天王寺動物園
都市鳥

 天王寺動物園は、大阪市南部のターミナルであるJR天王寺駅近くの都市公園・天王寺公園の中にあり、西には通天閣がそびえる新世界、少し北には日本橋の電器街を控える繁華街のまっただなかに位置している。公園の規模は大きく緑も多いので小鳥などは来てもおかしくないが、ここに体高1m近い水鳥が多数見られ、しかも繁殖しているといえば、やはり奇異に思われる方もいらっしゃるだろう。
 動物園にサギなどの野性の鳥が入り込み、飼育下の動物の餌を掠め取るという話は最近日本各地で聞かれる。ここ天王寺動物園にも彼らはやってきて、傍若無人のふるまいを続けている。その実態をカメラにおさめてきたので御覧いただきたい。

 ここが、現場のひとつ・アシカプール。
背景の築山や池の中の島は言うに及ばず、手を伸ばせば容易に触れることが可能な柵の上にまでずらりサギがとまる。彼らの視線は一点に集中している。
 ここでは、見物人がアシカに餌を投げて与えるという昔ながらのアトラクションが行われていて、プール前の売店でアジやイワシなどの小魚が売られている。奈良公園の鹿せんべいのようなものだ。魚を買った人は二重になっている柵の外側からプールに泳ぐアシカめがけて魚を投げる。就学前の幼児などに多いが、たまには投げ損ねて手前に落としてしまう人もいる。するとコンクリートの床に落ちた魚に一斉にゴイサギが群がり、たちまち平らげてしまう。せっかく投げた餌を横取りされた人は再度魚を、今度は確実にプールのアシカに届けようと強く投げる。と、今度は水面すれすれに飛んできたコサギたちがアシカの隙を狙って魚を横取りしてゆく。  

ゴイサギ(成鳥)

泥棒サギの出現はここのところずっと日常的光景となっていて、私のように最初からサギ目当てでいい年をして動物園に通う者もいるくらいだ(ひょっとすると自分だけか)。 とにかく、その気になれば触れられるほどこんな間近に彼らを見られるのは(望遠鏡なんかいらないのだ)すごいことではある。最初に見た時は、この手を触れられそうな大胆な位置にとまるあつかましい個体はほんの2,3羽だったが、今は常に10羽前後のゴイサギがおり、更に大胆な者は地上におりてうろついているしまつである。 この真剣な眼差しを見てやっていただきたい。
 ところで、この柵にとまるのはゴイサギに限られていて、コサギやアオサギはプールの中の島や背景の築山、或いは近くの木にとまっていて、柵には決して近づかない。別の言い方をすれば、あまりに人に近い場所にはやってこない。同じサギの仲間でも種によってかなりふるまいは異なるようだ。 なお、ゴイサギの中には幼鳥の星五位の姿も混じっている。

コサギ アオサギ
陣地取り・追って追い払われての繰り返し
ゴイサギ幼鳥・星五位 星五位とアオサギ

 このように、アシカプールはサギの天国となっている。動物園という場所の性格上、サギたちを無下に追い払ったり駆除したりということはできにくいだろうから、職員諸氏の苦労が偲ばれる。ペンギン舎で前面にテープ、上に網を厳重に張ってあるのはおそらくサギよけなのだろう。いつぞや、ペンギンを鑑賞していたカップルが餌泥棒に来ていたゴイサギの飛び去るのを目撃して、慌てて職員にペンギンが飛んで逃げたと告げに走ったという笑い話を聞いたことがある。
また、フラミンゴの飼育場ではよくゴイサギやコサギが餌箱に顔を突っ込んでいるのを見る。
 私のようにサギが好きで、わざわざ見に来ているような物好きはともかく、一般客から糞害などの苦情は寄せられているものと思う。バードケージ上にはアオサギが集団営巣していて著しく美観を損ねているし、いつなんどき彼らが追い払われても不思議ではない。
しかし、最近の動物園の運営主旨は、動物の繁殖と生態展示がテーマとなってきていることを考えると、このように都市の真ん中に野性の巨大な鳥がいることを奇貨としてそれらを取り込んだ形での運営は望めないものだろうか。もちろん、ここは彼らの本来の棲息場所ではないし、ここに彼らが群れていること自体生態系が歪められていることの証左であろう。そのことを念頭に置いた上で、いまこの時の都市鳥としてのサギたちとの邂逅を寿ぎたいと思う。

撮影日 2000.12.24

■ 天王寺動物園  飼育鳥


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