時代劇ロケ地探訪 大内辻堂

 本梅川の小支流がつくる谷の奥、里も尽きた道隈に、絵に描いたような辻堂がある。
里から来た道はここで分岐し、左へ行けば八木へ抜ける谷地田脇の道、右へ行けば登り道となり亀岡の千代川へ出る。それを示す古い道標も残っている。
現在、里からの道や亀岡道は舗装路で、八木道はまだ地道。お堂の脇には松が生えている。

 ドラマに使われるシチュエーションは、ほぼ街道筋。関八州から東海道をはじめ、あらゆる地方の「道」として登場する。

 お堂には、風化して目鼻だちも定かでないみほとけが安置されている。屋形のつくりはごく簡素、前後左右どの角度から見てもさまになる。お堂の前に座り込んでみたり、裏に潜んで道を見張ってみたり、ときには脇に茶店がしつらえられることもある。

辻堂 南から 辻堂 北から
辻堂 裏から 辻堂 正面

 新・座頭市「父恋い子守唄」では、旅に死んだ女に託された坊を追分宿へ送ってゆく座頭市が休む茶店が辻堂前にしつらえられた。少しもじっとしていないいたずらガキが蜂の巣を突付いて大騒ぎになるシーンで、やんちゃ坊に手を貸す辰巳柳太郎の爺さまや、坊を狙う岸田森の殺し屋や爺さまを狙う浪人などが交錯する。
翔べ!必殺うらごろしでは、旅立ちを促す仲間にもうひと眠りしてゆくと答えた熊野権現のお札売り・おねむが寝っ転がるシーンが辻堂。この場面は、超自然現象について語るエンディング部分に何度も流用されているのでつよく印象に残り、お堂と鮎川いずみの眠そうな顔がセットで頭に焼き付いている。このお堂が使われたのは第2話の一回きりで、そのあとも「おねむ」はよく祠の前などで寝ているが別の場所。しかし大沢池堤や桂川堤にあしらわれた祠は、妙にここの辻堂に似通っている。
伊丹万作監督の名作をリメイクした映画国士無双では、食い詰めてお供えの芋を盗み食う浪人・瀬高と小鹿の姿が堂前に見られる。二人がなおへたりこんでいると伊勢守の行列が通り、土下座している二人の鼻っ先に馬が大量の落し物を垂れてゆくのであった。この二人は岡本信人と火野正平が演じている。
そのほかヨロキンの日本犯科帳では寺社奉行が射殺される金毘羅さんへの道、加藤剛の刺客街道では姫様に差し向けられた追っ手とチャンバラの街道筋。たいていは田舎道設定である。初々しい片平なぎさが世直し道中を繰り広げる雪姫隠密道中記ではことあるごとに辻堂周辺が使われていて、バリエーションも多い。

分岐道 左 八木道  右 亀岡道

 三叉路の道隈はなかなか絵になる。組み合わせによりさまざまな風景が現れる。

 吉宗評判記 暴れん坊将軍「駆けろ!天下の紀州号」は吉宗が異国の馬を導入して改良を計画するお話。導入の是非はレースで決めることになるが、そのコースの一部分がここで撮られた。上写真右と同じアングルの画があり、亀岡道から馬が駆けてくる。道隈が映ると、空間の広がりがとてもダイナミックに見える。
雪姫隠密道中記「危い財布に手を出すな」では、六助が財布を落としてしまい、姐御のおさらばお千と大喧嘩を繰り広げるお笑いシーンがあり、通行人にも笑われている。騒ぎを見て通るお伊勢参りの旅人は、名斬られ役の福本清三氏だったりする。

亀岡道 北望 亀岡道 南望
亀岡道 北から辻堂を望む 亀岡道 登り道から辻堂を望む

 亀岡へ通じる道は、上写真上段左の奥で山に当って曲がり、登り道となる。年代によっては、登り道の崖に赤土が露出していることもある。山道を降りてくる、登りにかかる、高みから谷を見下ろすなど、さまざまな良いアングルが得られる。使用例は辻堂前に次いで多い。

 新必殺からくり人「藤川」は、西崎みどり演じる薄幸の盲いた少女が愛馬を宿役人に召し上げられてしまう話。彼女が馬子唄を高らかに歌いつつ、愛馬のフジを牽いて通る街道が亀岡道。彼女の前に馬をとられた被害者の青年が斬られたのはお堂前で、青年の愛犬がお堂で待ち続けるという哀しいエピソードがあり、芦屋雁之助が聞き込みをしている。翔べ!必殺うらごろしでは、「先生」が悪代官を仕置するのに待ち構えているのが亀岡道で、助走なしで大跳躍した中村敦夫は、馬上の代官の真上から旗竿をぶっすりと突き刺す。雪姫隠密道中記の第1話では、先に述べた赤土の露出がくっきりと見えている。必殺仕舞人「織姫悲しや郡上節」では、一座が賑やかに郡上へ差し掛かる冒頭の場面が亀岡道で、お堂脇に「紬の里」と書いた道標をあしらってある。紬を知らなくて「食ったことねぇもん」と吠える本田博太郎の背後は、真っ青に日本晴れ。

亀岡道 里を見返る

 亀岡へ抜ける道を、更に登ったところで里を見返るアングルも使われる。

 片岡孝夫(現・仁左衛門)が虚無に生きるニヒリストを演じた旅もの眠狂四郎 円月殺法が好例で、東海道を西へ向かう狂四郎がゆく街道として使われた。
撮られた頃は地道で現在とは木の繁りかたも違うが、大内の里から辻堂へ通じるうねうねとした谷地田沿いの道が効果的に映り込んでいる。

八木道 北望 八木道 南望
八木道の神社

 八木へ通じる道は今も地道。細長い谷地田の山際に道が通じている。谷地形なので、道はうねうねと曲折している。分岐を入って間もなくの山ふところには小さなやしろがある。岩盤が露出したところに祠があり、急な石段がついている。

 吉宗評判記 暴れん坊将軍「心の鎖は人情で裂け!」は、甲府へ代官を懲らしめにゆく話。甲州街道をゆく徳田新之助が、お堂の前を通り過ぎ八木道のほうへ折れてゆく。
雪姫隠密道中記「身代り花嫁危機一髪」では、備前・忌部村の百姓を無礼討ちした代官が馬で駆け去るのが八木道。
斬り捨て御免!「野獣討つべし」は、三十六番所頭取・花房出雲の剣弟夫妻が、ど助平の大名のどら息子に悪さをされたうえ惨殺された仇を討ちにゆく話。国へ逃げ帰ろうとする馬鹿息子には凄腕の用心棒がついており、死闘となる。この一行を追いかける番所衆の道中が、辻堂周辺を巧みに組み合わせて撮られた。八木道の神社も使われている。用心棒の愛人がいい男を見かけたと話す道端のお宮さんがここ。石段を上がったところの祠も映っている。「いい男」は柄に鈴を付けていたと聞き、用心棒は出雲だと知る。


大内神社

 大内神社は、辻堂へ行くまでの里のなかにある。市の名木に指定された大杉が目を惹く。幹周8m、樹高36mという巨木で、鳥居の際にある。

 ここは、雪姫隠密道中記「焼蛤剣法の助太刀」で使われた。やっとう狂いの桑名の焼蛤屋の若旦那が、おこぼれ目当ての取り巻きにいいようにタカられているのに我慢ならない雪姫は道場に逗留、ここへ葵新之介が「道場破り」にやって来て「あら」「奇遇ですな」と互いに照れたあと、それぞれの目的について話すお宮さんがここ。導入には巨杉を見上げてのダイナミックな画が使われ、その後も杉の根方で話すシーンがある。
写真で本殿の屋根に見えるのは覆屋で、この付近でよく見かける形式。


 古い作品では、辻堂付近の様相は現在とかなり異なる。お堂前はいま水田だが、草ぼうぼうの野原のこともある。お堂まわりの松も今は二本きりだが、もっとたくさん生えている映像も見られる。だいいち前の道が地道だったりする。また、堂前の道の農地側にも松並木が見られる例もある。

 電信柱ができているため、アングルが制限されることもあり、新たな撮影は行われないかもしれないが、変化を嘆くよりも残しておいて下さったことへの感謝の念が先に立つ。扉から覗き込んだお堂の中には、新しい花が供えられていた。

*「大内辻堂」は筆者の造語で、正式名称ではありません。お堂に祀られている仏さまが観音さまなのか地蔵さんなのか浅学にして判定できず、地蔵堂や観音堂でなくても道隈にあるお堂だから辻堂でいいかなと判断して、便宜上の呼称としました。筆者周辺では発見前には「おねむの祠」と呼んでいて、日記等にはそう書いてあります。
*亀岡道も八木道も基本的に農道なので、訪問の際にはマナー遵守願います。

*使用例一覧

京都府亀岡市東本梅町大内


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