中島貞夫監督作品 1972.9.14東映 菅原文太主演作品
間引き女を諌めた紋次郎が思い出すのは、自分のそれを止めてくれた姉。彼女との再会は、暖かな記憶を消し去り、新たなる宿業を積み重ねる結果となる。監督をして「暗くてゴメン」と言わしめる暗澹たるドラマが展開され、出生に関わる紋次郎のトラウマもびしばし出てくる。
ロケ地
・街道をゆく紋次郎(尾行者あり)、林道か。続いて逃げ回る桑畑は琵琶湖流入河川畔か(背景の山が三上山に似る)。草鞋をなおすふりをして走り出す、地蔵のある地道は北嵯峨農地・竹林際。下に潜んで追っ手をやり過ごす橋、不明(木の小橋)。
・逃げおおせたあと出る河原、大堰川か(うなだれる子らが汀に、間引きの家が河原の草地に/後に村人の総意で火をかけられ炎上)。
・紋次郎の回想、幼い姉が赤子の紋次郎を見せて歩く祭礼の鎮守(抱かれている赤子目線なので参道林の頂部しか映らず)、不明。紋次郎をおぶい子守唄を歌う姉、夕ざれの橋、不明(欄干のない木橋、先に出たものと同じか)。
・刺客とやりあうタイトルロールの「道」は大堰川堤か。
・国定の賭場が立つ妙義山法円寺、丹波国分寺(山門に「国定」の提灯あしらい)。後で金蔵たちが押しかけてくる段では前の道にはさ木が見える)。
・田丸屋の飯盛女・お光の話を聞いた紋次郎の回想、食いものを盗み里人にボコられる紋次郎を庇ってくれた姉、大堰川河川敷(粗い礫)。
・鎮守で野宿していた紋次郎を襲う金蔵たち、鳥居本八幡宮舞殿。紋次郎は裏山へ駆け上がり逃走。
・無宿人狩りで捕まる街道、不明(林道)。
・同じ牢にぶち込まれていた渡世人に行く先を聞かれる渡し場、湖畔か河原か。
・常平が紋次郎と名乗り箱田の貸元を斬る玉村宿の夜道、民家南塀際。
・国定一家の賭場で常平と会った紋次郎が、やっと作った百両を姉に届けてくれるよう頼む塀際、丹波国分寺塀際。
・国定一家を辞した紋次郎を馬で呼び戻しに来る道、北嵯峨農地・竹林際。
・玉村宿へ急ぐ紋次郎を見つけ注進に走る見張り、大堰川河川敷。是より玉村宿と道標のある、草鞋を締め直す街道は大堰川堤か。
・「姉の店」の裏に広がる桑畑、冒頭のそれと同所か(ラス立ち)。
・金蔵の呪詛が響く、紋次郎が当地を去る街道、不明(小丘の切り通しか、両に地蔵あしらい)。
・姉・お光は玉村宿の飯盛女、常平が紋次郎に宛がう。登場時はただ下品なだけだが、紋次郎が弟と知ってからが凄い。彼女が吐くあの時助けねばよかったの言辞は、ある意味金蔵の呪詛よりガンガン来る感じ。下瀧の親分に示唆され紋次郎を呼び出し「店」へ誘い込むくだりは鬼気迫る。最後まで下瀧の親分に擦り寄ってゆくあたりもコワい。
・お光は市原悦子、彼女が仕込んだと称する若手のお駒は中村英子で遊女ながら清楚な印象。これに惚れて居続けの常平が田中邦衛で、紋次郎に心酔設定。お駒に言い寄るも邪慳にされている客は月亭可朝、常平が殺されるのを目撃しお駒を国定の貸元まで送ってゆく役割もつとめる。国定の貸元は待田京介。
・悪役陣筆頭、紋次郎を追い続ける執念の男・今市の金蔵は山本麟一、斬られて吐く呪いの言葉が怖すぎ。お光を使って紋次郎を味方に引き込もうとして恥をかかされる形の下瀧の巳之吉は大木実、ねちっこい手下は汐路章。下瀧の親分があまりに紋次郎を悪し様に罵るので、常平が代わって殺す相手の箱田の六兵衛は伊達三郎。
・チョイ役ながら存在感のある、紋次郎が百両達成の賭け事の相手は名和宏。無宿人狩りでブチ込まれた牢で紋次郎と一緒になった渡世人に平沢彰と西田良、後者は渡し場で紋次郎に行く先を聞きどっちにつくか決めようとする。福ちゃんは二態、国定の貸元の賭場の中盆(一人だけなんかきょろきょろあたりを見回していて目立つ)と、ラス立ちで市原悦子が斬られた直後くらいに出てくる。
*2007年10月10日放送・KBS京都「中島貞夫の邦画指定席」で視聴。以下、中島監督談。
・関わりあいを断ち切ろうとする人間の内面は如何に、がテーマ。
・紋次郎が戦うのは生き延びるためのものなので、要なき場合は戦いを避ける点に着目。
・紋次郎のコスチュームのこだわり/縞の合羽に三度笠は時代劇のお決まり、錦兄ィや橋蔵、御大が着た合羽の丈は膝上で、足を長く見せるための工夫。しかし本来の合羽は膝下が理に適うし文太ならサマになるとして脛だけ出すスタイルに。常に真新しいのが常識だった笠も、風雪を経た感じに演出された。
参考 木枯し紋次郎(菅原文太)
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