮り)嵐山自転車道〜亀岡?の桂川畔。
・殿様たちが墓参の松林寺、二尊院(墓地、黒門、塀)

*潜入に際し町人姿となるヨロキン、料亭の主を口説くのに諸肌脱いで魚を捌いてみせる。*臨時関所の役人と、山の衆と、牢番の役人に福ちゃん。


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