時代劇の風景  ロケ地探訪

下鴨神社

本殿
本殿への入口・楼門 糺の森・馬場
下鴨神社周辺 下鴨神社は正式名を賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ)という。賀茂と高野二つの川のデルタ上に鎮まる、京最古の賀茂氏の始祖を祀るやしろは、山城原野の原風景を偲ばせる鬱蒼と繁る社叢・糺の森(ただすのもり)を持つ。木の下隠れに流れる泉川と瀬見の小川の二本の川、広大な馬場、落ち葉散り敷くままの林床、この自然度の高さ故にロケ地としては江戸市中の風景に擬して撮られる上賀茂とは異なり、郊外や道中の「絵」として用いられることが多い。素材として得がたい要素が多く、森も小川も馬場も社殿も頻繁に使われる。
糺の森には松竹の下鴨撮影所があり、これは大正12年に関東大震災のため蒲田の撮影所が移ってきたものである(現在は廃止)。時あたかもサイレントからムービーへの移行期で、長谷川一夫のデビュー作はこの撮影所でつくられた。
楼門と回廊
 楼門の左右には回廊が整然と翼を広げる。必殺仕事人「艶技鬼面潰し」では、悪玉の巣に潜り込むのに加代とおしまが門番を誑かすというシーンで使われ、三島ゆり子の「許せないわぁ」の決まり文句も見られる。
暴れん坊将軍第二シリーズの最終話では、日光東照宮参拝の上様の行列がゆくのをめ組の面々が土下座して見ていて「あれっ新さんじゃないの」などと騒ぐ場面に、回廊付近が使われていた。派手な東照宮のイメージに丹鮮やかな楼門まわりが背景として使われる好例。
糺の森・馬場、池跡近く 参道から馬場を見る
 参道の西側には広大な馬場が広がる。葵祭に先立って流鏑馬神事が行われるところで、神殿に近い所には観光バスが止まっていたりする。
馬場では、大掛かりなセットを施してのモブシーンが撮られることがある。
深作欣二監督の必殺4 恨みはらしますでは、旗本愚連隊が蹂躙するおけら長屋として使われ、迫力のラス立ちが行われる。住人が追い出され廃墟となった馬場に風が吹き抜けるシーンは圧倒的な迫力。
同様の大掛かりなものでは、浪人街(1990年黒木和雄監督作品)の子恋いの森がある。集結した旗本たちに斬りこむ原田芳雄と石橋蓮司が凄まじい。
鬼平犯科帳「雲竜剣」では、配下の同心殺害を聞いて駆けつける長谷川平蔵の騎馬シーンが馬場で撮られている。馬場の北から疾駆する馬を参道にレールを据えて撮ったものと思われる。馬場西側の森の向こうはビル等が建て込んでいるので、あまりカメラが向けられることはないが、このシーンでは動きが早いのと、上下を切ってあるせいでうまく仕上がっており、迫力があった。鬼平では他にもおかしらを先頭に火盗改の面々が続く騎馬のシーンがけっこうあり、よく使われている。
騎馬のシーンでは、暴れん坊将軍で上様が馬を駆る江戸城の馬場としてよく用いられる。人助けに馬で街道を走るシーンもよくある。
また、新必殺からくり人 東海道五十三次殺し旅「府中」で、関所のセットを馬場にしつらえて撮ったものがある。小駒太夫が役人の刀の束に独楽を乗せてからかうという場面。忠臣蔵1/47では、高田馬場のシーンが撮られている。
糺の森を流れる泉川
 泉川もよく使われるスポットである。題名も失念してしまったが、股旅もののエンディングで主人公が笹舟を流すというノスタルジックな絵を見たことがある。里の川、という見立てなのだろう。
これも話数等記憶にないが必殺シリーズの中村主水の仕置のシーンで何度か見た覚えがある。糺の森の多角的研究がなされた四手井綱英氏の著作にも、泉川のほとりに立つ主水の写真が掲載されていた。
 新必殺からくり人「府中」では蘭兵衛が盗賊に家族を殺された少女をあやすシーンで使われていた。翔べ!必殺うらごろしではオカルト現象の起こる画巻を譲られる正十が泉川のほとりにいたり、行商途中のおばさんが行き倒れの若侍を拾ったりする。設定はたいてい地方の街道筋である。源九郎旅日記 葵の暴れん坊では、弥々姫といい雰囲気のお控さまのシーンや、泣く泣く小諸の在所を出てゆく出稼ぎ男のシーンで使われ、折りしもの紅葉がノスタルジックな画となっている。続・三匹が斬る!では、女欲しさに下僚をねちねちと苛め追いやる大納言が河原で竜胆を摘んでいると、怒りがレッドゾーンに入っている三匹が現れ襲い掛かるラス立ちで使われていた。必殺仕切人最終話の別れのシーンで勇次が去るのはこの河畔。
二の鳥居 瀬見の小川に架かる石橋

 二の鳥居は必殺シリーズの映画版「必殺!The HISSATSU」で、殺し屋集団との決戦が行われようとする場面に使われていた。真っ暗な中照らされ浮かび上がる二の鳥居で、非情の殺し屋六文銭のヘッド・庄兵衛と対峙する主水のシーンである。殺ったかと見えて実は替玉、死闘がはじまるのであった。設定はお酉さまの境内、どこのお酉さまかは不明。必殺仕事人「断絶技激走!一直線刺し」では、大八車で暴走する若者集団が繰り出してくるシーンがあるが、楼門から二の鳥居を使ってある。長七郎江戸日記「海を渡る五十万両」では、明の軍用金を探しに東海道を下る長さん一行が小休止する名古屋城下の茶店のシーンに二の鳥居が映りこんでいる。ここで辰三郎が女の子に引っ掛かり金の秘密を喋ってしまうというもの。必殺仕事人V激闘編最終話では、主水が仲間の手配書取り下げを元老中と取引するシーンに、二の鳥居下が使われている。

 参道から河合社のほうへ行くのに渡る小さな橋は瀬見の小川に架かるもので、小川は森の湧水が涸れた影響でながらく涸れ川となっていたが、最近糺の森の小川を復元する事業で泉川から導水されるようになり、しっとりした水辺空間を作り出している。これはごく最近なされたことなので、2000年以前に撮られた時代劇では涸れ川のことが多い。
 神谷玄次郎捕物控「誘拐」で誘拐事件の検証がこの橋付近で行われている。設定は回向院。幕府お耳役檜十三郎「大名潰し・三千両の罠」では、尾行に気付かれ追いかけられた鳥見役と渡り中間が逃げ込んで隠れるのがこの橋の下。

糺の森・池跡、池底の窪みから 糺の森・池跡、池畔から見下ろす
池跡の窪みから見上げる 池跡の窪みを見下ろす
 糺の森の南端に河合社という摂社があり、その近くにかつて湧水を満々と湛えたという池の跡がある。水は涸れて久しく、落葉が厚く積もった窪地にしか見えない。ここは意外と多用されるスポットで、使われ方はさまざま。窪みの深さは3mもあるだろうか、けっこう深い。
 必殺からくり人富岳百景殺し旅「神奈川沖浪裏」では、魚河岸の調査に江戸へ急ぐ唐十郎の道中のシーンで池堤の向こうから歩いてきて再び池堤に上がってくるのを街道のアップダウンに擬して撮ってあった。ほんのちょっとの移動なのに長い距離を歩いたかのような効果で見せる。
御家人斬九郎「最後の忍者」で斬九郎が忍者たちに襲われるシーンもここ。
剣客商売「御老中暗殺」では一橋家の侍が田沼意次の駕籠を襲うシーンで派手に使われていた。池波正太郎の原作では浅草田圃・新堀川畔の雑木林の中という設定がなされている。
このほか銭形の親分の投げ銭が飛び、さまざまな仕事人たちが活躍し、長七郎ぎみの双剣がきらめき、上様が大暴れし、鬼平が弟分の仇を取ったりと枚挙に暇ないほどの時代劇が撮られている。
河合社 河合社東塀
河合社東塀 河合社 池跡から北塀と拝殿屋根
 参道のはじまる左手に、河合社という鴨長明にゆかりある摂社がある。東の塀は馬場と接し、池跡から北塀と拝殿の屋根が見えている。
ここも多用されるスポットで、使われ方は江戸市中から街道筋、町外れと多岐にわたる。
 必殺仕置人「塀に書かれた恨みの文字」では訪ねて来たお嶋の老父と妹を髪結いの修行中と折角仕込んで誤魔化したのに、彼らは帰途辻斬りの馬鹿殿に殺されてしまうという悲惨なくだりがあるが、辻斬りは河合社前に出る。翔べ!必殺うらごろしではよくチームが野営している姿が見られる。暴れん坊将軍ではよく駕籠が襲われたり大身の武士が斬られたりしている。設定は町からちょっとはずれたあたりだろうか。下城途中の設定も見られる。雲霧仁左衛門[山崎努版]では、兄上様の蔵之助が雲霧として処刑される刑場がこの付近に設営され、七化けのお千代と雲霧のおかしらとの永訣の場となった。
☆下鴨神社ロケ使用例一覧 ・1989年以前 ・1990年以降
京都市左京区下鴨泉川町

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