時代劇の風景  ロケ地探訪

上御霊神社

西鳥居 御所の今出川御門から同志社大学の間を北へ抜けて行くと相国寺に突き当たる。寺域を抜けて少し北へ、曲がりくねった路地を歩くと上御霊神社である。

 長岡京遷都の折り政治的ないざこざから非業の死を遂げた早良皇太子の霊を慰撫するため桓武帝の勅願で造られた社で、他に連座した橘逸勢ら八柱の御霊をも合わせて祀る。宮入口には単に「御霊神社」とあるが、御所の巽にある下御霊神社と区別して上御霊神社と呼ぶ。もちろん、下御霊社も早良皇太子を祀る。

 早良皇太子は桓武帝の弟で、藤原種継暗殺の首謀者として身分を剥奪され乙訓寺に幽閉されたあと、淡路へ流される途中に没した。この後周りで続く不幸や天変地異に脅えた帝は、剥奪した位を復すが効無く、長岡京は廃都となる。平安京遷都ののちもやまぬたたりに、最後は祟道天皇の諡号をおくることとなった。

 強い怨念を纏った御霊はまた、強力な守護神として信仰される。今も、御霊系の宮の常として華やかな雰囲気を強く残す社である。

楼門 楼門 (内側)

 上御霊神社が時代劇に使われるシチュエーションは、ほぼ江戸市中である。
設定は神社がほとんどだが、神殿などが映らない場合には寺に擬えられることもある。同様に、市街地設定でも使われる。
いずれも、繁華な雰囲気を醸しだすのに用いられる傾向にある。
上二葉は正門となる西側の楼門。提灯はそのまま使われることも多い。内側からのショットも、外の町が見えないように工夫して使われる。

本殿 舞殿
 本殿も舞殿も派手で華やかなここは、縁日や富籤会場として使われることが多い。
長七郎天下ご免!では初回の「日本晴れ大江戸囃子」で、祭礼の神田明神として使われた。将門を祀る宮に、早良皇太子を祀る宮が擬えられるのはなにか因縁じみた感もある。お話は、倹約令で祭りが中止、我慢ならない一心太助が暴れたり大久保彦左衛門が出てきたりと賑やかなもの。
暴れん坊将軍 吉宗評判記「一六勝負に散った恋」では、富岡八幡宮として使われ、賭場が開帳されているのを徳田新之助が「見学」に来たりしている。
神谷玄次郎捕物控「密告」では、難事件についての調査報告を聞く神谷の姿が楼門下にある。
八丁堀捕物ばなし2「疵」では、スリ集団「神風連」が出る縁日の神社として使われた。
また又・三匹が斬る!では、殿様が御家人株を買って侍になった与太者たちに突っかかられる縁日に、千石が空きっ腹で立ち回りを演じて余計空腹となり、手水場の水をぐびぐび飲む神社として使われたが、三匹では江戸設定でなく地方。
本殿側面 合祀摂社
本殿裏手 福寿稲荷
 神殿の三方には透垣が巡らされ、周囲には摂社群が点在する。
ここは、縁日などの賑わいの場面に使われる本殿前とは全く異なった趣きで使われる。
暴れん坊将軍や、長七郎江戸日記などでの使用例が多い。困りごとを聞いてやる、身の上を問い詰める、密偵の報告を受けるなどのシチュエーションが見受けられる。いずれも、人目を憚っての会話などのシーンで、昼でも薄暗いこのあたりはそうした場面によく似合う。
たまには上様が悪者を追いかけて走っていたり、福寿稲荷で刺客に襲われたりといった派手なものもある。
喧嘩屋右近「騙されるのも仕事のうち?」では、薄幸そうな顔をして右近夫婦に近づいた大騙りの女が、右近を騙す芝居のエキストラたちに金を分配しているシーンが福寿稲荷と本殿裏手の透垣をバックに撮られた。
水戸黄門31「商売繁盛笹もってこい」では、兵庫の柳原蛭子神社として設定され、裏手と稲荷が、えべっさんの混雑を避けて話す老公のシーンに使われた。
天罰屋くれない 闇の事件帖「悲しき10代の反抗!殺しの罠と母の着物…」では、やくざの親分に盃を貰った青年が殺人を強要され、犯行に及ぶシーンが、本殿裏で繰り広げられる。
高倉 西面 高倉 北面
高倉 東面
 高倉、と書いたが、絵馬堂であるかも知れない。このようなピロティー形式の建物は今宮神社や祇園さんや北野さんにも同様のものがあるが、ここの高倉の特徴は、周囲に何もないところにぽつんと建っていること。ために四方があけすけで、面白いアングルが得られる。
ふだんは下に置かれたベンチで昼寝をしている人がいたり、小学生の絵が展示されていたりと、のどかな雰囲気の場所である。
 高倉の使用例で印象的なのが京極夏彦「怪」第二話「隠神たぬき」で、宿屋・阿波屋の隠居・芝右衛門が孫・おていを連れて散歩に来る神社として使われた。高倉に掲げられた地獄八景(演出・実際は掛かっていない)を孫に説明する芝右衛門の姿、およびその後母とともに惨殺された孫を偲んで神社にやって来る姿が描かれている。高倉の下の床机に腰掛け歌作する事触れの治平の短冊に書かれた「積みたる石を」の文言に涙する芝右衛門、地蔵和讃が重なる地獄の光景を描くビジュアルが挿入され効果を上げていた。だいたい高倉を中心に撮られており、背後に本殿や福寿稲荷が映りこんでいる。治平と話しながら宮を出る芝右衛門のところで西の楼門が映りこのシークエンスは終わる。
御家人斬九郎3「美人局」では、近所の商家の若旦那に美人局に遭った話を聞く残九郎と南無八幡の佐次の姿がある。茶店がしつらえられていて、背後に本殿が映りこんでいる。

★上御霊神社ロケ使用例一覧
京都市上京区上御霊前通西入ル

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