時代劇の風景  ロケ地探訪

神光院

きゅうり塚 宅地より農地が目立つ西賀茂の地にひっそり建つ神光院は、観光客にはあまり知られていないが「西賀茂の弘法さん」として親しまれる、東寺、仁和寺と並ぶ京都三弘法のひとつである。七月末には厄除けのきゅうり封じに善男善女が集い賑わうさまが報じられる。
掃き清められた閑雅な境内は四季折々の花木で飾られ、ここを隠棲地とした幕末の女流歌人・太田垣蓮月尼の面影を偲ばせる。ふだんは灯明をあげに来る参拝者や散歩の親子がいるくらいの、落ち着いた佇まい。
*右写真は「きゅうり塚」


山門 前庭

 山門からは前庭の四角い刈り込みが見える。これは庫裏への道を塞ぐように、衝立のようになっているのが特徴である。
刈り込みは、テレビ画面ではかなり大きいふうに見える。
 剣客商売(藤田版)「誘拐−かどわかし−」(原作・品川お匙屋敷)では、佐々木三冬が女の亡骸を頼みに来る坂本の円常寺として使われた。
三冬が寺に入り、出てゆくシーンに山門が使われている。三冬を見送る和尚の背後に、前庭の四角い刈り込みが映りこんでいる。
山門使用例は、吉宗評判記 暴れん坊将軍「奮戦!いも侍」で、青木文蔵が庶民に孔孟を説く常念寺として、御家人斬九郎4「流れついた男」で、寺子屋が開かれている上善寺として、などがある。御家人斬九郎では、これから起こるドラマを暗示するスモークが焚かれている。

本堂 本堂前の池

 山門を入って正面には庫裏などがあり、亀のたくさんいる池を隔てて西側に本堂、その裏手に中興堂がある。
建物は上賀茂社から移されたものという。どちらのお堂も、四方に縁がめぐり蔀戸がついている。
池には石橋が架かり、本堂への道となっている。本堂と橋を隔てて向かいには蓮月尼ゆかりの茶室がある。
本堂の西、中興堂の前には蔵が建つ。近くにはきゅうり塚があり、その前に石の宝筐印塔がぽつんと独立して立っている。

 本堂まわりは、必殺仕掛人「消す顔消される顔」でたっぷり使われた。本堂は、盲いた夫の平癒祈願に訪れる夫婦のシーンで、神社として使われている。本堂階にいた火事の被災者たちに揶揄された夫がよろよろと立ち去り、本堂横の手すりにしがみつく場面もある。
当初梅安は女房の美貌に惹かれふらふらと後をつけてきて様子を見る。そして夫が妻を邪険に扱うのを見て千蔵とともに憤激し、「殺す」などと物騒なことを言って近づくのだが、結局鍼医者として目を見てやることとなる。
男の目が見えぬわけは背中の大きな傷とみた梅安は、どうした経緯でできた傷なのかと女房に問う。結婚したいと申し出た際自分の父が激怒して手鉤でつけたものなので即答をためらう女は、次第に心開き真相を語りだす。このシーンは本堂前にある池に架かる石橋の上で撮られた。
答えを渋る女に焦れた梅安がくねくねと石橋に抱きついている場面もある。遠景には橋の北南両方が映りこんでいる(本堂と蓮月庵)
 御家人斬九郎2「母の仇討ち」は、父の仇を討つ気概をなくしてしまっている息子を諦め、また理解し、去ると見せて自分が仇にかかってゆき斬り死にを遂げる武家女の悲哀が描かれた話。この母が江戸を去りぎわ息子とおみくじをひく神社が、本堂前の階を使って表現されている。息子には見せずにおく札には、大凶の文字。

橋越しに蓮月庵 宝筐印塔
 蔵のみを使った珍しい例もある。吉宗評判記 暴れん坊将軍「涙のにせ書状」は、岡っ引殺しに絡んで複雑な血縁の感情が交錯する話で、夫のため人に偽証を依頼する呑み屋の女将の姿が蔵前で撮られた。この際、本堂脇には足場が組まれ、普請中の町場を演出している。
 蓮月庵は、御家人斬九郎4「おふくろ」で使われた。探していた息子を見かけ尾けてゆくも声かけ得ず、道端のお堂に駆け入る母の姿が庵の内にある。庵の戸から、本堂前の林がのぞいている。この回では、市中を探索中の斬九郎が、連れの女児と小休止のくだりで蔵前の階に腰掛けているシーンもある。また、怪談百物語「ゴースト」では、昼間からあけすけに出る幽霊女房と小間物屋の亭主の思い出の茶店として使われた。
本堂越しに中興堂 中興堂
本堂西面(裏手) 中興堂前から本堂西面と宝筐印塔

 本堂の裏手、奥まったところにある中興堂は、神光院では最もよく使われるスポット。たいてい、本堂西面の回廊も一緒に映り込んでいる。
寺子屋が開かれていたり、火事の被災者の避難所となったり、時には盗っ人のアジトだったりもする。

 大川橋蔵版の銭形平次最終回・第888話では、江戸の町を火の海にと企む不逞浪士たちが集結する赤坂溜池の専修寺として中興堂が使われた。この企みを阻止せんとする平次親分の大立ち回りが堂前で繰り広げられる。
江戸を斬る 梓右近隠密帳「巷談八百屋お七」では、焼け出された人々が泊り込む駒込・正仙院として使われた。被災者たちは中興堂に、八百屋お七の文をお小姓・吉三郎に取り次ぐ右近の姿が蔵前にある。臨時宿泊所設定では他にも長七郎天下ご免!「殴り込み!鉄火娘」で、火事の被災者に炊き出しをする浜乃屋の面々の姿が中興堂に見られる。
吉宗評判記 暴れん坊将軍「明日に咲いた影の花」では、クーデタを企む一派の根城・金沢流軍学塾として中興堂が使われた。
新・三匹が斬る!「首一つ、賭けてみちのく影武者哀歌」では、跡継ぎ問題で揺れる奥州・小萩城下で、法要のさなか次期藩主と目される次男が襲われる寺が中興堂。
先述の剣客商売の円常寺のシーンには山門のほか、本堂裏手も使われている。寺僧と話す三冬の背後に本堂の縁先と桐の木が映っている。
江戸中町奉行所「大奥に棲む魔物」では、腹違いの妹を道具に再び権威を得ようとする大奥中揩ェ「代参」に赴く谷中の末寺として中興堂が使われた。見張っているお篠や多吉がなんで増上寺や寛永寺でないのかと怪しんだとおり、中掾Eお伝の方はここで若年寄と密会するのだった。妹を大奥に上げようと実家の父まで陥れるやり口に中町の闇裁きが下り、お伝の方は中興堂へ密会にやって来たところを待ち構えていた水流添我童に両断されるのであった。
お篠たちがお伝の方を見張っている場面には宝筐印塔が使われ、彼らは石塔に隠れて中興堂を見ている。多吉が用心棒に見つかり追いかけ回される場面には中興堂まわりをぐるっと使っている。
暴れん坊将軍IV「天下御免のくいしん坊侍」では、グルメ趣味で同輩らにも軽侮される勤番侍、実は国元の殿に密名を受けワルを調査の千林惣十郎が探りを入れる清月寺(偽金作りの工房)として中興堂付近が使われている。堂前では近隣の子らが遊んでいるという演出がなされ、このムードで一旦は見逃してしまうという設定。暴れん坊将軍IVではシリーズ最終回の「献上雪が飛び散った」でも使われた。雪国から真夏に将軍に献じられる「雪」を入れた樽をすり替え、中にスナイパーを仕込んで式典のさなかに上様を殺めようという企みがなされるというお話。刺客団が雪の樽をうまうまと誘い込み、中に銃持った男を仕込もうとする寺のシーンが中興堂前で撮られた。お堂二つと、石塔に蔵も映っている。企みは男が樽に入ろうとしている最中に、駆けつけた上様に見つかり失敗している。
御家人斬九郎4「流れついた男」では、漂流して記憶喪失の侍・川上春太郎が就職する寺子屋として使われた。陰惨な結末を迎える暗いエピソードだが、寺子屋設定の中興堂前では、楽しそうに遊ぶ子らの姿があり、蔵も映っている。宝筐印塔前で春太郎が薪割りのシーンもある。
子連れ狼(北大路版)「冥府魔道の父と子、ふたたび…」では、亀山藩の里入り忍が裏柳生とツナギをとるシーンが、中興堂と本堂見越しの、蔵を望むアングルで撮られている。
 かように、様々な作品で今も昔も使われるスポットだが、シリーズものの主人公の仮寓に設定されほぼ毎回出てくるのがおしどり右京捕物車。中興堂を中心として、さまざまな場所がふんだんに使われている。産まれることのなかった可哀そうなはなの子の墓は宝筐印塔の近くに設定されている。

京都市北区西賀茂神光院町

★神光院ロケ使用例一覧

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