時代劇の風景  ロケ地探訪

大覚寺

− 大沢池 −

西岸から南堤を見る

 大沢池は大覚寺の東にある広大な溜池である。平安期に営まれた嵯峨天皇の離宮造営にあたって唐の洞庭湖を模して作られ、「庭湖」とも呼ばれる。
月の出の方向である南東の丘陵斜面にダムを築き、北側の名古曽の滝の水が林泉を経て導かれた。後に滝は涸れ、現在は有栖川から取水している。池水のオーバーフローは再び有栖川に戻される。

 池の北には高い建物が一切無く、西は大覚寺の伽藍、東は広沢池との間に農地が広がり、南には民家等建つものの池が高いところにあるのでほぼ余計なものは映らないという時代劇撮影には得難い立地で、各所に撮影ポイントを持つ。
春には堤を染める桜、夏には涼しげな水面、秋には借景の山々の紅葉、冬には抜けるような青い空を映す、四季折々に見所の多い景色である。

南西岸から天神島付近を望む 天神島(北)から南岸を望む
北東岸 石は庭湖石 南東堤から五大堂付近を望む
 広い水面を利用してさまざまな設定がなされる。水辺のほか池に船を浮かべての撮影もよく行われる。
 鬼平犯科帳9「大川の隠居」では伊佐次が操り粂八が料理の支度をする猪牙船を大川に浮かべた長谷川平蔵がおまさと共に大川のヌシといわれる巨鯉に出会うシーンが撮られた。船の向こうには大覚寺の伽藍が見え隠れしている。
鬼平では大川という設定で頻繁に登場人物が船で大沢池を行き来する。粂八が自分の船宿へ誘い込んだ盗賊のことを平蔵に知らせるべく櫓を使い、ターゲットの商家の浜へ船をつける盗賊の姿などが見られる。同「はさみ撃ち」では引退した大盗・猿皮の小兵衛が自分の店に引き込みに入ってきた「今ばたらき」の盗賊について元手下の番頭と語り合うシーンが大沢池に船を浮かべて撮られている。老盗の心情が詩情豊かに描かれた名シーンである。
必殺仕舞人最終話ではチーム解散により再び一人になった直次郎が大沢池に浮かべた舟の上で再会を願い、池の北畔で深手負った晋松が桜花降りしきるなか倒れ伏し再起を誓うという泣かせる画が撮られている。
暴れん坊将軍や長七郎江戸日記などの定番ものでも池に浮かべた屋形船で悪企みが行われていたり、堤上を駆け落ち者が歩いたり、池畔に辻斬りが出たりとさまざまに使われる。個々の細かい設定はあるもののたいてい江戸市中の風景に擬されてのことが多い。
炎の奉行大岡越前守では五大堂の観月台が隅田川御殿として飾り立てられ水練の試技が行われるのだが、かわいそうなことに何人かの役者さんは大沢池で泳ぐ羽目となっている。
続・三匹が斬る!「人質の母娘が送る流人舟」では勘定奉行の画策で連れ出される男を乗せた船が大沢池北東畔から出るが、行く手に庭湖石が映りこんでいる。
北西岸 楠越しに池水を見る 西岸の船着
南堤下に係留されている屋形船 東堤の水門
 池の北西、五社明神や護摩堂などの塔頭がある付近もよく使われるスポットである。
 上写真上段左の木のシルエットなどは御馴染みである。鬼平犯科帳「泥鰌の和助始末」は名優・財津一郎が抑制の利いた演技で見せる一作だが、元盗賊の和助が実は息子で商家の若い手代の息子に店でのトラブルについて相談を持ちかけられるのはこの木の下あたり。忠臣蔵1/47で討ち入り直前、瑶泉院を訪ねたあと語らう大石と堀部安兵衛のシーンにも使われた。この木には時々首吊りした死体がぶら下がっていたり、木の根方で他殺死体が見つかったりもする。この付近に縁日という設定で屋台が立ち並んだりもする。
 必殺仕事人・激突!冒頭で仕事人狩りに遭った男が秀の船に逃れるも家族への累を恐れ自刃のうえ池に身を投げるシーンが北西畔で撮られた。
 池の西岸には船着が張り出している。上に立つと無数の鯉が寄ってきて餌をねだる。ここではよく徳田新之助が愚痴を聞いてやったり、長七郎が密偵とツナギをとっていたりする。船着の上に茶店がセットされている時もある。
南堤に立つ望雲亭の下にはいつも屋形船が係留されている。池が背景に使われる際によく映りこんでいる。
東堤には水門が設けられていて、北嵯峨の農地に水を分けている。旅立ちや別れのシーンに堤が使われる際によく映りこんでいる。
東堤上の並木道・夏 北岸の並木道・冬
 池は南と東が堤になっていて、桜が多く植えられている。堤上に立つと水面が見えないほど木が密に生えているので、各街道筋の風景によく使われる。北岸の並木道も同様の使われ方をする。
 斬り抜ける「あなたが欲しい」ではようやく江戸入りした楢井俊平が菊母子を先に叔父のもとへ走らせるシーンに使われている。
翔べ!必殺うらごろし「母を呼んで寺の鐘は泣いた」では子の危機に感応した宿場女郎が悄然と彷徨い歩く姿が堤上に見られる。
神谷玄次郎捕物控「追いつめられて」ではワルの女を殺してしまいならず者に追われる男が品川の老母のもとへ走るのが堤上である。待ち受けて呼び止める神谷は後を岡っ引の銀蔵に託し温情をかける。
池堤は暴れん坊将軍長七郎江戸日記などで多用されている。曰く、島原藩の行列に島原の乱の残党が斬り込んだり、刺客に襲われた男を徳田新之助が助けたり、駆け落ち娘が通る小田原の街道筋だったり、金鉱をネタに荒稼ぎする一味が真実を暴かれるのを恐れて長七郎君を斬り殺そうとしたり、め組一行がゆく日光道中だったりする。
西岸にある木戸 睡蓮育成の囲い・ネットは魚よけ

 大沢池西岸には木戸があり、可愛らしい小屋根がついている。船着や五社明神へ行くにはこれをくぐる。木戸の前には水路があるが、これは大沢池のオーバーフローを有栖川に流す水路である。勢いよく水が落ちている時もある。この木戸も撮影スポットである。
 翔べ!必殺うらごろし「足の文字は生まれた時からあった」では巡検使来着を受けて牢に捕えられていた一揆衆が始末され、その死体が代官所から運び出されるのを正十が木戸に張り付いて見ている。長七郎江戸日記「通りゃんせ小太郎」では碁の才見込まれ養子となった小太郎少年が仕打ちに耐えかね逃げ出すシーンで使われた。京極夏彦「怪」「福神ながし」では御行の又市が木戸付近で福乃屋の手先に襲撃されている。 

 時代劇ではないが、大沢池が映画に使われた面白い例として1958年大映京都の市川崑監督作品「炎上」がある。原作は三島由紀夫の「金閣寺」で、劇中「驟閣寺」として出て来る「金閣」のセットが大沢池天神島付近に大沢池に張り出す形で建てられ、クライマックスではこれに火が放たれる(実際に火をかけたのは桂川河川敷で)。面白いのは、護摩堂や石仏、寺の東塀などお馴染みの要素は映りこんでいるものの心経宝塔の姿が無い。宝塔建立以前の作品なのである。

■ 大覚寺 表紙

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