時代劇ロケ地探訪

東山界隈

三十三間堂/八坂の塔/三面大黒天/阪口/祇園・白川/青蓮院/永観堂/赤山禅院

 京の東、なだらかに南北につながる連山を東山という。この山裾は一大観光地で、数多の名所旧蹟がひしめいている。太秦から遠いことと人出が多すぎることなどから、今はさほど頻繁にロケに使われるものではないが、やはりスポットは点在している。
■ 三十三間堂
蓮華王院 本堂 西面

 柱と柱の間が33あるため「三十三間堂」と称される長い長いお堂は、中に1001体の千手観音を祀る。京都観光定番スポットなうえ、毎正月ここで催される通し矢の行事がきまってニュース配信されるので、たくさんの人の脳裏にある風景。この著名な国宝を使って撮られた二本の映画は、いずれも三十三間堂を舞台としている。

 内田吐夢監督の宮本武蔵第四部「一乗寺の決闘」では、中村錦之助の武蔵が平幹二朗の吉岡伝七郎と対決するシーンで、本堂の西面が使われた。西側は裏手にあたるのだが、長大なお堂を表現するにはこちらが良い。東の表側は真ん中に向拝が下りていて連続性が断たれているし、チャンバラの背景に仏様が映るのは豪華だが畏多い。通し矢はこの西側廊下で行われる。この行事をモチーフにしたのが成瀬巳喜男監督初の時代劇である三十三間堂通し矢物語で、通し矢の記録を破られ自害した父の名誉回復のため稽古に励む息子の情話。名を秘し大八郎を鍛える父のライバルは、長谷川一夫が演じた。本堂内陣裏手には、映画のスチルとともに和佐大八郎の記録を彫った奉納額が展示されている。


■ 八坂の塔
法観寺 五重塔

 民家の中に聳える塔は、ふつう「八坂の塔」と呼ばれる。飛鳥の頃つくられた寺で、今は塔と二、三の堂宇を残す。
うちにあるベンチャーズの「京都慕情」という古いアルバムは、この塔の夕景のシルエットをカバーとしている。もろに「京都」という記号なのであろう。

 時代劇に使われるときも同様で、映画槍の権三などにも主人公が入洛したことを示す記号として使われている。役者の映らない、イメージ映像であることが多い。


■ 三面大黒天
円徳院 三面大黒天

 高台寺の向いにある三面大黒天の門。いま、中は高台寺の掌美術館や飲食店が並んでいてなんだかよくわからないが、たしかここの大黒さんは秀吉の守り本尊だったと記憶している。

 現代劇では何度か使われているやに聞くが、時代劇使用例はあまり無い。源九郎旅日記・葵の暴れん坊「葵咲かせた白頭巾」で、京都町奉行の悪行についての報告を受けるお控様のシーンで茶店がセットされていた一例くらいしか記憶に無い。平べったい提灯が印象的な画であった。


■ 阪口青龍苑
阪口 青龍苑

 人で溢れかえる産寧坂にある、レストランや喫茶店やあぶらとり紙を売る土産物屋の入るモールの奥に築山池泉の庭がある。

 この庭は崖地の大刈込と萱葺きの四阿と小さな池があるこじんまりしたもの。
ここが暴れん坊将軍で上様の逍遥する千代田のお城の庭として使われる。
かなりわかりにくい画だが、大刈込と切石橋が特徴と言えるだろうか。
そのほか、江戸を斬る 梓右近隠密帳で大久保彦左衛門邸の庭、新・三匹が斬る!最終回で越後・永山藩のお城の庭として使われた。


■ 祇園 白川
白川 祇園付近

 白川も時折使われる。現代劇では映りまくりだが、時代劇ではあまり無い。
使われ方はほぼ八坂の塔と同じ京を表す記号で、舞妓さんなど配してある。

 暴れん坊将軍などで、め組の面々が京に投宿していることを表すイメージとしてたまに使われている。京都で作られた新選組ものの映画では、川中で浪士狩りの殺陣が繰り広げられたりもする。御家人斬九郎「美人局」では深川界隈として使われたこともある。
必殺シリーズで人気を呼んだ「三味線屋の勇次」が現代の京都に現れるというサスペンス現代劇・京都マル秘仕置帖では、着流しの中条きよしが巽橋上に立つ姿に必殺のテーマが被されたりする。これなどは、時代劇が約束事の記号で成り立っていることをよく示す事例と言える。


■ 青蓮院
青蓮院 長屋門 大楠

 知恩院の北、粟田口にある門跡寺院・青蓮院は楠の大木で知られる。近年はライトアップされたりもしている。

 ここでは長屋門がよく使われる。源九郎旅日記・葵の暴れん坊の京都の回では京都奉行所として使われ、火野正平演じる河内出身の男が百叩きの刑を受ける場面で使われた。暴れん坊将軍III「狙われた四人の目撃者」では北町奉行邸として、御家人斬九郎3「美人局」では薩摩藩上屋敷、乾いて候では宇都宮藩下屋敷、忠臣蔵 決断の時では内匠頭が刃傷後お預けとなる田村右京太夫邸として使われた。
大楠は、深作欣二監督の阿部一族で、一連の殉死者のシーンのひとつに使われ、大木の根方に切腹の場をしつらえてあった。


■ 永観堂

 永観堂は哲学の道近くにある、正式名を禅林寺という空海の弟子が建立した寺で、首を傾けた特異なお姿の「見返りの阿弥陀」が著名。
放生池に架かる橋 御影堂
 疏水から引いた水を湛える放生池には、浅い反りの石橋が架かる。これは御影堂へまっすぐ通じる参道になっている。
ここは、大川橋蔵版銭形平次「大江戸十手祭り」で、お家騒動のただなかにある幼君のお気に入りの侍女が「を組」の纏持ちと密会するくだりで使われた。石橋上では、平次親分の大立ち回りも行われる。御影堂の前に立つ、背の高い卒塔婆も映りこんでいる。
永観堂松岳院 永観堂墓地から阿弥陀堂を望む
 参道脇の塔頭・松岳院は、鬼平犯科帳3「いろおとこ」で、亀戸天神前の料理茶屋に擬された。兄を殺した盗賊を追う新米の火盗改同心が、兄の使っていた女密偵に聞きだした手がかりの場所。無骨なくせに女にだらしない男に温情をかける鬼平の計らいが泣かせる一話。鬼平4「おとし穴」でも同様の使い方がなされ、こちらの設定は富岡八幡宮境内の水茶屋。
 八丁堀捕物ばなし「送り火」では、墓地が使われ、南の隠密回りが蘭学者志望の甘ちゃんに刺される現場となった。同第二シリーズ「秘密」では、市中で助けた女に誑かされかかる狩谷新八郎に女の正体を告げる杉山虎之助のくだりでも使われた。役所広司と火野正平のアップの背後に、阿弥陀堂の破風が映りこんでいる。

■ 赤山禅院

 赤山禅院は、叡山の麓にあって京師の丑寅の守護となる延暦寺の別院。赤山明神が勧請されているが、中国名は泰山府君。陰陽道の祖神である。
現在は京都七福神のひとつとして賑わい、新年には団体参観のバスもやって来る。ここの七福神は福禄寿。
山門(内側) 参道
本殿裏手の朱玉垣 十六羅漢
 ここは、TXの新年長尺もの竜馬がゆくにおいて、御所の門に擬された。八月十八日の政変により逆賊として京を追われることになった長州の軍勢が抗議に詰めかけるくだりで、会津と薩摩の藩兵が守る御所の門がここである。一徹の武士・来島又兵衛を甲冑・騎馬姿で石橋蓮司が熱演している。
吉宗評判記 暴れん坊将軍「将軍と馬泥棒とガキ大将」では、境内が使われた。悪代官が民から無理に取り上げた駿馬を将軍に献上し出世を図るというお話で、上様の遠乗りの際取り返した馬を駆る少年の姿が参道にあり、本殿裏手付近で馬を取り上げられるきっかけとなった逃散百姓と出会う。少年が本殿裏手を歩いていると、十六羅漢のお供えをチョロまかしているその男に出会う、という図。このツブレ百姓を小林昭二が好演。
江戸を斬る II 「雛まつり殺人事件」では、おゆきに殺しの罪を着せた男を尾行する鼠小僧次郎吉の姿が、参道から本堂を使って撮られている。朱玉垣のそばに茶店がセットされている。設定は築地の八幡様。

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