時代劇の風景  ロケ地探訪

大覚寺

− 心経宝塔、聖天堂 −

 大沢池の北西付近に、一際目立つ派手な多宝塔が建つ。朱の色も鮮やかな心経宝塔と呼ばれるそれは、昭和42年に嵯峨帝心経写経1150年を記念して建てられた鉄筋コンクリート製のもので、大覚寺の風景の重要な要素となっている。
大沢池を挟んで遠望する宝輪、放生池に映る逆さの姿も四季それぞれに趣深い。
心経宝塔正面 心経宝塔・斜めから
 新必殺仕舞人「身を投げて生きる安里屋ユンタ」では与那国島という設定で、島人が集まる広場の向こうに映り込んでいる。エキゾチックな趣を狙っての使用と思われるが、首里城などの建造物に色が似ているせいだろうか。
暴れん坊将軍「食通くらべ日本一」ではお国入りの帰途、品川付近で宴を張り商家をハメたことを哄笑し語り悦に入る久留米藩主が上様に成敗されるラス立ちが宝塔前の広場で撮られた。上様は大岡忠相を伴い塔の階段を降りてきて「俺の顔を見忘れたか」とキメる。
長七郎江戸日記「最後の挑戦 さらば長七郎」では深い仲となったお葉の仇討ちに助太刀する若き日の長七郎の姿が塔前の広場にある。切り下げ髪の若い長さんが見られる珍しいシーンである。
三匹が斬る!では塔前に縁日の屋台がセットされ、たこが腰巻を売っていたりする。
雲霧仁左衛門「使い鳩」では大須観音という設定で使われ、役者の映らない本物の大須観音の映像のあとに木鼠の吉五郎が映り、その背後に心経宝塔が映りこんでいる。
剣客商売「父と子と」では大沢池畔にセットされた茶屋で秋山小兵衛が三冬の身の上を不二楼のおもとに聞かされるシーンの小兵衛の背後に、驚くほど大きく心経宝塔が映りこんでいる。この作ではオープニングの観桜の場面で大沢池越しの心経宝塔が使われている。塔基壇部は桜を帯びてなかなかの風情である。
京極夏彦「怪」では派手な使われ方をする。「七人みさき」では桔梗と御燈の小右衛門の一騎打ちが塔前の広場で繰り広げられるが、足元には炎の円陣が走り、夜空にはぽっかりと塔上部が照らされて浮かぶというど派手なものである。「隠神たぬき」では広場で薪能が催されるシーンがある。舞台の周囲には幔幕が巡らされ、塔上部が闇に浮かぶという趣向である。
放生池・シンメトリの美

 心経宝塔使用例の中でも珍しい使われ方をするのに新必殺仕置人「夢想無用」がある。
正八が軽い気持ちで手をつけた少女・おたみが孕んでしまい、子を流そうと大覚寺境内各地でおたみを走らせるは懸垂させるは飛んだり跳ねたりさせるはと無体を働く様が描かれるが、階段を昇降させているのはここ心経宝塔である。アングルは上写真にある塔下層部のアップのみが使われる。

塔下層部のアップ
大沢池南堤から心経宝塔付近を遠望
聖天堂

 心経宝塔の西側、トイレを隔ててある方形の御堂が聖天堂である。
護摩堂とよく似たつくりの小体な御堂だが、識別ポイントは縁に手すりがついている部分。
使用頻度は高くない。使われる際の設定は無人の荒れ寺であることが多い。

 三匹が斬る!「空っ風、可愛い女の恨み文字」では上州倉賀野の設定で護摩堂と併用され、例幣使の横暴がもとで身近な女達を失い渡世人「風与出者」になるものが後を絶たない、と聞かされる千石のシーンで使用された。
京極夏彦「怪」「七人みさき」では阿波における又市たちのアジトの破れ寺として使われ、右近が弔いを依頼するシーンで使われている。荒れた雰囲気を出すのにさまざまな手が加えられている。
またここは必殺仕事人・激突!におけるチームのツナギの場で、シリーズを通して使われる。場面は夜。

■ 大覚寺 表紙

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