時代劇ロケ地探訪 美山

 由良川の源流が流れる水清く山青き地、その山河を嘉してつけられた「美山」の名に相応しい宝石のような里には、多くの萱葺民家が残されている。維持なさっている方々には、ただただ頭の下がる思いである。


 上写真は「かやぶきの里」として著名な北村の集落。実に八割近くの家が萱葺を維持されており、その大多数は「施設」でなく今も暮らしていらっしゃる住居であることに驚かされる。
きれいに整えられた萱葺屋根が連なるさまは、美山ロケで最も多く用いられる風景。役者さんの入らないイメージ映像であることが多いが、「伊賀の里」や「倉賀野の里」として挿まれる一枚のショットが、ドラマに肉を与え情景を演出する。

 雪姫隠密道中記「忍びの里の復讐鬼」では伊賀忍者の隠れ里、長七郎江戸日記「千姫有情母ありき」では柳生の里、痛快!三匹が斬る「仰天 天女の水浴び夢じゃない」では丹後峰山の縮緬の里、暴れん坊将軍では上州倉賀野の里だったり韮山新田村だったりする。

 特定の家を使う例もある。上写真左の家は、バス停を入ってすぐの祠の前にあるもの。ここは鬼平犯科帳の最近作「兇賊」で、故郷・加賀の田近谷を訪ねる鷺原の九平の段で使われた。望郷の念已み難く田近谷へやって来る老境の盗賊の導入画面がここで、小林稔侍演じる九平はこの家の前を歩む。この家の南にある地蔵の祠越しの絶妙なショットもある。
同じく鬼平犯科帳「はぐれ鳥」では、非道な押し込み事件の生き残りの手代を訪ねる長谷川平蔵のくだりが、上写真右の「民俗資料館」で撮られた。使われたのは南側縁先。


 里に散在する民家も使われる。上写真の民家は、剣客商売における、おはるの関屋村の実家に使われた。
「いのちの畳針」では、療養中の小兵衛の弟子とうすのろの為七青年を匿う場面で出てくる。旗本の馬鹿息子の魔手から守るため小兵衛は関屋村へ二人を住まわせるが、病を得て剣を振るえぬ剣士と知恵おくれの青年には、この上ない環境だったことが描かれる。そのシーン、おはると連れ立って二人の様子を見に来る小兵衛のくだりは、里人に重宝され生き生きと働く為七と、その姿をスケッチする植村友之助をこの家の前に配し、上々の風景に仕上げてある。
同じく剣客商売の「誘拐」では、おはるが実家に「孫」の小太郎を連れ込んでいるくだりで、この民家脇にある井戸も点景に映り込む。井戸を覆う屋形はどこか西岡善信タッチで、酵素や飛鳥のセットに似通うのも面白い。
 2005年のNHK金曜時代劇華岡青洲の妻では、ここが紀州・名手の華岡家としてシリーズを通して使われ、南側に曼荼羅華咲き乱れる薬草畑が演出されている。嫁と姑の葛藤が主題のこのドラマで、幼女の「嫁」が美女と評判の憧れの「姑」を垣間見するシーンにはじまり、麻酔薬を完成させる流れの中でも、「姑」が逝ったあとの心象風景にも、何度も出てきて印象的。この作品の美術監修も、西岡善信氏である。

 「おはるの実家」周囲の風景も使われる。
「いのちの畳針」で小兵衛がおはるを連れて関屋村へやって来るシーンでは、上写真左の田畔越しに見た屋根が映り込んでいる。
「実家」の北にある民家(上写真右)が映り込む例もある。鬼平犯科帳「はぐれ鳥」で、手代を訪ねるくだりにも使われている。「いのちの畳針」でも、畑を耕す為七の背後に映り込んでいる。隠密奉行 朝日奈の陸奥・棚倉の回では、蛇の嫌いな殿様が領地を見回る里の風景に、上写真右の田畔が使われている。


 由良川と河畔の畑が使われる例もある。
剣客商売「誘拐」では、トラブルに巻き込まれ三冬が危機一髪の大騒ぎを知らずに、おはるの実家を訪ねる途上にある小兵衛夫婦の情景が由良川堤とそのほとりの田地で撮られた。導入は上写真左の川堤で、道をゆく小兵衛夫婦が豆粒のように映り、次いで里の農婦と挨拶を交わすおはるの段で上写真右の畑地が使われた。関屋村の描写に山が映ってはマズいのだが、山紫水明の景は心に沁みる。


→美山 ロケ使用例一覧

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京都府南丹市美山町


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