時代劇ロケ地探訪 大谷祖廟

総門 大谷祖廟は円山公園の南、東山の麓に鎮まる親鸞上人の御廟所。山裾には広大な東大谷墓地があり、無数の門徒衆が眠っている。東大路のすぐそばから山まで伸びる石畳の参道は広々としていて、お盆の万灯会には墓地だけでなくここにもずらっと灯が並び壮観(右写真は総門)

 門徒衆の深い信仰を示す広い参道は、城下の道としても使われる。姫路や彦根などほんとうのお城でもなかなか無い規模の石畳は、画面に奥行きをもたらし説得力を与える。


参道 中ほどから東望

 新選組血風録「海仙寺党全滅」は、新選組三番隊隊長・斎藤一の人柄を、新入隊士との関わりを通して描くお話。血風録の斎藤は朴訥にして豪胆な好人物で、左右田一平が独特のキャラクターを創出している。斎藤の隊に配された新入りは、ほぼ縁もゆかりもないのに知人だと強弁して入隊してくるが、斎藤は頓着せず受け入れ、手前勝手な借金の要請にも応じてやる。その金は実は情婦に渡すもの、しかし女はしたたか者で両天秤をかけており、新入りは「間男」に斬られて武士にあるまじき死に様を遂げてしまう。いちおう紹介者であり配下の不始末の責任をとらねばならぬ立場の斎藤は、惨めに死んだ部下を殺した、誰もが手を焼くも憚りのあった水戸浪士の一団を、たった一人で血祭りに上げ殲滅するのだった。
この話に、大谷祖廟参道が何度も出てくる。斎藤一が新入りに呼び出されて出かける道、三番隊を率い巡察に出る道である。また、部下の仇である水戸浪士の一団・海仙寺党が高歌放吟しつつ闊歩する道でもあり、この際には下写真のように祇園閣の「鉾」が林越しに映り込んでいる。
血風録のあと同じスタッフで作られた用心棒シリーズの帰って来た用心棒第1話では、野良犬のダンナがゆくラストシーンに参道石畳が登場する。
日本テレビの年末長編田原坂第二部「桜島は死せず」では、大久保利通暗殺の紀尾井坂として使われていて、近藤正臣演じる大久保が石畳に斃れる。

参道から南望 覗く建物は祇園閣

 必殺劇場版第四弾恨みはらしますは、金ぴか衣装をまとった新任奉行が巻き起こす大騒動を描く映画。真田広之演じるお小姓あがりのそのお奉行が南町に着任する際の、美々しい行列がやってくる道がここ。中ほどで少し曲折している参道をうまく使い、どこか天草四郎にも似た怪しい奉行のビジュアルに壮麗さを加える。参道の途中にある大灯籠が行列の背後に映りこんでいるのも効果的。

上/大灯籠手前のカーブ・東望、下/大灯籠

 御家人斬九郎「雲隠れ」は、妖刀に取り憑かれた復讐鬼の話。国家老殺しの罪を着せられたうえ目の前で妻子を惨殺された男の手に、戦国期から伝わる妖刀・雲隠れが渡り復讐がはじまる。最初に血祭りにあげられるのは藩主、お城から退出する行列を狙われる、その大手門外の道がここ。城門は二条城で撮られていて石垣を映したあと画面はここにスイッチするが、参道脇の松並木もお城まわりに相応しい風情。伊原剛志演じる川添小平太は入口の柵(下写真)で待ち構え、やってきた行列に殺到する。なにしろ妖刀なので、殿様は駕籠ごと真っ二つにされてしまうのだった。

下河原通に面する入口 左へ行けば祇園さんの南門

入口見返り 柵は斬九郎でも使われたが、天下の副将軍 水戸光圀では、引き離されて過ごす母子の哀切な場面に使われた。水戸藩主頼房が側室に生ませた子・長丸は、出生後すぐ生母と離され家来の子として育つが、人物を見込んだ父により兄たちを飛び越して世継とされる。「若君」がお城に迎えられる日、母は柵の陰に隠れて行列を見送る。このシーンに先立って「お城」が彦根城や知恩院を使って撮られているが、この坂はそれらにすんなりとよく馴染む。右写真は参道から入口を見返ったもの、このアングルも使われた。

北側通用門 瓦の斑は残雪

金戒光明寺総門 長い参道が御廟所入口の総門に辿り着く、その手前を北にゆき円山公園に出る脇道がある。公園側から見ると御廟入口続きの石垣が左手に配されて、通い門はあたかも城門の如き様相を呈する。
新選組血風録「昏い炎」では、幕末に黒谷の金戒光明寺に置かれた会津本陣として使われた。金戒光明寺は、知恩院と併せ京七ツ口のひとつである粟田口を守護する徳川幕府の隠し城としての性格を持つとされ、実際幕末に京都守護職を任じられた会津藩の本陣が置かれた。くろ谷の総門を入った参道には実際お城のような石垣が続くが、黒谷の総門前は建て込んだ門前町なので絵的に使いにくいのか、他の時代劇でも総門の使用例はない。「血風録」では黒谷を使っているので、東大谷のここがわざわざ使われたのは、やはり左手の石垣がミソなのだろうと推測される。黒谷総門の脇にも、石垣は見えている(最後の写真は参考のため挙げた金戒光明寺総門)
このほか、御陵衛士屯所の月真院や長州屋敷として、のちの用心棒シリーズでも頻繁に登場する。

京都市東山区円山町

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