時代小説華やかなりし頃、司馬遼太郎の直木賞受賞作であり、忍者ブームの火付け役ともなった小説を原作に持つ。
粗筋は、文禄慶長の役のさなか太閤秀吉の命を狙う忍者のお話。
邦画としては大きな予算が組まれ、CG等の試みもなされた意欲作にして、篠田監督のカラーもよく出た、桃山文化の豪奢な香りを垣間見せてくれる美術も秀逸な一作。
信長による天正伊賀焼き討ちから説き起こし、時移り秀吉の治世、生き残りの伊賀者・葛籠重蔵に太閤暗殺の仕事が舞い込む。
依頼者との仲介を果たす「くの一」、重蔵に従う伊賀忍びたち、伊賀を見限り前田玄以に仕える凄腕の忍び、重蔵の企みを阻止にかかる甲賀忍びの妖術使いなど世間の裏側で進行する動きと、ドメスティックな理由で政治を動かす太閤に振り回される表の世界を描き出す。数々の戦いの果て、太閤の寝所に忍んだ重蔵は彼を殺めず老耄の身を嘲り殴り倒して去る。忍者たちの運命はそれぞれに別れ、世の推移も耳に入らぬげに仏を彫る重蔵のシーンで終わる。
ロケ地
・信長の軍に襲われる伊賀の里、子供たちを穴に隠す林、下鴨神社糺の森池跡。蹂躙される家並みはみろくの里(鬼平劇場版の宿場と同)。
・鶴丸の早世に惑乱した太閤が髻を切る東福寺、相国寺(庫裏、渡廊、方丈)。
・諸侯を集め朝鮮出兵を発令の聚楽第、二条城二の丸御殿(唐門、車寄。内部はセット、格天井まできちんと作られた金ぴかなしつらい)。名護屋城はCG。
・秀吉暗殺の話を持ち掛けに御斉峠に隠棲する重蔵を訪ねる「師匠」下柘植次郎兵衛、そこからは魔物の棲む地と樵に止められる峡谷(木津の岩倉峡設定か)、宇陀川(大野寺前、磨崖仏の方へ渡渉)。遡る滝、赤目か。岩がちの谷、不明(鍋倉渓?)。
・重蔵の庵、延暦寺椿堂(屋根等はカモフラしてある模様)。
・油坂に宿をとる重蔵、大仏の首が落っこちている「大仏殿」裏はみろくの里セット、実際の東大寺大仏殿裏手とこの上なく雰囲気が似ていてマル。その後小萩が駆け去る東大寺塔頭には仁和寺経蔵と中門(二王門望む)を使用。
・堺入りの重蔵、今井宗久屋敷は慈光院山門と茶室。
・京洛、五条河原の怪しの芸人小屋は錦帯橋(橋下に小屋をセット)。
・先発して京入りの黒阿弥たちが太閤の権威を失墜させるべく盗みに入る貴顕の屋敷、彦根城二の丸。
・下呂正兵衛を追う京洛のくだり、三条大橋のミクロにはみろくの里(どら平太や御法度で使用のあの橋)、知恩院三門と男坂、清凉寺山門(本堂がのぞく)、妙心寺大通院裏路地。
・京都奉行所(奉行は前田玄以)、大覚寺明智門(明智陣屋など中も映る)。
・下呂(元伊賀衆・風間五平)の誘い文に従い聚楽第に忍び込む重蔵、二条城北大手門、池泉は不明(仁和寺か天龍寺か)、西本願寺唐門、二条城二の丸黒書院破風(見回りの衛士がゆく背後)。
・その夜の聚楽第失火の咎で磔となる門番たち、河原は不明・群集がたかる三条大橋は宇治橋。
・雲兵衛とお茶する重蔵、今宮神社門前茶屋・かざりや。
・今井宗久屋敷に阿片中毒の小萩を見る重蔵、前景に広沢池北辺の民家。
・五条大橋下で芸をする伊賀者の木さるが回想する五平(下呂)との思い出のトレーニングの鎮守、鳥居本八幡宮鳥居下。
・木さるが五平に呼び出される寺(清水あたり)、妙心寺仏殿(バックに朱の三門)。
・太閤も出陣の名護屋城、家康を招き「天麩羅」を食う天守下、大坂城天守下。
・宗久暗殺の屋敷、慈光院(茶室、縁先、大刈込)。
・大坂入りの重蔵が見渡す野、CG(足もとは若草山か)。
・太閤が吉野花見のあと立ち寄る高野山、そこで暗殺をし損ねた重蔵主従が別れたあと、黒阿弥らが摩利支天洞玄に惨殺される宮、伏見稲荷千本鳥居外。木さるが刺されるシーンは千本鳥居真下。この際下呂の襲撃を受け毒にやられ逃げる重蔵、大覚寺有栖川河床。
・淀君懐妊により変わる情勢、今井屋敷に身を休める重蔵を口封じの刺客が襲い小萩と二人逃げるやしろ、日吉大社東本宮。
・太閤暗殺のため伏見入りの重蔵、伏見城に姫路城天守。下呂が重蔵を待ち構え張り込む、伏見稲荷本殿脇石段。伏見城の石垣を登る重蔵、姫路城天守。五平とバトルのすえ落ちる濠、彦根城佐和口多門櫓下内濠。警備兵に追われるシーンに玄宮園鉄山橋。逃れる重蔵、彦根城内濠蓮田付近、および姫路城備前丸からの天守ビュー。
・「石川五右衛門」三条河原で処刑のシーンは前回同様宇治橋(下流側から見上げ、遠景に中州舳先など映る。刑場のある河原と合成)。
・ラスト、重蔵の御斉峠寓居、酵素民家セット。
*参考文献
「映画美術とは何か 美術監督・西岡善信と巨匠たちとの仕事」 山口猛編 2000年・平凡社刊
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