時代劇の風景  ロケ地探訪

近江八幡

− 水郷 −

 鳥の鳴き声と風の音しか聞こえない水際に、時折櫓の音が響く。繁華な街も近いというのに水郷付近は世間から切り離された時空を形成している。
この付近は西の湖のほかに大中之湖などの内湖があって安土城などはあたかも水に浮かぶような景色だったと伝えるが、現在は干拓が進み西の湖だけが残された。湖は広大で、複雑な水路が巡らされている。岸辺にはヨシが高く茂り多様な生き物を育むと同時に水をも浄化する役割を果たす。
西の湖は北西端で長命寺川とつながり、流入河川の黒橋川を介して八幡堀にもつながっている。
西の湖西端付近 黒橋川をゆく船
 時代劇での水郷の使用例は枚挙に暇ないが、最も印象的なのは剣客商売である。この作品は近江八幡の風景が無ければ魅力が半減するのではないかと思えるほど濃い使われ方をしている。
 主人公・秋山小兵衛は大川を渡った鐘ヶ淵に隠宅を構え、小舟を所有し川を行き来する。対岸の浅草外れの真崎稲荷近くには息・大二郎の道場が、少し南の橋場には馴染みの料亭・不二楼があり、ほぼ毎回舟で大川を渡る情景が映し出される。その舟を操るのは主に妻のおはるで、娘と言ってよいほど年の離れた夫婦の情の襞が船上風景において活写される。
大川の風景はほぼ水郷をベースに広沢池や八幡掘、隠宅に使われている嵯峨の山奥の谷などとミックスして使われ見事な効果をあげている。剣客商売は以前にも映像化された例があるが、ドラマの作りや役者の巧拙以前に、この大川の情景のあるとなしでは味わいに天地の開きがある。
西の湖園地と西の湖境に架かる橋
 ヨシ原の風景はなかなかドラマと同アングルを見つけにくいが、上写真の橋はすぐにわかる。2号大津能登川長浜線を八幡養護学校の手前で琵琶湖のほうに曲がる道を行くと道路からも見える。橋の近くにはサイクリングロードもある。剣客商売では本編中にも使われるほか、オープニングの四季の風景にも使われている。

 他作品での使用例は雲霧仁左衛門「狙われた男」で、アジトを出入りするのを火盗改の密偵に見られた七化けのお千代と因果小僧六之助が、その密偵を船上で殺害するシーンがあり八幡堀から水郷へ映像がスイッチする。必殺シリーズ劇場版でも何作かで使用例がある。

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