時代劇の風景 ロケ地探訪 走田神社

遠景 走田神社は、亀岡の市街地から少し離れた西郊の農村にある。社叢は細長く、遠目にはこのあたりによくある河畔林とも見える。林は幹の太い立派な杉を中心に様々な樹種から成り、境内は昼なお薄暗い佇まいで森閑としている。
 社の起こりは古く和銅年間の創祀とも伝わり、延喜式にも名が見える。祭神は彦火火出見命と豊玉姫、および二神の子。ご夫婦の二柱の神は「山幸」と「龍神の娘」と言ったほうが通りがよいだろう。
その昔、奉納されたたいそう立派な絵馬から夜な夜な馬が草を喰みに抜け出し、その蹄の跡に川ができるが旱天にも涸れず大水にも瀬音を立てずという伝説を持つ。いまも、周囲にある用水は澄んで美しい。

鳥居 正面 鳥居 内側
 入口にはどっしりした石鳥居が建つ。脇に狛犬、入ってすぐの道には数基の石灯籠。
鳥居まわりは、剣客商売4「東海道見附宿」で見附宿はずれの鎮守として使われた。
秋山小兵衛は剣友の発したSOSに応じ江戸からやって来ているもので、手紙を手配した旅籠の女中を呼び出し事情を聞くくだりが鳥居前から参道を使って撮られている。鳥居の足が大写しになるシーンがあり、刻まれた奉納日の「享保」の字も演出として使われている。
本殿

 本殿は一段高く嵩上げされていて、短い石段がついている。殿舎は人の頭が出るくらいの低い塀で四方を囲われ、壁の上部は透垣となっている。松尾の月読神社なども似たつくりだが、両翼ののびやかな広がりはよそに無いものである。
ほどよく古び褪色した絶妙の風情で、旅ものでの使用が多い。

灯籠と本殿
 本殿前には苔に覆われたポーチがあり、左右に大きな石灯籠を従えている。この灯籠まわりの使用例が多い。

 また又三匹が斬る!「男売ります、悲しき提灯奉行」は、軽輩ゆえ侮られて過ごす勤勉な小役人の危難を三匹が救ってやるお話。危難とは、城代の若様が仕出かした不行跡を押し付けられかかるもので、「千石」こと久慈慎之介が被害者の鳥追い女に若様たちを首実検させるのが、上写真左の灯籠群のところ。設定は徳山藩領。同「鬼っ子が母と慕うはいかさま女」でも使われ、盗賊の父から隠し金を託され追われる少年と、行動をともにするうち「母」の顔を見せるすれっからしの道中師の女の一シーンとして本殿前が使われた。設定は飯沼藩領。
新三匹が斬る!「牢破り、女一匹駄賃づけ」では、「たこ」こと燕陣内が野博打を開帳する街道筋として本殿前が使われた。
暴れん坊将軍 III 「幼きいのち なみだ旅!」は、財政危機にある藩を救おうと過激な行動に出る若侍たちの悲劇のお話。若侍の一人が仲間に裏切者と誤解され斬られるのが本殿前。再会したばかりの幼い弟の前で起こる悲劇を見た徳田新之助は、自らの身分を明かす。
2004年正月の長編時代劇竜馬がゆくでは、冒頭剣の稽古をする竜馬たちの姿が本殿前にある。参詣のお田鶴さまをエスコートして吉田東洋がやってくるのも見られる。
北大路欣也版子連れ狼終盤近くの一話「決戦前夜!女柳生の必殺剣」では、父の不在時に神楽の音に誘われてやって来る大五郎の姿が本殿前にある。これを柳生烈堂の娘・鞘香が凝視している。
本殿内陣
 内陣も使われる。本殿は嵩上げされているので、内側から見た塀は低い。また、内陣から透垣を通して見る景もなかなかに趣き深い。
 新三匹の侍「訣れの鐘が鳴っている」は、ヤクザの一家を全滅させた三匹のことが大評判となり、ニセモノが現れるお話。在所では子供たちの遊びも評判の三匹に扮してのチャンバラごっこ、「悪人め待てー」「我こそは槍の名人・桜京十郎」の黄色い声に続いて楓源三郎と流右近の名も出る。子らはポーチから本殿に駆け入ってくる。自分たちの評判を聞いて笑う楓と流が本殿脇にいるという趣向。二人はここで野宿した模様で、楓源三郎が大きなヤツデの葉っぱを顔に乗せて寝っころがっていて流右近に起こされるのは、写真上段右の本殿脇。子らを透垣越しに見るアングルもある。
鬼平犯科帳2「五年目の客」は、客である盗っ人の金を持ち逃げした遊女が五年の歳月を経てその賊に会ってしまい、全てを失ってしまう哀話。賊は彼女が経営している旅籠を狙っているのだが、宿の絵図面をやりとりする浅草玉姫稲荷として本殿が使われた。導入は本殿前で、図面の授受が行われるのは内陣の奥、上写真下段の塀際が使われている。この場面では、塀の低さが効果をあげている。
稲荷社の重ね鳥居 参道見返り
 長い参道も使われる。巨杉の木漏れ日、脇に付属する稲荷社の朱が目に鮮やか。
先述の新三匹が斬る!「牢破り、女一匹駄賃づけ」では水晶泥棒を捕えるための臨時関所が設けられるくだりがあるが、これが上右のアングルで撮られている。ちょうど灯籠群が尽きるあたりで柵を立てる作業が行われる。参道はかなり長いので、見返るとあたかも往時の街道のように見える。
ニュー・三匹が斬る!「先乗り源五、素っ首賭けた不義密通」では、ゴリ押しで小藩を脅し小役人を死に追いやる大藩の横暴に怒った三匹が、鉄槌を下すべく行列を待ち構える街道筋として使われた。この際「殿様」こと矢坂平四郎の奮迅の殺陣の背後に、稲荷社の重ね鳥居がちらちらと映りこんでいる。
あばれ八州御用旅「非情・黒田槍」では、稲荷社前で刺客が出る。舞台は高崎藩領。
北大路欣也版子連れ狼「首を売る男と大五郎!一刀殿、刺客をやめなされ」は、冥府魔道をゆく父子が侍を捨てた不思議な元剣客と出会うお話。飄々と世を渡る元武士は首売りの大道芸で糊口をしのいでおり、一刀との出会いとなる縁日が参道で撮られた。箱車を押す一刀の背後には重ね鳥居の朱が見える。

 隣に建つ社務所は、大きな萱葺で風情たっぷり。外塀は腰板が印象的なつくりで、前の水路もよい眺め。
神社が使われるとき同時に用いられることが多いが、単体での使用例もある。設定は地方の民家であることが多く、旅ものに重宝される。
社務所
 社務所は、三匹が斬る!「鬼と呼ぶ男に惚れて薄化粧」で、腹下しの千石を助けてくれた蘭方医・東庵邸として使われた。また又三匹が斬る!「鬼っ子が母と慕うはいかさま女」では飯沼藩出張陣屋として使われた。新・三匹が斬る!「逃げた女、産めよふやせ悲しき子宝奉行」でも使われ、こちらでは奥州・浅倉藩領の庄屋屋敷という設定。いずれも画面いっぱいに広がる大屋根が迫力で、印象深い。
新必殺からくり人「府中」では、ピーター演じる凶盗に押し込まれる庄屋屋敷として、新必殺仕置人「暴徒無用」では、多摩の山奥の平家落人部落、影沢村庄屋屋敷として使われている。
あばれ八州御用旅「東洲斎写楽を斬れ!」では、賞金稼ぎの浪人が凶盗を捕えた褒美を貰い出てくる八王子代官所として使われ、この際は塀が効果的に映りこんでいる。
美輪明宏演ずる歌舞伎役者が壮大な復讐劇を繰り広げる雪之丞変化「紫の囮」では、拳法指南の武術家の屋敷として、暴れん坊将軍 VI「盗賊の娘」では、三箇条の掟を守って死んだ盗っ人が陰で営んでいた報謝宿として使われた。
京都府亀岡市余部町
☆走田神社 ロケ使用例一覧

・ロケ地探訪目次 ・ロケ地探訪テキスト目次 ・ロケ地資料 ・時代劇拝見日記
・時代劇の風景トップ ・サイトトップ