時代劇の風景 ロケ地探訪 本願寺周辺

 京都駅の北には、真宗の中心施設が建ち並ぶ。東西の本願寺のほか、興正寺が西本願寺の真南にある。いずれも門徒衆でいつも賑やかなお寺で、信仰の篤さを示す広壮なお堂が見る者を圧倒する。

西本願寺阿弥陀堂 東本願寺阿弥陀堂 興正寺御影堂
西本願寺 阿弥陀堂 東本願寺 阿弥陀堂 興正寺 御影堂

■ 西本願寺大玄関

 北小路通に面するお西さんの大玄関門は、両脇に控所を持つ豪壮な門。その大きさと造りから、そんじょそこらのお屋敷には設定されず、幕閣や大藩のお屋敷になる。

西本願寺 大玄関門
大玄関門 表 大玄関門 内側

 大玄関の門は、工藤栄一監督の十三人の刺客で使われた。将軍の弟である驕慢な殿様を諫め得なかった明石藩の家老が、幕府への面当てに老中屋敷の門前で切腹、これにより馬鹿殿に暗殺チームが放たれることになる、その門がここ。2010年に三池崇史監督によってリメイクされた際も、ここで明石藩の家老が腹を切っている。

 1968年版の大奥「仇討ち神田祭」では、世継の若君逝去の件を相談しに行ったお局さまが仇と狙われ駆け込む田沼意次邸の門である。このエピソードは忠臣蔵を下敷きに書かれていて、田沼邸の門は本所松坂町の吉良邸にオーバーラップするのである。門は内外とも使われ、閉じかけた門に殺到する仇討ちの女たちと、阻もうとする門番の攻防が、この重厚な門を舞台に繰り広げられる。配下の女たちが邸内で死闘を繰り広げるあいだ、「大石内蔵助」に相当する役割の中掾E浦路は祭り装束をまとい、山鹿流采配の代わりに錫杖を構えて門の内側に控えている。

 北町奉行・遠山金四郎の活躍を描く痛快時代劇・江戸を斬る II「初春、喧嘩纏」は、大名火消しと町火消しの争いのお話で、紛争を収めるべく加賀さまの屋敷を訪ねる水戸烈公のくだりで加賀藩上屋敷として大玄関門が使われた。このとき門は開いており、式台玄関の唐破風がのぞいているのも百万石の家格によく適った風格。このほか、長七郎江戸日記では若年寄邸、暴れん坊将軍では寺社奉行邸などの設定も見られる。

式台玄関 玄関から見た門内側

■ 西本願寺唐門

 大玄関門のすぐ東にある唐門は、伏見城の遺構。桃山の香りを伝える豪奢な造りで、丁寧に施された彩色も鮮やかな彫刻と金色の金具が黒で縁取られ、シックにまとめられている。彫刻は、下に挙げたお獅子のほか麒麟や中国の故事など、ぎっちりと凝縮されている。この門は国宝。

西本願寺 唐門 唐門のレリーフ

 唐門は、篠田正浩監督の映画・梟の城で、聚楽第として使われた。天正の信長の伊賀焼き打ちに生き残った忍者が、太閤秀吉暗殺を請け負うお話で、彼が忍び込む太閤の居館・聚楽第の導入に、ここの唐門が来る。このあとの、大屋根での忍者の戦いは西岡善信氏の手になる凝ったセットに移る。唐門で聚楽第の華やかさを表し、セットで広壮さを示す趣向が憎いばかりに利いている。

 江戸を斬るII「狙われた遠山桜」では、まだ結婚前の遠山金四郎とおゆきがお散歩中通りかかる加賀さまのお屋敷として背景に映っている。加賀百万石→派手、という記号の好例。


■ 北小路通

 堀川通と大宮通をつなぐ東西の小路の一角は、両側に高い塀が続く。北はお西さん、南は興正寺の塀。江戸期の町なみを表現するのによい景色となる。

北小路通 左は西本願寺南塀、右は興正寺北塀
西望 東望

 ひとけもまばらなこの一角は、古い映画やドラマでよく武家屋敷街などに使われた。
1969年、三船敏郎主演で撮られた映画・新選組では、ここで分派した伊東甲子太郎が斬られている。その後伊東の亡骸に駆け寄った「高台寺党」も押し包まれ斬り死にを遂げる、すなわち「油小路の決闘」の場面である。伊東を演じた田村高廣と、近藤勇を演じた三船敏郎の殺陣が繰り広げられ、敗れた伊東は本願寺側の溝に頭を突っ込んで最期を遂げる。
高橋英樹が闇の殺し屋を演じた異色のドラマ・十手無用九丁堀事件帖では、南町奉行所付近の街路として使われていた。クレーン撮りが迫力。


■ 西本願寺太鼓楼

 お西さん境内の北東隅には太鼓楼が建つ。国道一号線の堀川通に面しているので、ドライバーの目に親しい一件。

太鼓楼 堀川通から参拝会館を望む

 太鼓楼は、2004年の大河ドラマ・新選組!でイメージカットとして使われている。これはたいへん贅沢なことで、ここは実際に新選組が屯所を置いていた場所なのである。お西さんに半分嫌がらせのように居座った新選組は、太鼓楼の傍にあった北集会所を徴発したという。現在参拝会館が建っているところがそれとされる。当時の建物は姫路の亀山御坊本徳寺に移築されており、この本徳寺では新選組!で役者さんを入れてのロケが行われたのも興味深いところ。

 新選組ものでは壬生の屯所を描くことが多く、隊士が増えて移転した西本願寺屯所を舞台にしたものは少ない。これを忠実に再現した作品が大島渚監督の映画・御法度で、美術の西岡善信氏のご苦労が、平凡社から出ている「映画美術とは何か(ISBN4-582-28237-7)に詳述されている。


■ 龍谷大学大宮キャンパス

  大玄関のすぐ南には、本願寺僧の学舎を起こりとする龍谷大学大宮校舎がある。本館は明治12年に作られた洋館で、重文指定。建築には日本の大工さんがあたり、苦心のさまがどこか和の香りを漂わせるデザインからうかがえる。

龍谷大学大宮キャンパス

 ここは、必殺スペシャルで横浜の異人屋敷として、またマカオ総督府としても使われた。
御家人斬九郎最終回では開化後の東京の町として使われた。誰だかわからないよう含みを持たせた渡辺謙演じる車夫が、婀娜っぽい黒羽織の辰巳芸者を人力車に乗せて本館前の道をゆく名シーンである。

 必殺シリーズの人気キャラクター・三味線屋の勇次が、現代の京都に顕現するというサスペンスドラマ(現代劇)でも京都市中の点景として使われていた。門扉の柵越しに学舎が映っているが、英国のアームストロング社製というフェンスも重文だったりする。


■ 興正寺阿弥陀堂門

 お西さんのすぐ南にある興正寺はお西さんと同じ真宗のお寺で、越後遠流から京に戻った親鸞上人が山科に開かれたお堂を起源とする。
本堂正面の大きな三門とは別に、阿弥陀堂正面にも門がある。門前には堀川に石橋が渡されている。

興正寺 阿弥陀堂門 阿弥陀堂門前の石橋と堀川

 この門は、吉宗評判記 暴れん坊将軍で三回使われた。設定は全て尾張藩邸で、築地も橋もよい小道具となっている。
「かりそめに咲く夜の花」では、門のほか堀川も使われている。藩邸を探るお庭番が堀川の橋下に潜むが、和崎俊哉演じる男お庭番・大月半蔵は護岸にある土管の穴から出てくる。この部分の堀川は涸れ川で、写真に見える水は雨のあとの水溜り。


■ 東本願寺内事門

 花屋町通が通じるお東さんの北側は、お濠に面して長く海鼠壁が続き、どこか倉敷の街に似た風情。
この西端に、お西さんの大玄関によく似たつくりの、唐破風を持つ控所を両脇に張り出させたたいそう立派な門がある。門からは大正期の建築である御殿が見える。

東本願寺 内事門

 ここは、1983年版大奥「女の髪は象をもつなぐ」で、新たに建設され桂昌院が神田橋御殿から移ってくる三の丸御殿として使われた。花屋町通にクレーンを据えて撮られたダイナミックなアングルで、綱吉の治世がはじまって権勢いや増す桂昌院の威容がよく表現されている。
大奥シリーズのひとつ徳川おんな絵巻では、松平不昧公が諸侯を招いて茶会開く下屋敷や、本多正純邸である。必殺仕事人最終話では、伝馬町の牢屋敷として使われた。上写真右と同じアングルだが、濠を映さないように撮ってある。必殺仕事人V激闘編では御三卿・田安家の御門。
加藤泰監督の緋ざくら大名では、長屋に暮らす実は桑名十一万石・松平家の若様が、賭場で作った借金を取りに帰るくだりで使われた。コミカルな演技の橋蔵が見もの。
二層の御影堂をはじめ、見る者を圧倒する巨大な建物が多いお東さんだが、この門も然り。ことに、シンプルな漆喰壁はお城に擬されるのも納得のスケール。

*お東さんのロケ使用例は、枳殻邸( 渉成園 )が最も多い。これについては、別項「時代劇ロケ地探訪・枳殻邸」を参照されたい。
*内事部は2005年に退去、以降の名称については不明。


*本願寺周辺 ロケ使用例一覧

京都市下京区


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