銭形平次
  322〜347話

西壽寺キャスト
銭形平次/大川橋蔵
お静/香山美子 八五郎/林家珍平
おゆき/永野裕紀子 お勝/武田禎子
為吉/神戸瓢介
万七/遠藤辰雄 清吉/池信一
樋口一平/永田光男

→ 銭形平次 表紙


第322話「美女えらび」1972.7.5 25

 美人コンテストばなし。栄誉に血道を上げる娘たちの陰で、己の利得を求める男あり、不器用な純愛の果て破滅に至る男ありと思惑が交錯し、血腥い経緯は町雀たちの覗き趣味を満たす結果となる。

 ロケ地、コンテスト会場の「舞台」、新日吉神社舞殿。小花の野辺送り、金戒光明寺本堂脇。小花が埋葬される墓地、本堂裏手墓地
*審査の結果選ばれた女を殺す、次点の娘に入れあげる堅物の番頭に左右田一平、自刃しこときれる際に妙に冷静に語るあたりがどこか「裏通り先生」じみている。銭平的には、彼を慕っていた、自分を卑下する下女にスポットが当り、それでも前向きな人間を評価する筋立て。


第323話「その名は呼べない」1972.7.12 37

 グレた青年・美代吉は、親身に世話を見ていた老いた夜鷹の死後誘拐事件を引き起こす。平次の読んだ通り身代金目的でないその挙の裏には、出生にまつわる悲しい経緯があった。

 ロケ地、美代吉と仲間がヤクザと喧嘩の神社、不明(参道は曲折した石段、上がって鳥居の一件は319話と同じ)。夜鷹・お富の墓、くろ谷か。美代吉の手下が欲をかいて身代金を持ってくるよう指定する神社は今宮神社、江島屋が待つのは本殿前、張り込みに気付いて逃げる一味を追って平次らが走り出るくだりでは楼門を外から。さらった江島屋の娘を船に乗せ、手下を突き放し去ってしまう美代吉、嵐峡船着き(神田川左衛門河岸)。娘を隠している養親が経営する深川の船宿は嵐山公園中州掘割端、塀や祠をあしらい(表や室内はセット、女将に話を聞いて出てきた平次が裏口で八と話す段がここ)
*美代吉に舟木一夫、世を拗ねた不良青年なので終始目つきの悪い仏頂面。*タイトルは、実母を捜し当てるも心情を汲み、決して口にしなかった「おっ母さん」の一言。誘拐された「妹」の言を受け、お縄にせず去る親分も泣かせる。


第324話「おゆきの初恋」1972.7.19 37

 長崎屋への度重なるいたずらは耳目を集め、主夫婦が店を乗っ取った経緯を暴きだす。「いたずら」の主体は先代の息子と親しかった友、この青年とおゆきの交流が織り交ぜられお話を締める。

 ロケ地、長崎屋の店先へ首吊り人形を仕込んだ男を追っかけるも、お稲荷さんで見失う八と清吉、今宮神社石橋。おゆきと忠太郎のデート、今宮神社稲荷社前。忠太郎を囮に、長崎屋を引っ掛けて誘き出す橋、中ノ島橋(橋の名は「しょうかんばし」と劇中発音されているのを聞き取ったが、場所どころか字も不明/手持ちの切絵図をひとわたり見たが×、三味線掘にクサいのが一件・あとは将監橋の聞き違いとか)
*長崎屋は武藤英司、忠太郎は太田博之、長崎屋の使嗾を受けるアイパッチのちんぴらは有川正治。*忠太郎は腕のいい飾り職、おゆきにオルゴールを贈るほかイタズラもからくりで、先代に似せた首吊り人形は万七を大いにビビらせて大笑い、とれた腕にひぃひぃ喚く万七に平次がとんだ渡辺綱とやるのも心利いているが、茨木市役所前の橋跡にいま立っているお臍出した茨木童子像のユーモラスな姿を思いだすと噴いてしまう。


第325話「懸賞金百両」1972.7.26 37

 窩主買いの古着屋に唆され、難攻不落の蔵に挑む盗っ人夫婦。頓馬な経緯から万七に同情され、平次宅に預けられてひとくさり阿呆をやらかすが、蔵の主の阿漕な抜け荷商人の悪事を暴くきっかけを作る。

 ロケ地、渡海屋にハメられ欠所となった商家の倅が殺されて見つかる大川、罧原堤下河原
*お間抜け夫婦にオマエら泥棒は無理と叱る平次がおかしい。黒色火薬を火鉢にぶち込む無茶にはヒヤヒヤ。


第326話「妻恋飛脚」1972.8.2 25

 大金を運んでいた早飛脚が殺された事件、浮かび上がるのは養親の恩に報いようとグレた芝居で家を出た、弟に家を継がせようとする血のつながらぬ兄の情話。よくある筋立てに、うまく肉をつけた佳作。

 ロケ地、江戸屋の飛脚・長助が殺されて見つかる増上寺の森、不明(林の中の石畳の坂、塀下の崖、毘沙門堂に似る)。伝通院から頼まれた金無垢の仏を日光に運ぶ豊吉が通る浅草御門、相国寺境内路地に柵あしらい。豊吉がついてくる平次に気付き、賊と思い込み銃を構える小塚ッ原付近の街道、走田神社裏手(南東)の畦道/穴太橋続きの地道。平次と認識した直後、女に悪さをするならず者が出る「芝居」のくだりは走田神社鳥居(豊吉が撃たれ状箱の中身が石ころと判明する)。江戸屋の大旦那に仏は取り戻すと宣言してきたものの、五里夢中で考え込む帰り道の平次、相国寺鐘楼脇。
*養父母の恩に感謝し、心にも無い道楽者を演じ勘当された江戸屋の長兄に入川保則。彼の芝居でなった夫婦と拗ねる女房は生田悦子。博打の借金で悪事の片棒を担がされる「実子」の弟は柴田p彦で、悪党は穂積隆信。


第327話「素浪人名医」1972.8.9 25

 門地がないため奥医師見習いの選抜に漏れた男は、酒肆の居候で無為の日々を送る。彼は熱病の赤子を助けたことでとんだ罪に落とされかかるが、人となりを見通した親分の奔走で真の悪党は罰せられ、有能な正直者が日の目を見る痛快・爽快な一話。

 ロケ地、御典医・栄楽院順庵邸、永観堂智福院門。生薬問屋の番頭が殺されて見つかる水天宮、上賀茂神社ならの小川(背景に奈良社)。橋川浪人に父を恨んでいるかと問う順庵の娘、大覚寺護摩堂(去る橋川は放生池堤へ、娘は石仏の方へ、石仏の裏から平次が見ている趣向)。平次が橋川を牢から出し連れ帰る夜道、永観堂境内・遣水に架かる楓橋(奥の建物は画仙堂)
*橋川浪人に大山勝己、順庵の孫でもある亡き姉の子を守り育てるお千代に葉山葉子、橋川の呑み友達で赤子のため薬を盗みに行く元盗賊に砂塚秀夫。順庵は沢村宗之助、用人は穂高稔。


第328話「小りんざんげ」1972.8.16 37

 父浪人の死の経緯から十手持ちを憎む、安女郎の哀話。彼女が匿ってやった盗っ人は極悪人、そのため前途ある下ッ引が横死する事態に。そして再び現れた賊の手にかかる女、平次は虫の息の女の最後の望みを聞き届ける。

 ロケ地、下ッ引の鶴吉が飛脚姿の賊に返り討ちに遭う川端、明神川か。岡場所の女として死にたくないと願った小りんの願いを聞き、亡骸を抱いて町をゆく平次、豊国廟参道石段、参道鳥居。
*小りんは弓恵子、ご浪人の娘だった彼女と平次は古馴染み。昔売れっ子だった彼女の浮世絵が押入れから出てきて、半ばのろけ臭い夫婦のやり取りが伏線に。


第329話「大井川の拾い子」1972.8.23

 使い込み番頭と一味の奸計に落ち、両替商後家殺しの犯人にされかける男。底抜けにお人よしの掏摸が、お話を回し解決の鍵も握る。
*ロケなしセット撮り。掏摸は名コメディアン・茶川一郎。


第330話「沈黙の訴え」1972.8.30 37

 大盗だった父が凶賊に脅され遭う難儀、進行する盗みを止めて欲しくて、娘は町方の目を引く突飛なアクシデントを演出する。地道な捜査と怜悧な推測で事態を把握した平次は、娘の意を汲んで動く。

 ロケ地、新助がくらやみの猪之に殺される夜の神社、木島神社本殿前。騙されて留久にお経を上げにやって来た和尚の寺、不明(事情聴取のくだり)。「もぐらの平助」が遠島になったあと、お参りの娘・おさわに声を掛け励ます平次ファミリー、石座神社各所。
*質屋・留久の主で正体は往年の大盗の久兵ヱに加藤嘉、凶盗・くらやみの猪之は田口計で凶悪な山伏姿なんかもある。おさわは菊容子。


第331話「雷が殺した女」1972.9.6 37

 左前の回漕問屋が起死回生を期した金が狙われ、使いに出た主の姉は横死。この殺しを落雷によるものと擬装する一味だが、陰謀の首魁のもとに夜な夜な「雷で死んだ女」の亡霊が立ち現れ、平次親分が出張ることとなる。

 ロケ地、遠州屋主人の姉が使い先からの帰り襲われる神社境内、大覚寺五社明神。遠州屋姉弟の墓がある谷中清源寺で初七日に泣いていた娘のことを小坊主に聞き込む八、金戒光明寺本堂脇の仏像前。
*縊れて死んだ遠州屋の若旦那と祝言予定だった娘に江夏夕子、兄の遠州屋出入りの鳶に亀石征一郎(恩人の仇を討とうとする「善」側だが、態度はけっこう凶悪)。悪徳商人は潮万太郎で番頭は鮎川浩、用心棒に小林勝彦。


第332話「万七恋文騒動」1972.9.13 26

 平次がオーバードーズで死にかけた女を拾ったことから始まる事件。麻薬密売組織を追うも上の空の、恋に夢中の万七親分が意中の女から貰った文が、悪党の運の尽き。

 ロケ地、茶屋女のお浪を迎えて開かれる伝法院での風流会、不明(庭には池の中島に渡された石橋と方形の祠、橋は反った石橋・御室霊場等に似るもあまり京にはない様態)。風流会メンバーでお浪にしつこく言い寄っていた湯屋の主人が殺されて見つかる日本堤、不明(池堤際の草むら、万七が清吉に手柄を譲るとお浪の文をねぶねぶのシーンでは堤際に碑)。お浪に貰った文の指定場所・浜町河岸へ出かけて刺客に遭う万七、嵐峡船着き(危機に駆けつけた平次の背後に嵐亭の生垣)
*売人の元締だった幇間に多々良純、短筒を使う凶悪なワルだが親分の投銭が目にぐっさり。お浪は有吉ひとみ、恋人で罪に落とされかかる青年は清川新吾、お浪に嫌われ馬鹿をみる「売り子」は中田浩二。*万七がお浪に貰って有頂天になる問題の文、恋しい人を待ち合わせ場所に誘う文に見えるのか一体それがの色気の無い文面は「承知 明十六日 戌の下刻 浜町河岸で」、花札の二十坊主ぶった切った「割符」入ってるのがいっそう爆笑もの。


第333話「猫撫で地蔵」1972.9.20 26

 あたかも化け猫が喉を噛み破ったかのような変死体が続々、しかも現場は薄気味わるい場所という事件。町衆の揣摩臆測も呼ぶが、いつもの如く全く怪異を信じない平次は、人の心の襞に迫ってゆく。

 ロケ地、猟奇な死体が出る猫撫で地蔵、龍潭寺参道脇の崖。件の黒猫が出没する怪しの尼が棲む谷中の古松庵、不明(仕舞人や眠狂四郎円月殺法でも出た、向き合う狭間が見える門・ここでは門に至る参道や門から見返りのアングルも)
*夕心尼に北林早苗。


第334話「女房の証言」1972.9.27

 因業金貸しの婆さんが殺される事件、いつも通り闇雲に検挙の万七と違い怜悧に物事を見通す平次が描かれ、どうでも亭主を救いたい女房の情話をからめる。身内の証言は無効なことがモチーフ。
*ロケなしセット撮り。


第335話「おしのが帰って来た」1972.10.4 38

 貧ゆえ手放した娘を二十年経って引き取る、今は大商いの呉服屋。傅かれての暮らしに馴染まぬ娘と、彼女のいない日々に沈む養親の情話に、とんだ毒婦と情夫の算段がからんでくる。

 ロケ地、お百度を踏むおしのを見て八のいう幸福を疑う平次、仁和寺金堂(平次らは参道石畳)。丸屋を斬った浪人が派手に遊ぶ料亭、嵐山公園料亭・錦。そこへ踏み込んだ平次から逃れる浪人を見失うのは中ノ島橋(橋上に親分、八が見回るのは橋下の背割、浪人は橋桁にしがみつきやり過ごす)。浪人の黒幕は三浦屋と告げた子の話を聞き沈むおしの、仁和寺鐘楼裏手。おしのが養親の家へ行くのに乗る渡船、広沢池畔。裏山で芋掘り中の坊(黒幕チクリの、おしのの養家での「弟」)を問いただす平次、御室霊場(お堂とお堂の間の坂道)。坊は嘘をついたのだと平次に話すおしの、広沢池東岸(船着き)。今度は万七に三浦屋黒幕とチクった帰りの坊が浪人に襲われる道、御室霊場坂道。おしのに諭され本当の事を告白する坊、御室霊場・結願の寺前放生池石橋上。
*おしのは松原智恵子、丸屋の後妻とつるむ情夫の浪人は宮口二朗(投げ銭も真っ二つの達人、黒紋付の着流しが凶悪さを強調)。


第336話「平次対用心棒」1972.10.11 26

 事件は放蕩息子の衝動殺人。馬鹿息子を甘やかす両親が金にあかせて逃がす段で、切羽詰って幼い息子の治療費を求める浪人が出て、金を貰って逃避行をサポートするその「用心棒」との丁々発止がドラマとなる。

 ロケ地、八百万の芸妓たちが渡る橋、中ノ島橋(渡って店へ行くと逆上した馬鹿息子の殺しで阿鼻叫喚)。放蕩息子・金次郎を追う平次が屋形船がゆくのを見て逃避の手段に気付く川端、嵐峡(平次の背後に嵐亭)。嵐峡で船頭を脅し乗り込んだ金次郎と浪人・松永が船をおりる千住宿付近、罧原堤下汀。江戸へ三里の道標がある街道、若森廃橋たもと・松永が寝そべるのは本梅川堤法面の草叢。道を指示され勝手に行けと言われた金次郎が、離れた場所から松永に毒づくのは若森廃橋上。金次郎と別れた松永が子らに息子の面影を見る里、民家塀際。金次郎が宿場で平次を見て駆け戻り松永に縋るのも同所、写真左端の塀の端っこへ逃げて入り、保津峡落合崖道へスイッチ(設定は秩父へ抜ける川越街道の峠)、このあとの追いつ追われつは落合巌頭や崖で(平次と松永が揉み合いのすえ落ちる崖は特定できず)。秩父代官所に助勢を求めに行った八が、金次郎の親の伝手で出張ったヤクザに囲まれる道、藪田神社入口付近。
*金次郎は島田順司、徹頭徹尾残忍な癖に甘ちゃんな放蕩息子を好演・稚気溢れる嫌味さは「沖田総司」が時折見せる冷酷な一面とも通じ妙味。松永浪人は水原弘、懊悩するしかめっ面がなかなかに良く、立ち回りも見どころ。秩父宿のヤクザは藤尾純。*ラスト、松永浪人の仕儀に考え込む親分に長いめの尺。


第337話「浮草の女」1972.10.18 38

 己のために傷を負い、宮大工として駄目になった男に尽くす女の哀話。男が親方を殺したと思い罪を被り、男の嫌疑が晴れると会わずに姿を消す、安女郎にまで身を落とした柳橋芸者が涙もの、男の怪我が仕組まれた罠だったのがいっそう哀れ。

 ロケ地、宮大工棟梁が殺される前日、弥之助の復職を乞うため棟梁を待ち伏せたお千代、大名屋敷から帰りの棟梁が来る夜道は金戒光明寺東坂下、お千代が潜むのは極楽橋たもとの灯籠。事件解決後、棟梁の墓に参る弥之助と棟梁の娘、化野念仏寺(墓は石仏群陣外の新墓の脇に卒塔婆あしらい、旅装のお千代が墓参の二人を遠見して泉下の棟梁に弥之助をお返ししましたと呼びかけるのは石仏群内陣)
*お千代に藤間紫、色気・情味たっぷりにお芝居を支配。弥之助は和崎俊哉、棟梁は浜村純。弥之助を妬んだ男に使嗾されたちんぴらヤクザに平沢彰と白川浩二郎。


第338話「十年目の約束」1972.10.25 26

 八の幼馴染の娘が十年も待ち続けた男は、賊の一味と成り果て約束も忘れ果てていたが非情に徹しきれず、凶行をはたらく首領に逆らったことが救いとなる。

 ロケ地、八とお初と新八が再会を約した小椋神社、仰木の小椋神社(参道は坂で巨杉が生え、ランダムな石段を登った上に小祠が二基は若宮社か。このほか泉川に似た林の中の水景もある)。一味の潜む荒れ寺、龍潭寺(潜むお堂は庚申堂、ここを出入りする場面に山門や参道、参道脇の崖、鐘楼などが映り込む。参道脇には今はない萱葺きの建物が見られる)
*養家をしくじり盗っ人に堕ちた宮大工・新八に伊吹吾郎。


第339話「冥途の土産」1972.11.1 38

 散々家族を泣かせ不幸にした挙句盗みのかどで島流しになった男は、赦されたあと改心し額に汗して働くが、入墨者を引き受けてくれた恩人が殺されたことが堪忍ならず犯人を探す。しかし錠前破りの男を突き止め訪ねた家には、彼を恨む妹が女房として幸せに暮らしていた。

 ロケ地、清次郎の身代り申し出で逃がされた重吉が、女房を連れ江戸を出ようとしたところで仲間に囲まれる水辺、罧原堤下汀。清次郎の墓に額づく妹、不明。
*元盗賊の清次郎に天知茂、妹の亭主になっていた錠前破りに高橋長英。*タイトルは賊一味に刺され虫の息の清次郎の言葉、せめてもの贖罪に妹の亭主を救ったことが、彼のせいで苦しみの裡に逝った双親への「冥途の土産」。


第340話「中之郷地獄部屋」1972.11.8 26

 むごい死に様を晒した男をみとった親分は、最期の言葉からとんだタコ部屋を探り当てるが手の出ぬところ。平次の歯噛みを知った、更生した元ヤクザの大工は、ここが恩の返しどころと身籠った女房を置いて死地に入る。

 ロケ地、医師・玄石に頼み一味の悪徳医者の腹を探って貰った帰り、平次と玄石が襲われる夜道、相国寺方丈塀際・南西角(後段、悪徳医者の道庵が殺されて見つかるのも同所)。平次が酔漢を装って押し入る勘定吟味役・石堂邸、門は相国寺大光明寺で、石堂に掛け合う玄関は林光院式台玄関。石堂が視察にやって来る中之郷、おためごかしの労役芝居の浜は琵琶湖西岸(2mはある砂山が盛り上がり、河口州と思われる。砂浜の背後にはみっしりと林、遠景には三上山のほか高島の岬も映り込む)。事後、安産のお守りを授かりに行く平次ファミリー、先に由松夫婦が来ているお宮さん、不明(曲折した参道石段)
*由松に黒部進、潜入時にムチ振るってる姿もお似合い、平次に助け起こされ笑う表情も良し。正義派の勘定吟味役は稲葉義男、平次との掛け合いが見もの。下賜米目当ての悪徳商人は永井秀明、つるむ勘定方役人は柳生博、強面の用心棒・五味竜太郎、悪徳医師・天王寺虎之助もいい味。


第341話「男だけの詩」1972.11.15

 岡っ引殺しの凶賊と目された男の話、謎めいた展開のすえ涙の友情で決着する事件だが、当の男は命も危ぶまれる深傷で最後のほうまで眠ったままという、変わった作り。殺された岡っ引が捜査中に聞き取った男の名前が鍵となる。
*ロケなしセット撮り。卍組の片割れと目された男に前田吟、大半は寝姿だが目覚めたあとの僅かな尺で男の友情を熱く表現。愛憎の果て我が身を悔いる友人に東野孝彦。卍組構成員に西田良や国一太郎の顔が見え、岡っ引と共に殺されてしまう下ッ引は峰蘭太郎。


第342話「しのび逢い」1972.11.22 38

 獄中で患う男を思う女房とその弟は無慈悲な岡っ引を憎悪、万七の十手を盗む挙に出るが、これが思わぬ濡れ衣から弟を救うことになるのも、平次のはからい。
*ロケなしセット撮り。女房に赤座美代子、亭主のいる浅草溜へ日参し番太に頼む合図も哀れ、平次に食ってかかる表情も巧者。*万七に因果を含めるくだりが大笑い、清吉まで一緒になってやり込めてるし。


第343話「十手有情」1972.11.29 38

 無実の罪で囚われた男の身の証を立てようとする平次、しかしそれは世話になった同心の扱った事件で、ホンボシが上がればダンナは窮地に陥ること必至なのだった。

 ロケ地、囚われた太助の恋人・おせんが襲われ殺されかける夜の堀端、嵐山公園中州堀端(南岸、おせん川落ち)。太助の友人の植木職人に話を聞きに行く仕事場の庭、不明。平次が聞き込みに回る鎌倉河岸、嵐山公園中州堀端(昼間)
*同心との葛藤がお話の中心だが、事件の謎解き部分も土地乗っ取りのからくりや、身近に殺し屋がいたりと細かく作り込まれ、ラス立ちで二つの柱がきれいに合わさる佳品。*同心は山形勲、その娘に土田早苗。


第344話「人情豆狸横丁」1972.12.6 27

 大坂者が寄って住む長屋で繰り広げられる泣き笑い人情劇。大橋架け替えがらみの汚い手管に巻き込まれ殺されたアニさんの仇を討ちにゆく遊び人、親分も「仕掛け」に潜んで同行。

 ロケ地、擬装心中が見つかる寺へ駆けつける平次、西壽寺石段。検分は本堂西側の龕の前・崖に羊歯がみっしり。大橋架け替えの普請場、流れ橋(橋桁は完全に落ちて河原に転がっている)。昼日中から釣りの棟梁に架橋工事にまつわる不正の噂を聞く平次、不明(池端、後ろはちょっと崖ぎみで汀に丸太組みの足場)。嗅ぎ回る平次を襲う用心棒のくだり、平次が降りてくる坂は西壽寺墓地のアプローチ、立ち回りは鐘楼脇〜石段。兄の遺骨を抱いて発つ喜三郎夫婦を見送る平次、北嵯峨農地・竹林際の道。
*博打狂いの喜ぃやんに山城新伍、悪党に消される天満屋主従にいとしこいし、聖天の大五郎は山岡徹也で用心棒は千葉敏郎、長屋の按摩に古川ロック。兄の仇討ちと勇ましく襷がけ、女房と涙の別れをして出てゆく喜三郎は棺桶を背負い出てゆく。これと途中で親分がばったり、おきまりの仕込みに。早桶背負っての夜道でも河内音頭、赤子のお守りも河内音頭、他でもよく見る過剰演出、長屋衆が捕り方に代わって大挙押しかけてくるからまたアレ。


第345話「残侠流転」1972.12.13 27

 13年前の捕物の際、若き平次を見込んで投降した侠客の哀話。つとめを終え八丈から戻った老侠は平次の世話で働きはじめるが、そこには20年前捨てた倅がいた。

 ロケ地、彦七を乗せた御赦免船が着く金杉橋の船番所、琵琶湖西岸・浮御堂境内(岸壁の手前に柵と同心詰所をあしらい、受人としてやって来た平次と話すくだりでは湖に張り出したお堂の向拝がちらっと映り込んでいて、汀には水草が密生)。彦七が勤めはじめた大富の棟梁の娘と大工の新吉がヤクザにからまれる橋、日吉大社走井橋(通りかかり騒ぎを見かける彦七は大宮橋)。大富の木場、不明。
*彦七に島田正吾、言わずと知れた新国劇の重鎮が演じる老侠は見事のひとこと、このお話では渋い役まわり。倅を庇って瀕死の彦七、元女房が息子に父であることを告げようとしたのを制し首を振る、その仕草に思わず「大島田ッ!」、もちろん殺陣も見もの。江戸っ子の棟梁を演じる高品格も良し、腕の筋肉がいかつくボクサー風味。島田正吾と相討ちになる用心棒の宮城幸生もいい味。*事件は寛永寺修復工事を食いものにしようとする悪党がらみ、狙われた棟梁の娘が彦七の倅といい仲という趣向、父と知らず彦七を気遣う青年が泣かせる。


第346話「悪徳同心」1972.12.20 27

 押し借り強請り賭場荒らし、誰もが眉をひそめる悪徳同心の「実はね」情話。折しも起った押し込みに関与、と上司に疑われ遂に牢にぶち込まれ自裁を勧められるに至るが、平次は事態の推移を注意深く見ていた。

 ロケ地、上司の叱責を受け謹慎を食らった同心・伊吹半兵ヱが出てくる奉行所、大覚寺大門参道石橋。両替商・周防屋へ押し込んだ賊が潜む船小屋、下鴨神社泉川畔にセット。そこへ案内されてやって来る平次が渡る橋、泉川を渡り境外へ出る石橋。盗賊仲間を斬った浪人が「黒幕」に斬られる神社、大覚寺五社明神(足もとしか映らない黒幕は本殿の中、駆けつける平次は有栖川畔)。周防屋へ潜入させていた女の墓に参り詫びる半兵ヱ、化野念仏寺
*半兵ヱに小池朝雄、目つきも口元も力いっぱいの悪相で熱演。捜査のための悪行が祟ってのお役御免も甘んじて受け、女の墓で涙の懺悔のシーンでは「清々しい」はずなのに悪相が残ってて笑える。*平次と心を合わせ半兵ヱ旦那の始末を擬装する樋口さまもいい感じ。


第347話「八丈追分節」1972.12.27 38

 八丈帰りの岩吉は、自分が島へ送られたあと残された家族になされた仕打ちを知り、復讐をはじめる。正義をふりかざし弱者をいたぶった三年前の無惨が浮き彫りになるほか、岩吉の感情を操り己が利をはかる者もいる、重苦しい話。

 ロケ地、呑んだ帰りのは組の衆が兄貴分と別れる夜道、大覚寺五社明神。一人不忍池端をゆく紋次が岩吉に突っかかられ殺されるのは護摩堂(紋次の通夜から帰る越後屋の番頭が殺されるのも同所、通りかかり「追分」を聞く清吉は大沢池畔)。行くあてなくお堂に寄りかかり追分を口ずさむ岩吉、上賀茂神社奈良社。岡場所にいる妹のところへ現れる岩吉、二人話すのはならの小川畔。
*岩吉は南原宏治、紋次は丘路千で番頭は坂口徹、岩吉を使嗾した山崎屋の甥に中田博久、とんぼ切っての大立ち回りは吹き替え?*岩吉の家族を八分にした長屋衆に、親分の辛口お説教。


→銭形平次 表紙

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