時代劇ロケ地探訪 相国寺

伽藍


 三門や仏殿などの伽藍は応仁の乱の戦火を蒙り焼失し、何度かの再建を経て現在は法堂と方丈がある。

■ 法堂
 法堂は豊臣秀頼の寄進になる正面約30mもある壮大な二層のお堂で、今は無い仏殿を兼ね内部には須弥檀があり釈尊を祀る。天井には狩野光信筆の蟠龍図が描かれている。龍は下で手を叩くと共鳴する鳴き龍。
法堂 南西角 法堂 北東角
法堂 北面(東望) 法堂 南面(西望)
 法堂はとても大きいので、よほど引かないと全体が映ることはない。基壇上での立ち回りや追走劇で壁面が映る、という例が多い。暴れん坊将軍長七郎江戸日記などの明朗痛快時代劇で基壇が派手な大立ち回りに使われると、重厚な扉や花頭窓がとてもよく映える。
必殺からくり人血風編最終回の、山崎努演じる土左ヱ門が官軍の品川警備隊長に会いにゆくシーンでは基壇と回廊が使われ印象的。
法堂の使い方で変わっていて面白いのは、隆大介が吉宗暗殺のスナイパーを演じた暗殺者の神話。将軍参詣の増上寺という設定で、彼が潜むお堂に法堂が使われた。将軍が駕籠から降りて廊下へ上がる瞬間を狙うのだが、そこが方丈の前廊下。誰にも気付かれずその一点を狙えるとして法堂の上層に籠るが、この地点を定めるに当って絵描きのフリして詳細なスケッチをとり、緻密な立体モデルも作製するのである。もちろん模型は相国寺法堂と方丈のそれが作られる。ちょっと欲しくなる一件である。

■ 回廊
 法堂から方丈へは、屋根付きの回廊が通じている。柱の下部が黒く塗られていて、きっぱりとしたコントラストが画面に高い効果をもたらす。回廊は法堂から開山塔へ通じるもの(法堂の写真参照)もあり、同じ様態。どちらも相国寺ロケの際よく映りこむ。
法堂から方丈へ続く回廊
 たいていは武家屋敷やお寺として使われる。やんごとない方の駕籠が通ったり、立ち回りが移動してきたり、柱の陰に潜んでの見張りなどもある。
雪之丞変化「芙蓉屋敷の女」では土部三斉が資金源としている高級娼館で、変わった使い方といえる。潜入した雪之丞は、ここで仇の一人の北町奉行を見る。

■ 庫裏と承天閣
 方丈の東続きに庫裏、そのまた東に承天閣がある。蛙股の形も面白い庫裏は、他の伽藍同様壮麗な建物。承天閣は、末寺である金閣・銀閣の寺宝をも収蔵する美術館。
庫裏 承天閣前のポーチ
 庫裏は、お局さまなどがが参詣する寛永寺や増上寺などのお寺に使われるほか、武家屋敷にもなる。たいていはフツーの建物だが、吉宗評判記 暴れん坊将軍「乾盃!藪医者」のように、庫裏下部に幔幕をめぐらせ大屋根の向こうに天守閣の書割を合成して、江戸城内で弓の稽古をする上様の場面を演出しているなどという妙なものもある。これよりもまだトンデモ方向の使われ方は必殺!ブラウン館の怪物たちで、いよいよ追い詰められた黒谷屋敷の住人たちが営々と守ってきた武器・巨大砲を持ち出すシーンに使われている。庫裏の壁面の一部が開き巨砲が覗くという仕掛けであった。この巨砲がとんだ見掛け倒しで弾は砲首からぼっとんと下に落ちてしまい、とっても情けないのである。
 承天閣は入口がガラスの自動ドアなのでほぼ使われないが、通路はきれいに整えられ他の堂宇の甍も映り込みよい景色なので、入口を映さないかたちで使われることがある。長七郎江戸日記3「野菊と芋侍」では、長屋の娘を助けるため入牢した浪人に会いにゆく長さんのくだりで、シンパである南町同心がこっそり牢に案内する場面に使われた。

■ 方丈
 方丈の前庭、南側は白州。平唐門からまっすぐに石畳が続く。階のすぐ下には御影石の石篠と那智黒の砂利が配され、ひんやりと涼しげな風景。
方丈 南面 方丈前廊下(西望)
方丈前廊下と白州 前廊下から唐門越しに法堂を望む
 壮麗にして厳かな方丈は、お城の庭や廊下によく使われる。江戸城が多いが、地方の城のこともある。大川橋蔵が荒木又右衛門を演じた決闘鍵屋の辻では、又右衛門と河合甚左衛門が御前試合を繰り広げる大和郡山のお城。殿様にせがまれて真剣白刃取りを伝授する場面がある。河合は田村高廣が、殿様を林与一が演じていて、名手による殺陣が堪能できる作品。カメラもぐるっと大胆に回り迫力。
お城設定の場合、背景に唐門越しに見た法堂を映し込むこともある。座敷から撮っていることも多い。「長七郎問題」に悩む丹哲(柳生宗冬)が法堂を背景に立っていたり、暴れん坊上様が同僚を恐喝した御年寄を叱責する場面の背景だったりする。
お城以外の設定もたくさんある。映画壬生義士伝では、新選組幹部たちが直参取り立てを祝うパーティ会場。記念写真の背景に、上右写真奥の松林が映り込む趣向。必殺からくり人富嶽百景殺し旅「隅田川関屋の里」では、山田五十鈴が興行許可を願い出る流山代官所。廊下の一部と石畳のみ映した、印象的なショット。
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 方丈の北側は、南側とはがらりと趣きを変えたしつらえ。土を掘り下げ谷とした苔庭の枯山水の背景はどっしりと落ち着いた松林で、深山幽谷の気配を漂わせる。
北廊下と裏方丈庭園 北廊下見上げ(西望)
 北廊下もお城や大身のお屋敷設定が多い。広間を開け放して、両方の景色を見る例もある。暴れん坊将軍では、お庭番の和崎俊哉が尾張藩邸に庭師として潜入している図が見られる。「谷底」から廊下を見上げるアングルが使われていて効果的。大奥 第一章「許されざる命」の春日局にお褥すべりを申し出るお万の方のシーンは、座敷から裏方丈庭園を見るアングル。

*方丈、法堂、浴室内部の拝観は期間限定。拝観の折には詳しい説明を伺えます。

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