時代劇ロケ地探訪
妙傳寺

 東大路二条に壮麗な伽藍を見せる妙伝寺は、天文の法難以前に京都にあった21ヶ寺本山のひとつで、日蓮上人の御遺骨と御真筆を祀ることから「西の身延」と称される。もと繁華な洛中にあったが、秀吉の政策によりいまの寺町夷川に移った。
東大路から 山門 堂宇 本堂
 東大路に長く続く塀、そこから覗く本堂の大屋根が遠目にも雄大な大寺。その塀の内に、塔頭群がある。境内の南側に集中する塔頭は整然と軒を連ね、江戸期の町なみがそこにあるような一角となっている。法華の大寺によくある風景だが、ここの塔頭は黒い腰板が殊によい眺めで、武家のお長屋によく使われる。
映画村などのオープンセットにありそうなものだが、商家や長屋など町場の風景はふんだんにあっても、お城下の組屋敷というのはなかなか難しい。妙心寺や相国寺の路地を使って撮られもするが、あれは禅刹ゆえかどちらかというとお屋敷街という感じで、お寺の方が住み暮らしておられる妙伝寺塔頭は、同格の家が連なる組屋敷にまことに相応しい風情である。
塔頭群 東望
塔頭群 西望

 東西どちらのアングルもさまになるよい眺めだが、市街地にあるため電柱どころかビルまで映り込んでしまう。またすぐ向いは本堂なので、武家屋敷街に使う際はこれも映らないように、塀を置いてみたり木を被せてみたりとさまざまな工夫がなされる。

 大川橋蔵が荒木又右衛門を演じた1982年の決闘鍵屋の辻では、大和郡山城下の組屋敷として使われた。又右衛門は藩の剣術指南で、同役の河合甚左衛門はお隣。仲の良い二家は思いもよらぬ仇討ち事件に巻き込まれてゆくが、使用人らの葛藤も細かく描写されており、ここを使ってのドラマが活きてくる。荒木夫婦の家は妙釈院、田村高廣演じる甚左衛門の家は円立院に設定されている。
おしどり右京捕物車「虜」では、箱車ごとさらわれた右京を捜す音三の姿が見られる。必殺仕業人最終話「あんたこの結果をどう思う」では、土田小十郎が同僚にムキにならぬよう皮肉っぽく耳打ちされる柴山藩のお長屋である。藤田まこと版剣客商売「狂乱」では、天才であるものの暗い性格ゆえ破滅への道を歩む剣士が住み暮らす本多丹波守のお長屋で、東望のアングルが使われている。この際空が大きく映っているが、もちろんビルは消され重苦しいドラマを象徴する曇り空に変えてある。

妙釈院 円立院
本堂南側縁先 本堂と塔頭群 東望

 江戸を斬る V 「嵐にひそむ非情の罠」は、新堀河岸が決壊しかけた手抜き工事の咎を押し付けられる小役人の話。その息子がまいない役人の倅と苛められるシーンがここで、本堂縁下の亀腹越しに塔頭を見るアングルを中心に使われている。いじめを止めに入る堅太郎坊ちゃんがなかなかに凛々しいくだりで、本堂が立派なので縁下も広く、子役では全身がすっぽり入っていて面白い効果を醸しだす。設定はやはりお長屋で、事態を案じた春川ますみのお政が小役人宅を訪ねてくるシーンでは塔頭を中心に映してあり、先のシーンも縁下のみで一見お寺とは判らない。

京都市左京区北門前町

→使用例一覧

・ロケ地探訪目次 ・ロケ地探訪テキスト目次 ・ロケ地資料 ・時代劇拝見日記
・時代劇の風景トップ ・サイトトップ