時代劇と鳥

 時代劇に登場する生き物といえば、お侍の乗る馬、町を走る犬、居酒屋のマスコットの猫などがある。
これら以外に、さまざまな鳥たちも意外なほど多く登場する。場所の説明になるもの、時刻の演出となるもの、緊迫した情勢を表現するものと、用途も多岐にわたる。
姿の見えぬ鳴き声のみの鳥があれば、飛翔する姿が良きアイキャッチとなる鳥もいる。なかには、有り得ないだろうと頭を抱えてしまう事例もある。

トビ ハシブトガラス ユリカモメ

 現在でもそのへんにいる身近な鳥は、やはり頻繁に登場する。トビは里の情景にも水辺の演出にも使われる。ちょっと河原へ出かければ容易に撮れるし、なにより青空に舞う大きな翼が良い構図になる。「ピーロロー」の声のみ演出されることも多い。
同じ猛禽類ではタカが出てくるが、ほぼ御鷹狩りの場面なので登場するのはよく訓練されたタレント動物。大ワルの悪事を暴露する証拠になったりするオウムや九官鳥も同様。
カラスは増えすぎ対策がとられるくらいだが、撮りたい場所にはいてくれなかったり、カメラを向けると怒ったりするのでけっこう苦労なようである。作り物を木に付けて不気味な場面を演出している番組もある。カラスでは、ハシブトとハシボソと声を使い分けた細やかな配慮を見たこともある。
ユリカモメは群れで登場する。江戸中町奉行所のエンディングに使われたそれには、よく見るとパン切れが映りこんでいる。映画SABU さぶのメイキングでは、スタッフが渡月橋近くでパンを撒いて寄せている様子が見られる。白いハンカチを振るだけで寄ってくる鳥だが、野生のものゆえいろいろご苦労があると思う。アレに目の真横を飛ばれると、実に怖い。

スズメ ムクドリ サギの群れ・鯉揚げ後の広沢池

 スズメは姿よりも声で朝を演出するケースが印象的。「チュンチュン」ときて障子に日が射すと、お粥が煮えていたりするのである。キジバトも同様声での登場で、「デデッポー」の鳴き声は山の中の演出なのだが、アレは最近都市鳥なので違和感を覚えることもある。
ムクドリでは、必殺シリーズで出てくる、ポプラの木からざざっと飛び立つ大群のシルエットが凄い。各作品で使いまわされるこの映像は、人の運命がネガティブな方向へ大きく動くときに用いられる。羽ばたきの音が入っていることもある。
コサギもよく出てくる。広沢池の水が抜かれている折り、池底にいる群れをアイキャッチに使う手法は、必殺にもあるし雲霧仁左衛門(山崎努版)でも見られる。暴れん坊将軍では、大岡忠相とともにバードウォッチングに出かけた上様が脚指もきっぱり黄色いコサギを見て「珍鳥」とか「ゴイサギかなぁ」とやるくだりがあるが、二十年前には珍しかったのかもしれない…と思っておこう。

アオサギ モズ ゴイサギ

 サギの類は、水辺にわんさかいるので意図せずとも映り込むことがある。あまり鳥を知らない視聴者が、鶴と間違えて感心していたりしておかしい。アオサギの渋い色目と大きさは、時代劇によい点景を提供してくれる。ゴイサギは、姿より声。深更、闇の中に響く不気味な「ゴワッ」という夜がらすの正体はこれで、沼や堀端にゴイサギの悪声が響くと、盗っ人や刺客が出たりするのである。賊のなかには、夜がらすの××という異名をいただく者もいる。
モズも声の登場が多い。初秋に聞こえる高鳴きの囀りが使われる。
他には、「ツィークィー」と繰り返すアリスイの甲高い鳴き声が、不安の象徴になる。不安どころか危険が迫っているサインに使われるのはカケス。「ジャーッギャギャーッ」のうるさいまでの嗄れ声は、東映作品で頻繁に登場する。冥府魔道をゆく父子が危難に遭いまくる子連れ狼などは、カケスの声から始まったりする。

メジロ タンチョウ・天王寺動物園ケージ オシドリ

 メジロは、籠の鳥としてよく出てくる。大身の殿様やご隠居が縁先で練り餌を与えている場面が多い。この図は善人悪人共通。花札の梅に鶯の図柄がどう見てもメジロなうえ、本物のウグイスは滅多に姿を見せないので、メジロをウグイスと誤認している人も多い。そのウグイスのほうはほぼ声のみの登場で、「ホー、ホケキョ」の囀りも谷渡りの警戒音も使われる。ホケキョが聞こえると「あら」と皆手を止めて聞き入るのは江戸市民のお決まりである。
めでたい鶴は調度品の画題として出ることのほうが多いが、タンチョウのカップルの求愛ダンスが使われることもある。「クォーコッコッ」という鳴き合いも入っている。必殺仕舞人ではエンディング映像がタンチョウ。西郷輝彦の源九郎旅日記 葵の暴れん坊では、出水平野のナベヅルをオープニングに使っている。必殺仕事人V旋風編の最終回では、大奥で飼われていた丹頂鶴を長屋衆が食ってしまい騒動が起こるが、映っているのは剥製というか作り物っぽい。石川島百軒長屋のごみ溜めに「落ちていた」鶴を中村主水が「掃き溜めの鶴」と表現するのもおかしい。
タイトルにオシドリと入っているおしどり右京捕物車では、ちゃんとエンディングにオシドリのつがいが登場する。おしどり夫婦という意味づけなのだが、実際にはオシドリの雄は子育てに協力することなく、交尾を済ませるとどこかへ行ってしまう奴なのである。

カイツブリ コブハクチョウ コサギ、広沢池

 水辺の情景が出たとき、水鳥の声も演出される。ロケ地によっては同録のこともある。昼間は「ケレレレ…」のカイツブリや「ギョギョシ」のオオヨシキリ。夜にはヨタカの「キョキョキョキョキョキョ…」、ヒクイナの「ーキョッ、キョォー」がよく使われる。これらの鳥は声だけ登場。実際、フィールドに出てみても声はすれども姿は見えず、ということのよくある鳥たちなのである。
 声だけ鳥は案外たくさんある。夜を表す記号となるフクロウの「ホーッホ、ホッホー」はしょっちゅう使われる。きれいな映像がご自慢のNHK作品では、鮮明なフクロウの姿がアイキャッチに使われたりしている。ホトトギスはドラマに託卵の生態が組み込まれる例もあるが、「キョキャキョ」の声のみ。カッコウなども同様である。いまや珍鳥であるサンコウチョウも声だけだが、「月日星ホイホイホイ」なんていうのは、果たして視聴者に鳥の鳴き声として認識されているのか、怪しいところである。怪しいといえば、同録で入ってしまったのか演出かは不明だが、時々聞こえてくる「チョットコイ」のコジュケイ、あれはマズい。移入種で、入ったのは大正期なのである(追記/キビタキの声を使っている場合は邪推ですゴメンナサイ)。お城の濠にいるコブハクチョウなども、ちょっと怪しい。黒鳥なら尚更である。
正しく考証されての音入れもある。御家人斬九郎「白魚の吉次」で、甲州の山中に響く「キョロロロー」のアカショウビンは、季節と棲息地がちゃんと適合している。斬り捨て御免!「野獣討つべし」の、死闘の廃村に響く「ブッキョッコォー」の声の仏法僧・コノハズクも、山中の林という棲息地にちゃんとハマっている。俺は用心棒でも宵闇の街道筋に声が響いていた。
そうかと思えば、よくできたドラマでも真冬の枯野に行々子のけたたましい鳴き声が響いたりして、膝が抜けることもある。


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