池広一夫監督作品 1961.6.14大映
キャスト
時次郎/市川雷蔵 おきぬ/新珠三千代 おろく(旅籠女将)/杉村春子 八丁畷徳兵衛/志村喬
三蔵/島田竜三 助五郎/須賀不二男
渡世の義理から斬りつけた男の妻子を親身に世話する時次郎、しかし女はもともと彼女を狙っていた親分の魔手から逃れ得ず儚く散る。遺児は時次郎により祖父のもとへ届けられるが、この過程が丁寧に描かれ、殺陣あり人情ありの見せ場たっぷりのドラマが、宮川一夫の美しい映像で綴られる。
時次郎が母子を世話するに至るきっかけは、亭主とやりあったこと。でも立会いは形ばかりで、どころか身に迫る危険を知らせ逃亡の手助けまでして、三蔵が卑怯なやり口で殺された場には駆けつけ、助五郎一家と事を構えたりする人情家の時次郎。
はじめ亭主の仇と時次郎を憎むおきぬも、じきに彼の真情にほだされ、子もなつく。
おきぬが身重と知った時次郎は、彼女の実家を訪ねて和解を勧めるが頑固親爺に一蹴され、母子を引き受けると心に決める。このくだり、奇妙な因果とちょっと困惑の雷蔵の表情や、時次郎が怒って出てったあと「孫に罪はない」などと思い直し、外に走り出て「旅のおひとぉ〜」と呼ばわるじいさまが笑いと涙を誘うつくり。
おきぬの出産費用を捻出しようと博打こいて失敗し、反省して堅気になろうと思いつく時次郎も泣き笑いドラマ。そうこうするうち、彼らを保護してくれた宿の女将から、同じく彼らを庇護してくれた八丁徳親分(コレが志村喬)の助っ人にと話が来る。再び刀をとることに葛藤したあと、時次郎は助五郎とつながる聖天一家との闘いに出てゆくが、その間卑怯にも旅籠が襲撃され、おきぬは抵抗の果て命を落とすことになる。
おきぬの亡骸を前に悲嘆にくれる時次郎が尺をとって描かれたあと、見せ場のチャンバラ。
つくりは凝っていて、狭い路地や室内での戦闘があるかと思えば、馬小屋にいきなり火つけちゃったりする時次郎。火見て驚き嘶く馬、敵を足蹴にして殺す武器になったり。助五郎の腕をぼっとりと斬りおとすスプラッタシーンもあり。
多対一の無茶な立ち回りを堪能したあとは、人情話。
おきぬの子を生家に届けるくだり、先に時次郎を帰して後悔していたじいさまばあさまは娘の死を聞かされてもうメロメロ、太郎吉を置いて去る時次郎、その背に子の呼び声がかけられるシェーンみたいな場面。ここが泣きどころで、はじめ「行かないでくれよぅおじちゃん」と掻きくどく叫びは、ついに「おとっちゃん」に変化。その声がぐっさぐさに心臓に来る時次郎、涙隠して去る野道がラストシーン。ここにほんわかした演歌が被さる。
ロケ地
・冒頭の橋、不明(天井川の模様)。
・六ツ田の三蔵が溜田の助五郎に斬られる宮、大覚寺五社明神。
・熊谷宿はずれ、八丁徳一家と聖天一家の大出入りが行われる天神ノ森、鳥居本八幡宮(ちらっと映り込む周囲の様相が、ほとんどなんにも無い野っ原)。
・道中風景、ほぼ不明。
・おきぬの実家の足利在の農家、萱葺民家の前は見事な棚田、仰木地区かとも思われるが確信なし、山の形は湖北っぽくもある。
*美しい画面。冒頭の早暁の橋など、つよく記憶に残る印象的な風景が連続する。棚田や早苗に降る驟雨なども良し、演歌が被るのも妙によく合う。*堅気になって稼ぐシチュエーション、きぬと門付のシーンあって雷蔵が喉を披露。
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