松田定次監督作品 1961.10.14東映
新選組副長・土方歳三の恋を描く異色作。時流や新選組内部の話は、土方の置かれている状況を表すために挿まれる。
三度の出会いを経てわりない仲となる新選組の鬼副長と商家の後家、お互い子供ではない・会っている時だけの仲と前置きしての、「大人の恋」はその後も続く。時勢は大きく回転し新選組が京を離れる日、土方は女に遊びだったのか・やはり世間のいう鬼だったのかと泣き縋られるが振り捨ててゆく。伏見に戦端が開かれ敗走するなか、土方は従僕に女への金品を託すが、戦の混乱のなか従僕は路傍に頓死し、真情を込めた「約束」の簪は届けられることなく冷たい雨に打たれる。
ロケ地
- 見知った長州の侍が緊張の面持ちで走り去るのを見るお房、八坂神社境内・絵馬堂前から本殿への石段を望むアングル。直後土方を襲い返り討ちに遭い、止めの刀にお房が割って入るシーンはセット、もろに作り物だが丁寧な仕事がしてある(設定は祇園さん境内)。
- 新選組屯所、京都御所管理事務所長屋門(後段、新選組が京を去るシーンでも出てくる。はじめのは池田屋直後だから壬生、後のは不動堂村の筈なんだけど気ニシナイ)。
- 日之岡番所、不明(小さな門の脇に蔵、左手に長い塀、門から見返る風景には萱葺民家があって遠景は谷地田。八木町諸畑の政徳寺に似る)。
- 二人の「初めて」の場所となり以降も逢瀬の場となる蹴上の茶屋はセットなれど、作りこまれたしつらえが目を惹く。設定は南禅寺境内に続くと劇中語られるが、池泉がいかにも東山付近にいまある別荘ふうでよい雰囲気。
- デートの最中呼ばれた土方が、近藤とともに二条城を下がってくる道、二条城堀端と思われるが、石垣低すぎで断定に至らず。
- 伏見の戦の野面等はセットと思われるが、近年作られた幕末ものの「鳥羽伏見」と違いモブシーンも凝っていて良し。
*土方の性格設定は傍目は規律にうるさい鬼副長、しかし内面はナイーブという最近では珍しくないものだが、これを描くのに平隊士の処断や山南総長断罪を持ってくる。女の子といちゃついてて役目をしくじり切腹となる平隊士に里見浩太朗、山南は岡田英次でなかなかに見せる。近藤勇の月形龍之介も「型」をよくつとめいい感じ。御大演じる土方のなりは総髪の切り下げ髪、お年召しすぎかもの千恵蔵土方をちょっと若く見せている。隊服は白基調の浅葱ダンダラ。里見の父に志村喬が配され、土方が恨み言を黙って聞くシーンがあり秀逸。ラストの土方は東帰の船上、江戸での再戦を期し暗いけどやる気満々、でもそっとお房の名を呟いてみる演出が心憎い。
*お房に入ってくる情報は、店を手伝っている妹の亭主が町の噂を聞き込んでくる設定で、これがなかなかに利いている。後家さんの火遊びに終わる哀しい恋が、一方のテーマにもなる脚本は素晴らしい。
*東映時代劇の旗手である松田監督が作った、勧善懲悪のラス立ちがない「明るく楽しい東映明朗活劇」とは毛色の違う貴重な一作。新選組ものとしても異色、沖田総司が出ていたこともあとでクレジットを見直して気付いた。
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