1970/4/6−1970/6/29 フジ/松竹 4,5
その壱 「大江戸初乗り込み」
非業に憤死した長崎商人の父の仇を討つべく、二十年を経て遺児が江戸にやって来る。一族悉く連座し屠られたなか、丸山遊女に産ませた隠し子一人難を逃れ、当代の人気役者・中村雪之丞となって憎い仇の元長崎奉行に迫らんとする。
その仇、いまは隠居の身の土部三斉は、掌中の珠の娘を大奥に上げて世を牛耳ろうとする野望の爪を研いでいた。
ロケ地
・対馬守の娘で将軍の子を懐妊中の中掾Eお道の方が襲われる墓地、西教寺(本堂大屋根、墓地、石段)。
・お道の方を保護した闇太郎が対馬守邸で口封じに消されかかりチャンバラの路地、相国寺大光明寺南塀際。
*丸山明宏の舞台もたっぷりと見せる、濃い作品。雪之丞と闇太郎は二役、仇の三斉には金田龍之介、雪之丞に迫る巾着切りのあばずれに吉行和子とコテコテ。要素てんこ盛りのお話にも破綻ない脚本が見事な、「五社英雄アワー」。松浦屋一族の悲劇を綴る、横尾忠則のサイケデリックなイラストも見もの。
その弐 「闇太郎ざんげ」
お道の方は陰謀に落ち、土部の野望の第一歩となる、娘・浪路の大奥入り手前までを描く。
小六を葬る太夫、幽霊仕立てで恐怖させ自滅に追い込む手口。お道の方を陵辱させた三人組を密殺したばかりの小六にはテキメン。実は役人だった服部、闇太郎の過去などお話に肉がついてゆく。お初は無闇に元気なまま。
ロケ地
・暗くしかも部分しか映らないので確定困難。高飛び三人組の前に立ちはだかる闇太郎、大沢池堤か。闇太郎の操る船で橋場の船小屋へ向う太夫、大沢池か(あんまり水キレイじゃなさそう)。
*服部に夏八木勲、目付方。
その参 「竜神が陸に上った」
太夫の仇の一人が判明する。その男を別口で付け狙う父娘、その父はまた、太夫にとって証言者となる男であった。
芸人に身をやつしている父娘が回船問屋・南里屋に仕掛け、太夫は最初の襲撃に居合わせ関わってゆく。父のほうは唐人で片腕、南里屋が土部に隠れて行っていた抜け荷に関わり消されかけた男だった。タイトルは土部の奉納額に仕掛けられた判じ物を見て慄いた南里屋が呟いた言葉。
ロケ地
・酔っ払い浪人が血祭りに上げられる小松橋、不明(木の土橋)。
・土部が浪路の方に男児祈願の額を奉納の山王社、下鴨神社(楼門、参道白州)。
・「竜」が送られた小伝馬町牢屋敷、随心院(薬医門、長屋門、塀等各所)。
その四 「はぐれ唐人」
牢屋敷から「唐人」喜楽斎を連れ出す雪之丞たち、しかしお初の余計な手出しで南里屋に奪い去られてしまう。そして悪人同士のトラブルのなか喜楽斎親子は命を落し、父の無実を証明する割符は焼損、度を失う太夫の段で「続く」。
ロケ地
・小伝馬町牢屋敷、随心院各所。
・山王社、下鴨神社楼門。
・闇太郎を助けに入った小蝶が門倉の槍を受ける、罧原堤下汀か。
その五 「芙蓉屋敷の女」
浪路の方を推挙してもらうため、大奥の老女たちに金をばらまきにかかる土部。資金は芙蓉屋敷と呼ばれる怪しげな「高級」悪所から吸い上げ、同時にライバルのお万の方の資金源を断つべく富商を暗殺の挙に出る。これにからんで罪を着せられる犬殺しの父、怒った闇太郎は土部から千両を盗みとるのだった。この過程で太夫の仇の一人・北町奉行が判明。
ロケ地
・土部邸、大覚寺大門(御殿川手すり越し)。
・溜りで犬殺しの源助から富商殺しは門倉と聞く闇太郎、木津川流れ橋付近の堤と派流か。
・太夫が身投げの芝居で芙蓉屋敷を切り盛りする女に近付く、中ノ島橋。
・芙蓉屋敷で太夫に言い寄る男を散らす北町奉行、相国寺渡廊。
・源助を罪に落とすための口書をとられた松吉が闇太郎の生い立ちを聞いて改心の堂、大覚寺五社明神舞殿。
その六 「夕顔心中」
土部の妹である北町奉行の奥方を煽る「夕顔」に化けた雪之丞、夫に見返られたと逆上する女の行動を利用し敵方の混乱をはかる。奉行が保身のため作った、長崎以来の悪行が記された書付の存在を知った土部は、奉行を抹殺にかかる。奥方と相討ちになった奉行、最後は太夫が見せる「父の怨霊」におののき水に落ちて一巻の終わり。
ロケ地
・溜りを襲う町方、木津川か。
・奉行の役宅から帰る「夕顔」の駕籠を呼び止めるお初、今宮神社石橋、境内。
・奉行役宅、奥方に夕顔の亭主と偽り妾宅の場所を告げる破戒僧、相国寺林光院(玄関、中仕切り通用門)。
・奉行が夕顔を囲い書付を隠す妾宅、嵐山公園中州の料亭、堀端も堀も使用、映り込む橋は渡月小橋か。
・奉行に斬られた奥方が門倉を呼び、駆けつけるのを阻止する闇太郎、相国寺方丈塀際。
*目付方の服部が太夫の動きに気付く挿話あり。
その七 「札差しの罠」
太夫があくどい札差の計略に落ち、殺人犯に仕立てられ土部殺しを強要される。闇太郎の奔走で無実と判明、そして土部邸から盗ってくるよう言われたブツはなんと太夫の父を罪に落とした「証拠」で、札差は仇の一人と知れる。太夫を陥れる道具にされ殺された遊び人のエピソードにも尺がとられている。
ロケ地
・遊び人を使嗾した地回りが門倉に闇太郎殺しを依頼するくだり、大覚寺護摩堂前。
その八 「三番倉の鍵」
千石屋の言うなりになる「お芝居」を続ける雪之丞、検校に奇策を耳打ちして米の買占めから手を引かせ千石屋を窮地に追い込む。土部からも見放され、折りしも打ち毀しの衆が千石屋を襲い、彼は狂乱の態で検校の座敷に斬り込むことになる。この期におよんで太夫を脅しつけ検校殺しのアリバイを証言させようとはかる千石屋、冷たく放り出された先には、手形詐欺をはたらいて乗っ取ろうとした黒羽藩の家士たちがいた。
門倉の讒言で太夫を兄の仇と狙うお千代、藩重役に陥れられ追われる身となった若侍、二人ながら闇太郎と太夫の助けで逃がされ、希望に満ちた顔で江戸を去る姿が描かれ幕。このエピソードはいかにも70年代初頭の匂いぷんぷん、菜の花畑を跳ぶようにゆく二人の画がいかにもそれっぽい。
ロケ地
・太夫が千石屋にハメられた現場、相国寺鐘楼まわりっぽいが井戸はじめ確定要素見当たらず。
・黒羽藩士たちが上役の命令で結城を消そうと斬りかかる野道、北嵯峨農地。
・女郎屋を抜け出したお千代が復讐のため太夫のもとへ走る夜の橋、渡月橋。
その九 「紫の囮」
雪之丞の身辺に手が伸びる。
土部三斉の放った異国の忍びは太夫の父の遺書入り守袋を狙うが、これは闇太郎がそらし利用して敵の懐へ。そこでは、二十年前松浦屋をハメた鉄砲密売が今も行われていた。今回は琉球忍びの青ハブがらみで、彼らを親兄弟の仇と狙う琉球女が登場。その痛ましさに同情した太夫は彼女の恋を助けるが、忍びの正体が明らかとなり、あまりの結果に立ちすくむのだった。
ロケ地
・今戸河原そばの拳法指南・摩文仁松濤邸、走田神社社務所。
・松濤が弟子で仇持ちの宇那に迫る今戸河原、河畔にヨシ原ある砂河原で堤に疎林…木津川か。
・闇太郎とやりあう琉球忍び・卍、下鴨神社河合社裏手林間。
・その後逃げ込む、小梅の鉄泉の公儀御用鋳物工場がある里、不明。
・浪路に呼び出された雪之丞が送ってゆく道、不粋にも兵馬出て勝負を迫る、相国寺方丈塀際。
*松濤に伊丹十三、正体は宇那の仇一味と知れる。劇中忍びの演技をしている卍は宍戸大全。
その十 「琉球哀歌」
前回に引き続き、宇那の恋と松濤の苦悩を描く。
鉄泉はいよいよ鉄砲を搬入にかかり、闇太郎がこれに迫る。松濤は宇那を裏切れなくて命令に背き、遂に実は父だった鉄泉を討ち取るが、己の苦悩のおおもとであり父を狂わせた土部を仇として戦おうとした矢先、兵馬に撃たれてしまう。宇那の嘆きを見て涙する雪之丞に、闇太郎は三斉を討つ行為には多くの人の思いが込められていると声をかけるのだった。
ロケ地
・鉄泉が寺僧をたばかり鉄砲を搬入する「山寺」、宇治興聖寺(参道から竜宮門を見るアングル)。
・松濤の道場と今戸河原、鉄泉の工房がある里は前回と同じ。
*伊丹十三、苦悩の果て恋に散る琉球忍者を熱演。宿命と人間性と血縁にがんじがらめとなり懊悩する男を、眉間に縦皺寄せてハムレットのごとく演じるのは見もの。
その十一 「呪いの観音」
南町奉行にスポットが当たる。もちろんこれも仇の一人。
まず彼の娘がむごたらしく殺され、彼を過去の経緯で強請る浪人者も現れ、謎が深まる。一座の小道具担当の老爺まで「長崎関係者」と知れ、浪路は雪さまに思いを募らせた挙句お家に放火して逃走、事態は急速に動き出す。
ロケ地
・お初とムク犬が奉行の娘の死体を見つける伝通院裏の大欅、下鴨神社糺の森・河合社裏。
・元長崎奉行所与力の石子浪人が襲撃される汀、沢ノ池東岸。
・石子の使いで人形町の水天宮へ奉行からの金を取りに行く太夫、今宮神社合祀摂社。
・奉行・横山右京邸、相国寺林光院。
・屋敷に放火して逃げる浪路、随心院長屋門前。
*タイトルは小道具方の老爺(土部に松浦屋から二万両盗るよう強要された、長崎奉行に捕まった盗賊)が彫る、贖罪の仏。
その十二 「浪路さすらい」
ひたすら雪之丞を求める浪路、その行く手に次々と立ち現れる妨害者たち。
激しい憎悪たぎるなか、浪路は雪さまの正体を知らされ、また我が手を血でぬらしたことに動揺し、放心して彷徨うのだった。
ロケ地
・屋敷を出た浪路が雪之丞のもとへ走る夜道、大覚寺大沢池畔(木戸越し・南望)。石子を見て踵を返し駕籠を拾うのは有栖川畔(御殿川畔から東望のアングル、築地映り込み)。浪路の物慣れぬ態度に良からぬことを思い付く駕籠かき、連れ込みのお堂不明(護摩堂や五社明神舞殿と蟇股一致せず)。
・フラれちまったと自嘲のお初、大覚寺大沢池木戸前(このとき目撃された闇太郎が走る小屋根はセット)。
・乳母宅から浪路を連れ出したお初、荒れ屋敷前で駕籠を返す、下鴨神社河合社裏手。
・座敷牢から逃げ出した浪路、南町奉行とばったり出くわす、黒谷墓地。甘言に乗せられ屋敷へ伴われる浪路、二人を乳母の孫が見るのは極楽橋。
・雪之丞の正体を聞かされてしまった浪路が渡る橋、木津川流れ橋(橋脚の半ばまで水が来ている)。
・浪路を探し呼ばわる雪之丞、木津堤。
*雪之丞と浪路の絆を見たお初、今まで演じてきた蓮っ葉な強がりが縁取りとなって哀切極まりなし。吉行和子の演技はもちろん上々、泣きながら浪路を叩く姿が美しい。
*明かされる佐平の過去、焼印の謎…長崎の松浦屋の蔵から持ってきたのかアレは。
その十三 「仇討ち雨情」
遂にラスボスが斃れる、その最期のあがきを描く。
前回放心状態で彷徨っていた浪路は、倒れ伏しているところを旅の女に助けられ、闇太郎に保護されるが命数尽きており雪之丞に看取られて逝く。
三斉は娘の死を見て激怒するが、この切所に至っても見苦しく保身をはかり、このさまを見て絶望した兵馬に斬られる運びとなる。そして土部に賭けていた兵馬は前途を失い、ずっと雪之丞に抱いてきた反発心を露わにし斬りかかってくるのだった。
ロケ地
・旅の女が橋下に倒れている浪路を見る、流れ橋(梯子をセットしてある)。
・保身のため仰々しく浪路の葬儀を執り行う三斉、出席せず墓地で酒をくらう門倉、黒谷墓地石段脇(遠景に御影堂の甍)。
・功名心に駆られ雪之丞に斬りかかる水城浪人、相国寺法堂脇回廊。兵馬から聞いたネタをどこかに売り込もうとした水城が兵馬に斬られる、湯屋前・大光明寺南塀際。
*最終回にいきなり出てくる新キャラの「旅の女」、父の仇を追う娘で、水城浪人は許婚者。狙う仇は門倉兵馬で、水城も殺された彼女は二人の仇を討つと激する。その娘に、仇討ちの空しさを説く雪之丞というオチへ持ってゆく、心にくいつくり。
*土部三斉の最期、やはりこうでなくては金田龍之介を使った意味があるまいという熱演。もうどんな保身も無駄、お上には残らず悪行が知れていると嘯く雪之丞の言辞に惑わされた三斉、焦り出してわたわたと財宝を掻き集めにかかり、お前も手伝えと言われた兵馬「そんな御前は見たくない、俺は荷造り人夫ではない」と激怒、ワルとしてのガッツが無いと喚き散らす。これを宥めるのにワインを出す三斉、これが毒だからたまらない、もうほとんど阿部怪異。兵馬に斬られる際はお宝の壺抱いて頓死。いろんな悪役俳優さんいるけど、最後の悪あがきの見苦しさでは金田氏の右に出る者はいないと思う。
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