加藤泰監督作品 1960.10.30東映
紗翁の名作を翻案した作品で、舞台は戦国期の瀬戸内。民のため理想を求め明に留学していた王見城の跡継ぎ・正人は、帰った途端父の死と母の不義を知らされる。父の死に秘密があると覚った正人は以降狂態を装い、仇である簒奪者の叔父に復讐する機会を窺うことに。人間関係の大筋は原作通りに話が進み、正人の苦悩がひとしきり描かれたあと、落城の炎のなか復讐が果たされるのだった。
ロケ地
- 王見城へ正人帰還を知らせる早馬が走る海辺の道、不明(巌が突き出す砂浜、本物の海っぽい)。渡る橋、不明(低い欄干の木橋、川は下流部の模様)。駆け入る城門は東映城か。
- 城の侍たちが正人帰還を喜び噂するくだり、弓の稽古をする若者たちの背景に来る天守は彦根城。
- 小船で上陸した正人にこっそり留学中に起こったことを告げる多治見庄司、不明(岩がちの浜、背後の断崖に褶曲)。沖の船イメージはミニチュアか。
- 父の死因を究明するため、城に入らずじいの一色を訪ねると案内される墓、不明(海崖の端っこに墓石あしらい)。
- 祐吾が妹の雪野に正人が心変わりしていないかと冗談を言う城内、彦根城天守下城壁際・遠景に湖や山なみ。
- 先代に仕えた重臣・相楽の死を息子の宗恵に聞かされる村、不明(野原にセット?)。師景の圧制に怒った民衆が集まっている鎮守、不明(セットくさい感じ)。
- 捕えられ処刑される一揆首謀者たち、東尋坊に似た派手な海崖。助けに馬で駆けつける正人のシーンは別撮りか(山道?)。
- 六角直之進を斬った正人を追う侍たち、庄司が出て防ぎ逃がす城門は彦根城天秤櫓。
- 倭寇の島、不明(海蝕洞の開いてない円月島というかひょうたん島というか/イメージ映像)。
- 六角家の菩提寺、曼殊院。正人への復讐に燃える祐吾が勅使門を駆け上がり、門内で玄道和尚と話し父の墓へ。墓で雪野と言い争うがここはセット撮り。城下で正人を見たと知らせが来て走ってゆく祐吾は勅使門下の石垣際を北へ、知らせに来た兵は西の茶店のほうへ消える。
- 入水する雪野、不明(寄った絵の足元は琵琶湖っぽい穏やかな波、シルエットの遠景は本物の海っぽい)。
王見正人は大川橋蔵、「デンマークの王子・ハムレット」を熱演。けっこう原作を丁寧になぞってあるので、気分の浮き沈みの激しさが見せ所。瞳の演技が光る狂態も素晴らしいが、おどけた愛嬌も持ち味で、鬱々と苦悩する姿は言うまでもない。雪野は三田佳子、入水はあるが正気を失う場面はない(オフィーリア)。母・時子は高峰三枝子、祐吾との立ち合いの餞の盃に毒と気付き止めに入るのは微妙に原作沿い、しかし息子を庇って撃たれるへんはしっかり日本の時代劇(ガートルード)。前城主の父を殺し母を奪った叔父・王見師景は大河内伝次郎、スキンヘッドに憎さげな髭面のビジュアルがハマり(クローディアス)。ただ一人狂態が芝居と知る忠臣・多治見庄司は黒川弥太郎(ホレイシオ)。現城主の腹心(家老?)・六角直之進は薄田研二(ポローニアス)、倅の六角祐吾は伊沢一郎(レアティーズ)。退隠直後殺された前城主の忠臣の倅で、侍に嫌気がさし百姓となっていて一揆を指導する相楽宗恵は坂東吉弥(フォーティンブラス?)。亡霊として出てくる前城主にして「ハムレットの父」は明石潮。
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