時代劇の風景  ロケ地探訪

勝持寺 − 境内 −

 勝持寺は山裾にある寺だが、境内は思いのほか広い。
南門を入ると庫裏があり、並んで瑠璃光殿と阿弥陀堂が建っている。ここから南におりると不動堂や鐘楼があり、茶室のある桜ヶ丘へ続いている。
桜ヶ丘の下には谷水を導いた冴野沼があり、各所をつなぐ道には起伏がある。
境内には桜と楓が多く、四季それぞれに見事な風景を演出している。

■ 庫裏

 庫裏は萱葺きの風情ゆたかな一件。破風に楓の赤、桜の一枝が重なる景はまことに美しい。
庫裏は南門が使われる際に破風がよく映りこんでいる。また、瑠璃光殿前から、中仕切門を通して側面が映りこむ例もある。

庫裏 破風 瑠璃光殿と庫裏の中仕切り門

 暴れん坊将軍 IV 「女賞金稼ぎ、江戸を斬る!」では、町方の出役に応対する生臭坊主の背後に、くっきりと庫裏の屋根が見える。暴将 II 「のぞきは下手な鬼同心」では、虚無僧に化けたワルの一味を叩きのめす徳田新之助の姿が、上写真左の中仕切門の前にあり、背後に庫裏の大屋根が見えている。

庫裏縁先 左写真は庫裏の南側縁先。鬼平犯科帳「おかね新五郎」で、長谷川平蔵の同門の先輩・原口新五郎が開く寺子屋がここである。授業がひけて帰る子らの姿が縁先にある。子の一人を呼びとめ父親の容態を聞き、野菜を渡し労わる原口の姿などが描かれる。
この縁先はまた、ドラマ中盤において鬼平が「すあい女」のおかねとの関係を原口に問うシーンでも使われる。二十年も前の恋人の話題、しかも思いがけず子まで生まれていたことに驚いた原口は、度を失って徳利に口をつけぐひぐびと酒を口にするのだった。


■ 本堂

 庫裏から中仕切門をくぐってすぐには瑠璃光殿、ここは宝物を収蔵してある新しい建物。この西に本堂たる阿弥陀堂があり、瓦葺で真ん中に向拝がおりている。周囲には手すりつきの縁側があり、花頭窓が左右に配され優雅。窓下には御守護のびんずる様がちょこんと鎮座まします。

阿弥陀堂(本堂) 本堂前石段

本堂前から庫裏を見る また又三匹が斬る!「姫君のお毒見役、三匹参上」では、辻斬りを働く藩主の生母が住持する宝光寺として使われ、事を確かめにゆく殿様こと矢坂平四郎の姿が本堂前にある。殿様は石段をのぼってお堂に近づく。
 暴れん坊将軍 II 「のぞきは下手な鬼同心」では虚無僧と立ち回りを演じる徳田新之助の姿が本堂前でも見られる。
 暴れん坊将軍 III 「吉宗まさかの刑場破り」は、冤罪で死罪となった女を救い出す上様の話で、取調べ中消された役人の娘で尼僧の寺として使われた。尼僧は身寄りの無い子らを育てていて、め組の衆が食べ物などを差し入れに来るくだりでは、右写真のアングルが使われている。向拝の下にめ組の大八車が見られ、背後にうっすら庫裏が映りこんでいる。

瑠璃光殿下の石段と築地 塀越しに庫裏を見上げる
 中仕切門から続く塀は南に築地を見せていて、脇には石段がある。ここも撮影ポイント。
暴れん坊将軍 III 「密名!江戸城を砲撃せよ」では、尾張に焚きつけられた黒田の家臣がお城を大砲で狙うという、たいそうな陰謀がめぐらされる。砲台を据える麻布の荒れ寺として使われたのはこの築地の下の広場。砲台のバックに築地が見えている。
築地の右手に続く塀では鬼平犯科帳「おかね新五郎」で、密偵のおまさとツナギをとる平蔵の姿が見られる。塀内からは見事な紅葉がのぞいている、美しいシーンであった。
続続三匹が斬る!「二刀流、子孫は今じゃ二枚舌」では、熊本城下で子供に騙されて頭に来た千石こと久慈慎之介が乗り込む施療院として使われた。薪割りをしている勤労少年に突っかかって土下座させる千石は、尼さんに諭されたりする。少年は築地付近で薪割り、バックに庫裏が映っている。

■ 鐘楼

 鐘楼は阿弥陀堂の南、不動堂の東にあり、前は広場になっている。脇には西行桜と称される見事な枝垂れ桜がある。
どの角度から見ても様になる鐘楼で、桜にも新緑にも紅葉にもよくマッチする。不動堂石段下にある石灯篭と組み合わせての画も多い。

不動堂前から鐘楼を見る 鐘楼越しに灯籠を見る
狛犬と灯籠越しの鐘楼 不動堂から見下ろした鐘楼
 鐘楼は、鬼平犯科帳「おかね新五郎」で印象的に使われた。長谷川平蔵の高杉道場での先輩で、剣を捨てて寺子屋を営む原口新五郎老人と、身分違いから身を引いた「すあい女」のおかねが再会する話で、原口の寺子屋がある上野池之端の正慶寺として設定されている。
役宅で保護し、ようやく体調を復したおかねを連れて平蔵がやって来る子らが去ったあとの境内、二十数年を経て年古りた恋人たちの再会が鐘楼前でなされるのである。さまざまな凝ったアングルが使われ、石灯籠越しの画も、見下ろしの画もある。
 ニュー・三匹が斬る!「先乗り源五、素っ首賭けた不義密通」は、相愛ながら結ばれなかった身分違い・年齢違いの恋人たちが会い、これをネタに若林豪演ずる忠義の侍は奸計に陥ちてしまう哀話。二人の束の間の逢瀬が鐘楼脇で撮られていて、鐘越しのアングルが面白い。

■ 不動堂、茶室

 鐘楼の山手側には弘法大師ゆかりの不動堂が建つ。お堂への石段脇には泉も湧いている。
茶室へも不動堂と同じく石段があり、どちらも楓を従えて建物を縁取り、よい景色である。

不動堂への石段 桜ヶ丘の茶室への石段
 不動堂は、暴れん坊将軍 II 「のぞきは下手な鬼同心」で使われた。負傷しつつラス立ちに駆けつける同心・桜井が、危なっかしい足取りでお堂下の石段を降りてくる。
 茶室への石段は、暴れん坊将軍 III 「さよならの花かんざし」で使われた。双子だったため農夫の子として育った信州・相良藩の「若君」が、幼君夭折で急遽迎えられる運びとなるが、野望抱く先君の弟に様々な妨害を受ける話で、父を殺されてやむなく江戸へ出た姉弟が握り飯を食うシーンが撮られた。この話では他に参道石段や鐘楼なども使われている。
・勝持寺表紙

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