時代劇ロケ地探訪 宇治

観流橋から宇治川の荒瀬 川の早瀬も目に涼しい宇治は、藤原文化全盛期の香りをそこここに残す。十円硬貨の裏で有名な平等院をはじめ、大小の寺社が川に沿って建つ。
源氏物語・宇治十帖の舞台となった、浄土を思う地・宇治もまた、時代劇を彩る背景となる。


■ 橘橋

 宇治川には中州があり、左岸側は静水域となっている。
ここに優美な橋が二本架かっていて、ひとつは朱も鮮やかな喜撰橋、いまひとつが時代劇に使われる橘橋である。いずれもコンクリート製ながら、嵐山の中ノ島橋に似て優美に反ったもので、桁隠しもついており欄干も工夫されている。

橘橋 上手から 橘橋 下手から
橘橋 左岸から 橘橋上から谷口を望む
橘橋 橘橋を使っているのは吉右衛門版の鬼平犯科帳で、初期バージョンエンディングの「秋」の一枚に採用されている。
側面から橘橋を紅葉越しに見るもので、橋上には江戸の民衆を配してある。
ドラマ中で使われたのは、婀娜っぽい女盗賊の話「鯉肝のお里」で、お里が棒手振りの岩吉に目撃されてしまう船のシーンがここで撮られた。
食い入るようにお里を見つめる岩吉は、橘橋の欄干に取り付いて去り行く船を見送る。
暴れん坊将軍第11シリーズ初回「吉宗、炎の生還」では、本所三笠町に通じる唯一の橋として使われた。三笠町はスラム設定で、橋は彼岸と此岸をつなぐもの、どら平太などでもテーマとなった時代劇定番ストーリー「濠外」ものである。乱れ髪の浪人態に作った上様が凶盗を探りにスラムへ乗り込むくだり、橋たもとには蓆などあしらってあり、ならず者も配されている(右写真のアングル、東詰)。この一人が福本清三氏で、上様に軽くのされている。

■ 宇治上神社

 宇治川右岸にある仏徳山の麓に鎮まる古社。ふだんはポリタンクを携え桐原水を汲みにくる人を見かけるくらいのひっそりしたやしろだが、本殿と拝殿は現存する神社建築の中では最古というたいへん貴重な建造物。もちろん国宝であり、最近世界遺産指定も受けた。祭神は応神帝と二人の子、菟道稚郎子(うじのわきいらつこ)と大鷦鷯(おおささぎ、のちの仁徳帝)。皇位継承にまつわる悲話を秘め合祀されている。
 本殿の前にのびのびと翼を広げる拝殿は、平安貴族の邸宅の風をよく残す建物。菟道稚郎子がモデルとも言われる、源氏物語宇治十帖に登場する八の宮の住まいも偲ばれる風情。

拝殿
拝殿前の清め砂 通用門
 今昔物語「近江国ノ安義橋ノ鬼、人ヲ喰ラフ話」を基にした映画アギ・鬼神の怒りの、肝試しに安義橋へ行かされる侍の屋敷のシーンは、ここの拝殿を使って撮られた。益岡徹演じる「太郎」が拝殿の前で馬の尻に油をすりこんで支度する場面は夕刻、松林から傾いた陽がこぼれている。足もとには清め砂も映り込む。太郎が馬に跨り出て行くシーンは、通用門を開けて外から撮られている。騎馬姿の太郎が画面から消えたあともしばらくカメラは通用門から拝殿を映したまま回り、余韻を残す。殿舎の裏手の緑も夕照に映え、非常に美しいシーンである。この場面のBGMはワーグナーの神々の黄昏。
近江守の屋敷でなく太郎の家というにはこの拝殿ではちょっと大層かも知れないが、奈良あたりの古社でも出にくい中世の風情がよく出ている。

■ 興聖寺

 興聖寺は、天ヶ瀬ダムへ向かう道の傍らにある禅寺。道元禅師の開基になり、仏徳山と号する。
移転の経緯から本堂に伏見城の遺構があったり、源氏物語のゆかりを伝える観音様が祀られていたりと歴史の香り豊かな優美な寺で、参道の四季の風景の見事さは筆舌に尽くしがたい。

山門 山門から参道の琴坂を見返る
 山門は竜宮門作りの優美なもの。
 ここは蟹を得物に使う老殺し屋のエピソードがユニークな、必殺仕掛人「大荷物小荷物仕掛けの手伝い」で、仕掛のターゲットである生臭坊主・日朝の神応院として使われた。
盲目の娘を連れて見分に来るカニの七兵衛の姿が門前に、祈祷に来たふりをして潜入する元締の女房・おくらの姿が山門と境内に、怪しまれたおくらの危機に現れ用心棒と対峙する左内の姿が琴坂に見られる。
琴坂から山門を見上げる 石門
琴坂から石門を見返る
 宇治川に面して立つ石門(総門)から山門へは、長い坂が続く。名を琴坂といい、道脇の谷水の音が琴の音に似るゆえの命名という。
両側には鬱蒼とした並木が沿い、夏の木漏れ日も晩秋の紅葉も絶景となる。
 琴坂は、風の新十郎の活躍を描く活劇・の「獣の城」において、姿を見せぬ謎の前関宿藩主が潜む下屋敷として設定され、事件の謎を解き下屋敷へ赴く新十郎のくだりで使われた。石門をくぐって坂を上ってくる新十郎のシルエットが、坂上から見下ろすアングルで使われている。モノクロなので少し見づらいが、背後には宇治川畔に立つ楠の大木と早瀬が映り込んでいて、見事な画となっている。

■ 宇治橋
宇治橋

宇治橋 七世紀に架けられた古い橋は、上代から近世まで様々な歴史を見てきた橋である。東詰には「宮本武蔵」に登場する茶店が今も営業している。
 ここは篠田正浩監督の映画・梟の城で、三条大橋として使われた。クライマックス、石川五右衛門として処刑される風間五平のくだりである。宇治橋下には州が無いので、処刑場の河原はどこか別の川のものを合成したものと思われる。また、橋の向こうに見える風景も変えてある。
宇治橋はコンクリート製の頑丈な橋だが、装飾には木が使われている。また橋脚も古風なデザインで、スクリーンによく映えていた。


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