時代劇ロケ地探訪 妙顕寺

 妙顕寺は元亨元年に日像上人によって開かれた、京における初の法華道場。はじめ四条あたりにあったが、秀吉の街区整理により諸寺とともに寺之内の地に移ったという。日蓮宗京都十六本山の首座に位置するだけあり境内もお堂も広壮で、建て込んだ市街地にいることを忘れる。
本堂
 山門から続く石畳は、まっすぐ本堂に行き当たる。途中のポールにはお題目に続き「一天四海皆妙法に帰す」と染め抜かれた幟がはためき、厳かな雰囲気を醸しだす。
市川團十郎が黄門を演じた天下の副将軍 水戸光圀の「乱心!五代将軍綱吉」では、大火の被災者が収容される駒込吉祥寺境内として、ここがたっぷり使われた。火事は光圀を狙ったもので、彼と側室も寺に身を寄せることとなる。被災者の中には光圀と懇意の八百屋一家がおり、娘・お七が光圀暗殺の陰謀に巻き込まれてしまう。彼女を籠絡にかかる寺小姓の名は吉三郎で、高名な八百屋お七のエピソードを筋立てに組み込んだ趣向。
本堂裏 渡廊 本堂基壇亀腹
 吉三郎に不審を抱いた光圀は、吉祥寺の和尚に彼の身の上を尋ねる。このシーンは本堂裏手の、方丈に続く渡廊で撮られた。この渡廊は、真ん中の一角だけ開いていて他は塗り込めというちょっと変わったしつらえで、劇中では吉三郎とお七が忍び会うシーンなどに構造が効果的に用いられている。
吉三郎に筋書き通り、と囁く兄弟子のシーンでは、上写真右の本堂基壇越しのアングルが見られる。お堂が大きいので、縁下に人物が入ってしまうのである。背後の垣根の向こうは境外だが、道向こうに塔頭がありよい背景となる。
庫裏
 本堂裏手には客殿が控え、左手に庫裏がある。庫裏はさほど大きな建物ではないが、雄渾なデザインの妻飾りが印象的で美しい。
雲霧仁左衛門「張り込み」は、物語中盤の大きな山である、尾張の豪商・松屋へのお盗めの話。雲霧一党は手の込んだ仕掛けで松屋へ押し込む準備を着々と進めるが、対する火盗改も不穏な気配を察しており尾張に人数を差し向ける。その際火盗改が雲霧の盗っ人宿を見張るのに使うお寺が、ここ妙顕寺の各所を使って撮られた。なかでも高窓から表を見張り続ける見せ場には、庫裏玄関破風上の高窓が使われた。カメラが窓にズームしてゆくと、隙間から火盗改同心の顔がのぞく。このくだりでは、中で梯子を掛けて窓を覗くシーンもあり、梁の形状などからほんとうにここの内部を使っているものと思われる(格子から見える町並みはセット)
三菩薩堂 尊神堂
 本堂東側には諸堂が建つ。三菩薩堂は日蓮・日朗・日像の三祖を祀る。これが本堂でもおかしくない規模で、仮本堂として使われたこともあるという。このお堂は鬼平犯科帳「二つの顔」で、雑司ヶ谷の鬼子母神として使われた。凶賊の事件でもしやと疑った男が穏やかに暮らしているのを見るラストシーン、三菩薩堂に参拝する平蔵からはじまるくだりである。参拝後、平蔵は境内に露店を出している富造に「長谷川さま」と声を掛けられるが、彼が老いた女房と仲良く実直な暮らしをしていると見た鬼平は「人違い」と去る。富造が商っているのはススキで作った縁起物のみみずくで、平蔵は一つ求めてゆく。この愛らしい小物は、豊島区の鬼子母神堂近くで魔除けのお守りとして今も売られている。
 尊神堂は鬼子母神を祀る。お釈迦さまに帰依した訶梨帝母は母と子の守護神で、妙顕寺の鬼子母神には帝も参拝なさったと伝わる。本堂と三菩薩堂の間に位置するので、よく映り込んでいる。
本堂前のカイヅカイブキ
 本堂前にはカイヅカイブキ(貝塚伊吹)の大木がある。生垣などに使われるポピュラーな庭木だが、ふだん目にするそれは大抵刈り込まれた姿なことが多い。妙顕寺の木は市指定の銘木でもある大木で、太い幹が螺旋を描いて天を突く。脇にはここ特有の灯籠が控える。
江戸を斬る第八シリーズ「贋金の夢を見た」では、富籤興行の寺として本堂が使われ、博打狂いの飾り職人が買った籤について警備に来た岡っ引の桜木健一とコントを繰り広げるのが、この大木の前。くねくねと古怪な枝ぶりと脇の灯籠が印象的。
山門 門越しに本堂を望む
 山門は寺之内通に面している。すぐ東に室町変電所があったりするが、うまく避けてロケに使われる。
江戸を斬る第七シリーズ終盤の「血染めの遠山桜」では、清国使節団が宿営する品川八ッ山の東海寺としてここの門が使われた。小松政夫演じる南町同心がお笑いシーンを繰り広げたりしている。門からのぞく広壮な本堂がよく利いているほか、道際の石囲いも印象的。
参道 雪の朝

 御所より北だと中京とは違い、厳冬期には格段に寒さが身に沁みる。上写真は雪化粧した参道。この右手の塀は、先に述べた鬼平のラストシーンで、みみずくのお土産を手にした平蔵が微苦笑している帰り道の背景として出てくる。

京都市上京区寺之内通新町西入ル

→ 妙顕寺ロケ使用例一覧


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