東山の麓にある吉田山は神楽岡とも称された独立小丘で、三高寮歌の「紅萌ゆる」丘。東側には閑静な宅地が這い、小道を入ると隠れ家のようにカフェがあったりする。この丘に鎮まる吉田神社は、清和帝の世・貞観元年(859)に京師の守護としてはじまった。
室町期に吉田兼倶が「吉田神道」を提唱、全国神社組織のヒエラルキーの頂点に君臨してゆくことになる。
本殿 大元宮 菓祖神社 社叢
 本宮は春日四神を祀り、大元宮は八百万の神を祀る吉田神道の根幹を成す宮。大元宮は八角の特殊な形をしており、理念を表す。
このほか様々な摂社が神域に散在するが、お菓子の神様(田道間守)を祀った菓祖神社、料理の神様を祭る山蔭神社などがユニーク。宮には各業界から寄進された玉垣が林立し目を引く。

■ 本殿まわり
 東一条通から入ると、表参道の石段に当たる。
石段には、にょきにょきと大きな杉が生えていて、この奇観がドラマを彩るよい素材となる。
表参道石段
 この石段の印象的な使用例といえば、大川橋蔵版銭形平次のオープニング(初期バージョン)が筆頭だろう。明朗な主題歌が流れるなか捕り物のシーンが映し出される、そのひとつはここである。
 ニュー・三匹が斬る!「金毘羅代参、馬鹿は死ななきゃ治らない」では、慕い続けた憧れの女性のため重傷を負った身で百個目の流し樽奉納を成し遂げるお調子者の青年の姿が夜の石段に見られる。設定は金刀比良宮表参道石段。
吉宗評判記 暴れん坊将軍「奮戦!いも侍」は、昌平黌改革を推し進める吉宗の前に抵抗勢力が立ちはだかるお話で、将軍が召し出す予定だった在野の学者がこの石段で暗殺されている。同第三シリーズ「地獄を見たかオウムちゃん」では、唐人参の値を吊り上げて私腹を肥やす長崎奉行と富商の悪行を暴く証人となるオウムが拾われる神社として使われた。オウムが悪人の名を「天神様!人参!大河内様!コンニチワ!」と連呼するくだりがコミカル。
幕府お耳役檜十三郎「生まれたままの悪女」は、ワルの親玉・大目付筆頭の京極丹波が女賊に命じて秋田藩の裏帳簿を盗み出させ、強請りのネタに使おうと企む話。その過程で情夫を殺された女賊は翻心、帳簿を渡さず逃亡を図るが、追っ手から逃げる市中のシーンにここが使用された。
斬り捨て御免!第二シリーズ「女を漁る凶悪の牙」では、薄幸の女に迫る危機に駆けつける三十六番所頭取・花房出雲の姿が、見下ろしのアングルで撮られている。木のシルエットが印象的。
 石段以外の本殿まわり使用は少ない。
石段の項でも挙げたニュー・三匹が斬る!「金毘羅代参、馬鹿は死ななきゃ治らない」で、「たこ」こと燕陣内が金毘羅さんの境内でいつもの如く怪しげな薬を売るシーンが若宮社(右写真)の前。周囲には紅白の幕が張られ、若宮社の石段には参拝を終えた巡礼が降りてくる姿が演出されている。もちろん設定は金毘羅さん。必殺仕切人「もしも歳末富くじがイカサマだったら」はタイトル通りの詐欺ばなし。拉致された娘を求める琵琶法師が本殿前で斬り殺されている。

■ 竹中稲荷
 竹中稲荷は、丘の東端にある末社。
南北に続く参道には、朱の鳥居が連続して立つ。夜間撮影では、この朱色が闇に映えて高い効果を上げる。鳥居は伏見稲荷の千本鳥居のようには詰っておらず、この間隔の妙が画面に奥行きをもたらす。
参道の使用が多いが、本殿まわりも使われる。
参道の重ね鳥居
 斬り捨て御免!「女の敵は地獄へ送れ」では、極悪与力に騙され貢ぐ柳橋芸者が願掛けをするあやめ河岸の夫婦稲荷。鳥居の下に茶店がセットされていた。第二シリーズ「狼どもの血祭り仁義」では、ヤクザの掟に縛られ罪を犯し流罪となった男が、帰り着いた江戸で亡き恋人の声を中空に聞く神社、夜のシーン。
 新必殺仕事人「主水腹が出る」では、おりくが脅迫状で呼び出される湯島天神。
 鬼平犯科帳「網虫のお吉」では、次々と男を手玉にとる毒婦・お吉を木村忠吾が目撃する烏森稲荷。鳥居の印象が鮮やか。同「盗賊人相書」では、奉公先を凶盗に襲われ、ただ一人生き残った下女が偽の文で呼び出され始末されかかる真崎稲荷。
 八丁堀捕物ばなし「誘拐」では、身代金受け渡し場所をくるくる変える誘拐犯に翻弄される同心たちが走る場面のひとつ、狩谷新八郎が裾からげて鳥居下を走り抜ける。
舞殿 竹中稲荷本殿
 暗闇仕留人「仕留て候」では、奉行所で行われている悪事を告発しようとした同心が密殺される神社である。設定は浅草界隈。
 暴れん坊将軍 II 「泣いて馬謖の怨み節」では、大岡忠相の腹違いの妹で凶盗の一味となっていた娘が、徳田新之助に兄との思い出を語る神社。
 鬼平犯科帳「白根の万佐右衛門」では、彦十のとっつぁんが掏摸からカツ上げした財布から大盗・白根の万佐右衛門の札が出てくる平河天神。本殿前と裏手を使っている。同「泥亀」では、凶盗が押し込み前に集結する下谷・氷川明神。察知して張り込んでいた火盗改の出役があり、本殿まわりで大立ち回りが繰り広げられる。
 水戸黄門33「男意気地の恩返し!」では、本殿や舞殿のほか、参道脇の小道も使われた。舞台は村上、名産の鮭をめぐる騒動のさなか、零落した商家を復興させようと頑張る娘が、陰で奔走してくれていたかつての使用人に礼を述べるシーン、男が降りてくる小道が上写真左の短い石段。
本殿まわりに無数にある祠も、いろんな作品で背景に映り込んでいる。

京都市左京区吉田神楽岡町

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