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時代劇の風景  ロケ地探訪

近江八幡

− 八幡堀 −

 八幡堀は秀次が八幡山に築いた城の濠として作られた。濠としての役割のほか、琵琶湖を往来する船にここへの立ち寄りを義務づけ城下の発展を促進する狙いもあった。城が無くなったあとも堀は近江商人の物流拠点として町の繁栄の礎となった。
 交通の発達により舟運が衰微したあと堀はメンテナンスされなくなり水は汚れ雑草が繁茂し果てにはゴミの不法投棄などで荒廃し、埋め立て話も出るまでになっていた。
これに、堀を埋めてはならないと地元有志から澎湃と声あがり官をも動かし再生に向けての取り組みが始まった。新橋架橋と舟着整備をはじめ細やかな清掃作業が行き届き、いまや八幡堀は多くの人がその情緒に魅せられ訪れるスポットとなった。ことに画板を広げる人の多さは他の観光地には見られない特徴である。
 時代劇において江戸の水辺として八幡堀が用いられると、えもいわれぬ情感が生まれる。この陰に地元有志の努力あるを謝したい。
船橋付近から白雲橋方面を 船橋付近のかわとを持つ家
 時代劇の背景として八幡堀が選択されるとき、そのほとんどは江戸の水辺として使われる。わけても池波正太郎氏が「東洋のヴェネチア」と表現する深川、および大川周辺に擬して用いられることが多い。
 鬼平犯科帳「雲竜剣」においては仙台堀と油堀をつなぐ水路として用いられた。また同劇場版においては密偵・小房の粂八の船宿のある小名木川へ通じる水路として使われた。同「木の実鳥の宗八」では年老いたスリの宗八が今生最期の思いを遂げに昔の女を訪ねてゆく大島町の堀川に、同「殺しの波紋」では盗賊改与力・富田が殺害した橋本屋以下の死体が流れ着く岸に使われた。
剣客商売「嘘の皮」では橋場の料亭・不二楼から旗本のどら息子を船で送ってやる秋山小兵衛のシーンに用いられた。剣客商売においては水郷も使われるなど、近江八幡が頻繁に使用される。よく新妻のおはると小兵衛さんが堀端でいちゃついている。
白雲橋付近 白雲橋下・南側の汀
 白雲橋は日牟礼八幡宮の参道となっていて北側に鳥居がある。欄干は簡素な木製で擬宝珠はついていない。東側から見ると水道のパイプが見えるので、橋自体を映す際は西側からのアングルに限られる。
 雲霧仁左衛門[1995山崎努版]「狙われた男」では浅草左衛門河岸(神田川)畔の船宿・佐原屋として白雲橋たもとの石段付近にセットを置いて撮られた。佐原屋は雲霧の盗人宿で、ここから出て来た七化けのお千代と因果小僧六之助が火盗改の密偵に目撃されてしまうのである。船に乗ってゆく千代と六之助のシーンもあり、川端に上がる姿などが撮られている。大覚寺の大沢池などと複合して使われ、映像を矛盾なくつないである。また、火盗の動きを察知した雲霧はアジトを爆破して逃げるのだが、爆発炎上シーンは合成と思われる(当たり前だ)。初回の「おかしら」でも使用されている。
白雲橋と明治橋間の左岸 白雲橋と菖蒲
 白雲橋と明治橋の間の左岸側は菖蒲の植わった汀部分と桜並木のある少し高いところのものと、歩道が二段になっている。特性を活かして尾行などの場面に効果的に使われる。鬼平犯科帳「大川の隠居」で密偵のひとり・大滝の五郎蔵が掻堀のおけいを目撃し、その後考え事をしていて、女児の手からこぼれた紙風船を拾ってやるのだが堀に落してしまうというシーンがこの二段の歩道で撮られた。
白雲橋と運河 紫陽花と運河

 鬼平犯科帳エンディングのインスピレイションの流れる四季の映像の「春」の一枚にここが使われている。少々季節が異なるが、上写真左の白雲橋を西側から見たものがそれに当たる。画面では手漕ぎ舟が浮かんでいる。
必殺シリーズの劇場版でも八幡堀がよく使われる。必殺!3裏か表かでは両替商・枡屋から勘定方へ納める金を運び出す浜に、必殺!5黄金の血では金座・後藤から飛び出してきたお浅に政が声を掛ける堀端に、必殺!主水死すでは捨蔵を奪われたお千代が主水を待つ堀端に、必殺!三味線屋・勇次では上総屋の死体が船に乗せられ流れ着くシーンに用いられた。
岡っ引どぶ「火焔小町殺人事件」では深川の木場に用いられ、演出に丸太を浮かべてあった。松方弘樹版雲霧仁左衛門では佐原屋から出てくるところを火盗の密偵に目撃される岡田与力のシーンに使われた。また、2002年正月のTX壬生義士伝では鳥羽伏見の戦いに破れ一人雪の夜大阪の南部藩屋敷に駆け込む吉村貫一郎のくだりで、蔵屋敷街を落武者探しをしている薩長軍のシーンが八幡堀であった。

明治橋東面 明治橋から白雲橋方面
 明治橋は新町浜手前に架かる橋で、木調の造り。欄干は太鼓橋ふうに浅く反ったデザインにしてある。擬宝珠が付いているのが白雲橋と見分ける識別ポイントである。
 雲霧仁左衛門[1995山崎努版]「おかね富の市」において、次のターゲットと定めた浅草菊屋橋(新堀川)西詰の菓子屋・越後屋を眺める仁左衛門のシーンで映っているのは明治橋である。おかしらは橋上にいて欄干に凭れている。
鬼平犯科帳「一寸の虫」で昔の仲間に盗めの話を持ちかけられる火盗改の密偵・仁三郎のシーンで背後に映っている橋は明治橋である。上左の写真の猫じゃらしが繁っている付近で二人は話し込んでいる。
明治橋下(北側) 明治橋−白雲橋間の川端の通路
 明治橋の東たもと(北側)の汀、まさに上写真左の場所で、八幡掘使用例で筆者が個人的に最も印象的と思う場面・雲霧仁左衛門[1995山崎努版]「雲霧捕わる」での木鼠の吉五郎の壮絶な最期が撮られた。
越後屋への仕掛け寸前で火盗改の手が回り、州走りの熊五郎の操る船で近づいてくるおかしらに向かって汀から吉五郎が逃げるよう促すのがこの橋下の汀である。黙したまま船を回頭させ立ち去る雲霧の背に吉五郎は「ご武運を」と一礼し、雲霧は船上で背を向けたまま万感の思い籠め木鼠の名を短く叫ぶ。
その後取って返した吉五郎は火盗改と斬りむすび鬼神の如く奮戦するが押し包まれ壮絶な自刃を遂げる。このシーンも明治橋下の汀である。吉五郎の末期の笑みがストップモーションとなりこのシークエンスを締める。吉五郎役の石橋蓮司の熱演、名シーン揃いの雲霧中でも最上の部類に入る。
原作設定では場所は入谷田圃の水を集めて流れる新堀川、現在の合羽橋道具街である。
新町浜と八幡山 新町浜 奥は明治橋

 新町浜は舟運の名残をよく伝える水際で、古い近江商人の屋敷が多く残る新町通りに平行してある。
 ここは御家人斬九郎最終話「最期の死闘」で、残九郎と兄・与市兵衛が語らう場所として使われた。その後兄は陰謀に巻き込まれ不帰の人に。真相を明らかにすべく動き出す残九郎が南無八幡の佐次に当分帰らぬと言い置いてゆくシーンにも使われている。
TX恒例の正月時代劇炎の奉行大岡越前守では、霊願島御船手番所として使われ、綱吉の死後赦免された赤穂浪士の子弟が帰還するシーン、改鋳小判を運び込むシーンが撮られている。


近江八幡・表紙  八幡掘ロケ使用例一覧


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