時代劇の風景  ロケ地探訪

毘沙門堂

仁王門大提灯 毘沙門堂は山科盆地の北縁、疏水のまだ向こうの山ふところに建つ天台の古刹。
天武帝の命で行基が開いたとされ、その後伝教大師お手ずからの毘沙門天が納められ京の町衆の尊崇を受けた。
ここにはまた代々皇族の御入山があり、毘沙門堂門跡とも称する。
本堂に今も安置される毘沙門天は京七福神のひとつで、正月には多数の参拝客が訪れる。
ここでのロケ使用例は、立地ゆえ多数ある石段を用いることが多い。


■ 薬医門

 薬医門は玄関正面となる門。両脇の巨大な築地が目を引く。
門前の石段はステップが傾斜しているため、中央に踏み石が配されている。両の崖には落葉樹が植えられ、樹下には丸い刈り込みが多数ある。

薬医門と石段 石段見返り
 野風の笛は二代将軍たる兄・秀忠に疎まれた神君の六男・松平忠輝の数奇な半生を描く一作。兄弟の確執を案じた父・家康は忠輝の所領を取り上げ流刑とし世を安んじようとする。その配所となった飛騨高山の天照寺のシーンが薬医門で撮られた。十年と期限を切った流罪放免の直前、秀忠差し回しの刺客が忠輝を襲うくだりで使われている。
ニュー・三匹が斬る!「女駆け込み寺にゃ魔物が棲んでいる」では鎌倉東慶寺として使われ、駆け込みのシーンが薬医門下で派手に展開される。

■ 勅使門

 勅使門は宸殿正面となる門で、扉は開いているものの前に柵で標が結われている。
門前の石段は、下の参道と踊り場を介してつながる。ここも薬医門と同じく両の崖に潅木と刈り込みが植え出され、左手には本堂の築地塀が見える。

勅使門と石段 西参道石段から勅使門
 鬼平犯科帳4「麻布一本松」は、火盗改同心の木村忠吾がエラい目に遭うお話。受け持ち地域に盛り場が無いのでむしゃくしゃしていた忠吾は、麻布一本松坂で石を蹴っていて浪人にぶつけてしまい騒動となるが、その坂が西参道上部。忠吾を色仕掛けでハメようとする、浪人を慕う娘が約束した茶店が勅使門下の踊り場にセットされた。設定は麻布一本松坂、寺と武家屋敷ばかりと忠吾の嘆く地域。
 西参道は、映画壬生義士伝で、入隊間もない吉村貫一郎にいきなり斬りかかる斎藤一のくだりで使われた。殺陣は参道下から中ほどを使ってダイナミックに展開、雨の夜のシーン。また、TXの長尺お正月時代劇竜馬がゆくでは、土佐藩執政・吉田東洋暗殺の高知城下として使われた。これも夜。

■ 宸殿と本堂

 門跡のお住まいとして宸殿があり、玄関の幔幕にも菊の御紋が見られる。宸殿前には齢を経た枝垂れ桜があり、花期には見物の人出が多い。
宸殿は渡廊で本堂とつながり、本堂の塀はあでやかな透垣を持つ。

玄関 宸殿
宸殿と本堂間の渡廊 本堂西側の透垣
 玄関は、また又三匹が斬る!「さすらいの姫君悲し鬼街道」において、改易となった家のお姫様が流浪の果て辿り着くも、悪辣な甲府勤番支配の妨害で投宿を断られる信濃路の寺として使われた。
暴れん坊将軍 III 「運命のめぐりあい」は、母を捨てた旗本に復讐を誓う深川芸者のお話で、彼女は旗本屋敷ばかり狙う女賊。その女に接触し事情を聞く徳田新之助の姿が渡廊前と透垣前で撮られた。侍は信じられないと去る女を見送る新さんのバックに宸殿大屋根が映りこんでいる。

■ 仁王門

 信仰の中心施設・本堂へは仁王門をくぐって入る。仁王門の下には長い石段がある。
段は緩い下部と、急な上部の二つに分かれている。
石段脇は急崖となっており、木が疎らに植わっている。崖には祠などもある。

仁王門下石段 上 石段見下ろし、下 崖の祠

山王社 ここは萬屋錦之助主演の痛快時代劇日本犯科帳 隠密奉行「闇に笑うこんぴら人形」で、金毘羅さんとして使われた。
金毘羅領がお上の認めた治外法権を逆手にとって悪の巣窟となっている設定のお話で、琴平宮にやって来たばかりのヨロキン演じる大目付、実は隠密奉行の朝比奈河内守が早や紛争に巻き込まれるくだりである。門前の露店で騒ぎが起こるが、これは石段下部にセットされている。福本清三演じるヤクザが上写真右下の祠をバックに「錦兄ィ」に凄んでいる画もある。殺陣は林間で行われる。連続暗殺事件の鍵となる二十年前の金毘羅騒動について寺僧に尋ねにゆくくだりでは、右写真の山王社が使われた。赤子まで刑死したと聞いたヨロキンの怒りと嘆きの演技が見もののシーンである。劇中では、どうしたわけか石鳥居は映っていない。

京都市山科区毘沙門堂町

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