その川堤には、なりのよい欅がぽつんと生えている。
ここは山から出た野洲川が東海道沿いに流れ始めるあたり、河川敷は広く、清冽な水が浅川となってさらさらと行く。みっしりと河畔林が沿うので、都合のわるいものは映りにくい。その河畔林が、和田川の流入により途切れる部分は田畔と一体になった土手で、ケヤキの孤立木はそこにあり、天に向かって枝を広げている。
*上・タイトルの欅は左岸の畑地から


甲賀市岩室 野洲川左岸地先

 河畔の畑地の畔から欅の生えている土手、川中から対岸の河原と目いっぱいこの地を使って、2006年の大河ドラマ・功名が辻の重要なシーンが撮られた。
牢人として彷徨っていた頃の山内一豊が助けて母に預けた少女が、その母のもとを去り美濃の親戚へ行くのを止めようとする、今は織田家の家臣となった一豊のくだりである。少女は千代、のち一豊の妻となり持ち前の才で夫を支え土佐の国主になさしめた、世に名高い「山内一豊の妻」。
時は戦国、尾張の織田家と美濃の斎藤家は一触即発の緊張状態にあり、千代が美濃へ行ってしまうと彼女とは敵味方、一豊は国境の川を渡る千代を止めに走ってくる。
その川に向けて馬を駆る一豊は、上写真の田畔を来る。水面を望むあたりで馬を降り、千代の姿を求め走り出す。場面は切り替わり国境の川を渡る千代、下写真と同じアングルで杖を頼りに浅川を渡る幼い千代が映し出される。

甲賀市岩室 野洲川河床から上流望

 半ばまで川を渡っている千代に、一豊は行くなと叫ぶ。駆けつけて呼ばわるのは、下写真のケヤキの木の根方の土手。ドラマでは、木の下の草を刈り込んで道をつけてあった。
織田方の一豊は、川を渡れない。川中にいる千代に駆け寄れない彼は土手の木の下にとどまり、今日明日にも美濃攻めがはじまると状況を告げ殺されると訴えるが、千代は聞き入れない。

甲賀市岩室 野洲川左岸河川敷のケヤキ・対岸から

 亡き父母の言いつけを守り美濃の不破家へ行かねばという思いと、一豊への思いとの葛藤が、川中に立つ千代の足を止めさせる。父母を戦に失った幼女は、やりきれない感情を一豊にぶつけ「戦は嫌い」と叫ぶ。逡巡し立ち止まる千代の足もとがアップになり、清らかな早瀬が映し出される。
このお話のサブタイトルは「決別の河」、結局幼い千代は一豊の説得を容れず美濃に去ってしまうが、二人は再び同じ場所で出会うことになる。

左岸から北望 右岸から南望
渡渉 川面

 一豊と千代の再会は、幼い千代が尾張を去った時と同じく、またぞろキナ臭い状況のもとでなされる。国境の川を挟んで遠目に互いの姿を確認する二人の立場は、きっぱりと敵味方。そしてここで、千代は子役から仲間由紀恵にスイッチ。
不破家の養女として成長した千代は、美濃の軍師・竹中半兵衛と遠乗りして国境の川にやって来る。対岸には、ここに橋頭堡を築こうとしている織田家の侍大将・秀吉に伴われて来た一豊がいる。川を挟んで再会する運命の男女、遠い日の別れの記憶がフラッシュバックする。
このとき、ここが美濃尾張のホットスポット・墨俣であることが説かれる。のちに主従となる秀吉と半兵衛が、要の地に目をつけた互いの力量を知る場面でもある。千代と一豊が結ばれるのはもう少しあとの話で、ここでは互いを認識するのみ。

右岸河川敷・上流望 川中に立ち右岸望

 岩室で撮られた画は、千代と一豊のからみのほか、集団戦闘シーンもある。
千代が美濃に去った直後、美濃に攻め入る織田軍のシーンには、千代が渡ったのと同じアングルで川を渡る人馬が見られる。まだ歩兵の藤吉郎が、槍を携えて弾むように川を渡ってゆく。美濃衆との戦闘は、上写真左の右岸河川敷が使われている。多人数を入れての派手な撮影で、写真の小山が映り込むが、川面も同時に映る迫力のクレーンショット。

使用例
功名が辻 第2話「決別の河」2006/1/15、第3話「運命の再会」2006/1/22

滋賀県甲賀市 甲賀町岩室/土山町市場


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