時代劇ロケ地探訪 新日吉神社

参道鳥居 新日吉神社は、東大路から妙法院と智積院の間を入り京女(きょうじょ)の通学路・女坂を上る横手に鎮座まします古社。御白河院が法住寺の鎮守として日吉の神を勧請したことにはじまり、今は院も併せて祀る。
左写真の参道へ至る前に目に付く大きな鳥居は、ここのものではなく豊国廟の鳥居。妙なかたちには、豊臣家滅亡後になされた徳川氏の処置が隠されている。

 いまひえさんでロケを行った例は、大川橋蔵の銭形平次が圧倒的に多い。水天宮や神田明神境内に擬えて使われる。

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 石畳をゆき鳥居をくぐると、色鮮やかな楼門。両翼には青緑の連子窓が連なる。楼門の南側に車の道がついていて、タイヤは石畳を踏んで境内へ入ってゆく。楼門内側には、表には無い菱格子が付いている。楼門自体はもちろん、楼門脇の路地もロケに使われる。

楼門 正面 楼門 南から
楼門の南側へ通じる道 楼門 南側の築地
楼門内側 南から 楼門内側

 銭形平次「捕縄の掟」は、義賊に憧れ道を踏み外しかける弟を、その当の義賊だった兄が身をもって諌める情話。宮土尚治(現・桜木健一)演じる弟が、兄の屯する茶店がある神社へ駆け入る場面がここの楼門で、彼は勢いよく石段を駆け上がる。平次に弟を託す兄は長門裕之で、義賊になるとか博打で稼いで施しをするとかほざく弟を殴りつけて諌める。
銭形平次の「金が敵」は、強欲な金貸し婆が殺される、ちょっと「罪と罰」ふうなお話。婆さまは富籤に当たって狙われるのだが、その富突きが行われる天神さまがここで撮られた。境内へ人々が続々と押しかけるシーンに、楼門の築地を南から見た図が使われ、楼門の下をくぐる群集と、築地の手前をぞろぞろとゆく人々とを重ねて映し、面白い効果を出している。
銭形平次「かわいい娘」は、天真爛漫な少女に情けをかけてしまった連続誘拐事件の黒幕の老爺(加藤嘉)が手下に見限られる話。巧みに娘をさらう一幕が、楼門で撮られている。

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 楼門を入るとすぐに手水場があり、その先には蔵が建つ。蔵と舞殿を挟んで反対側には社務所がある。

手水場 手水場越しに見た蔵
蔵 正面 舞殿越しに見た蔵

 手水場付近で撮られたのは、銭形平次「辻占せんべい」。大坂志郎演じる盗っ人が、辻占売りの盲目の少女をお盗めの道具にしようとするも情が移り、という哀話。実は賊の「親切な行商人のおじさん」は、辻占煎餅を売る娘のもとに通いつめ、いつも大吉なのに相好を崩して喜ぶ。少女が決まって店を出すのが手水場付近で、二人のやりとりの背景に蔵が映り込む。彼らを見張る銭形の親分は、楼門下に控えている。

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 楼門から続く石畳は、舞殿に突き当たり左右に別れる。舞殿は床をかいたしつらえで、画面ではこれ越しに本殿が見えていたり楼門が見えていたりする。周囲は木柵で囲まれている。

舞殿 正面 舞殿越しに本殿を望む
舞殿端を掠めて見た本殿 本殿から見返った舞殿

 この舞殿は、富籤や美女コンテストの抽選会場になる。
銭形平次「黄金の罠」は、薩摩藩の重職が富籤の不正を行う話。一番富を引き当てた者を闇に葬り、アガリをごっそり頂くというよくある手口で私腹を肥やすも、易者に化けて密かに探っていた藩の御連枝(若林豪)に懲らされるという痛快な筋立て。富突きが行われる浅草の神社が、ここの舞殿。
銭形平次「美女えらび」では、タイトル通り美女コンテスト絡みの事件が起こる。二番手に甘んじる女に入れあげた実直な番頭(左右田一平)が身を滅ぼすのだが、彼がナンバーワンに選ばれた女を吹き矢で殺す、その会場が舞殿。得意げに司会をつとめる万七親分の目の前で、一位の美女は崩れ落ちる。周囲には紅白の幔幕が巡らされ、町衆がどっと繰り出している。
上写真下段右の矢印は、本殿前の阿吽のお猿の位置。

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 舞殿の後ろに控えるのは本殿。石垣があり一段高くなっていて、石段を上ってゆく。本殿の周囲には透垣が巡らされ、正面には唐破風が張り出す。

石段越しに見た本殿 本殿 正面
本殿 南から 本殿際から北望

 本殿で撮られるのは、お参りのシーン。
映画化もされた、山本一力原作のあかね空(2003年愛知テレビ)では、深川八幡として登場する。長兄の回復を祈りお百度を踏む母(浅野ゆう子)の姿が本殿にあり、後生車つきの百度石があしらわれている。
銭形平次「万七必死にて候」でも、お百度の場面で使われた。この話は、あまりの不甲斐無さゆえとうとうお役御免の窮地に陥った万七親分(遠藤辰雄)の泣き笑い人情劇。彼のためお百度を踏んで祈る平次の恋女房・お静(香山美子)の姿が、本殿で撮られた。

本殿前、阿吽の御使い猿

 「万七必死にて候」では、お百度を踏むお静に何も知らず軽口を叩いてゆく万七親分がラスト近くに出てくるが、この際本殿の石段を上がったところに鎮座するお猿さんが映り込む。金網に覆われているのは、御所や赤山禅院のお猿と同様の趣向(お猿の位置は舞殿の写真に矢印で記載)
銭形平次「平次御用」は、賊を使嗾する悪辣な目明し(稲葉義男)が銭形の親分を嵌めにかかるサスペンス。賊の一味の男の女房が平次を呼び出して縋ろうとするくだりで、姿を隠して事を告げようとする女がお猿さんの陰に隠れて声を掛ける。

 本殿脇には摂社がある。右側(南側)には豊国神社(樹下神社)と愛宕神社(秋葉神社)が、左側(北側)には天満宮が鎮座する。ロケに使われる「本殿脇」は左側で、銭形平次「御典医の夢」では、脅迫者が殺される明神境内として出てくる。富商の当て馬に過ぎぬ御典医見習い(山本学)が、平次に誰何され今際のきわの「脅迫者」を医師なら診てくれと請われるも、身分柄町人の脈はとれないし死体を触るのも禁忌と断わるシーンが天満宮脇。

本殿脇(北側) 左/東望、右/西望

 本殿の裏手には、唐破風のついた門がある。ふつうこうした「裏」にはこのような施設は無いので、ここから先にあるものを遥拝するためのものかも知れない。門の東には市の保存樹に指定もされた巨木が聳えている。その巨樹・スダジイは根上りも見事な古木で、注連縄が結われ根方には磐座が見える。智積院の墓地のほうから回ってくると、スダジイの裏手にある玉垣の下はちょっとした崖になっている。

本殿裏手 南望 本殿裏手 正面
スダジイ越しに見た本殿裏手 本殿裏手スダジイ

 スダジイ越しに本殿裏手を見た図は、銭形平次「振袖が泣いている」で、図案を剽窃されたと恨む父が、娘たちの振袖の袂に火が投げ入れられる事件の犯人ではと問い詰める息子(峰蘭太郎)のシーンで登場する。
銭形平次「夜霧に消えた男」は、悪事に手を染めてしまった平次の友の哀話。成田で目明しをしているその友が死んだとされる一件で出てくる、ブツを隠してある船霊神社の御神木がここのスダジイ。同じく銭形平次の「闇からの声」では、脅迫状が来て金を置きにゆく木のうろがここ。
スダジイまわりでは、撮影当時には祠とその囲いがあった模様だが、現在は無い。

→新日吉神社ロケ使用例一覧

京都市東山区妙法院前側町


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