1992.5.23京都映画 五社英雄監督作品
近松の世話物を美麗そのものの映像で見せる一作。
殺しに至る動機をうまく脚色したシナリオも秀逸。
お吉と与兵衛の密通が主軸となるゆえ、放蕩息子が女郎を追っかけて野崎参りの徳庵堤で騒動を起こすくだりや、河内屋でのDVなどは省かれている。
性悪な小菊に入れあげる与兵衛を見ているうち、身の裡に魔性の火を灯すお吉の変化が丁寧に描かれ、かたや与兵衛の人格は一貫して変わらないあたりも見もの。
そしてなんといってもクライマックスの殺し、豊島屋の土間に油をぶちまけてのからみはほぼスローモーションで、ぬたぬたぴちゃぴちゃの油の音と樽をひっくり返す音が利いている。無論油の質感が伝わってくるカメラワークが素晴らしいことは言を俟たない。冒頭に検屍シーンを持ってきてあるのと、死んだお吉の手に虚空蔵さんのお守りが握られている演出で結果が語り尽くされているので、茫然と立つ与兵衛で終わるのも余韻を残してよい感じ。
ロケ地
- バレて引き離されたあと小倉屋から小菊をさらって逃げる与兵衛、追っ手の男衆をふりほどき乗る船、八幡堀明治橋下堀端。
- 土砂降りの中を逃げたため濡れた衣を絞り干す二人、西の湖畔。
- 小菊を持て余したすえお吉を呼ぶくだり、男衆に連れ帰られる小菊が船に乗る川端、嵐峡左岸(嵐亭あたりにある建物はセットか合成か、暗くて判別し難い)。
- 小菊の嫁入りのくだりの堀端、群衆の橋は八幡掘白雲橋でバックで花火が上がる演出、堀端に紅白飾りの桟橋がセットされている。
- 油搾めの追い回しをしている与兵衛を呼び出す、大家の御寮はんとなった小菊、西の湖水郷。
- 小菊の嫌味により火がついたお吉が、名を騙って与兵衛を呼び出す船宿も西の湖畔。
- お吉に狂った与兵衛が傍目も気にせず迫る釈迦誕生会の花供養が行われている寺、神光院本堂前(見返りのシーンで蓬月庵が映り込む)。お吉になんで避けると迫るシーンは蔵の前。とりあわないお吉に焦れて無理やり手を取って登る石段、西教寺御廟への石段にスイッチ、駆け落ちを迫る墓地、本堂大屋根をバックに(湖面は映らず)。
- お吉の亭主に斬りかかられ、全て自分のせいにされていることに茫然と佇む与兵衛、西の湖畔。
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